臨床泌尿器科 69巻8号 (2015年7月)

特集 抗菌薬の選択と上手な使い方!—私の処方箋

企画にあたって 山本 新吾
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 1980年代にMRSAが蔓延して以降,この四半世紀に医療現場では院内感染対策もかなり進化してきているが,現在でもさまざまな多剤耐性菌がいまだに問題となっている。

 単純性膀胱炎は治療しやすい疾患の1つであったが,それは過去の話であり,現在ではキノロン耐性菌,ESBL産生菌などの出現により,およそ10〜15%の症例において抗菌薬が無効となっている。淋菌性尿道炎においても一般的な経口抗菌薬での対応は困難で,点滴抗菌薬が唯一の確実な治療法と考えられている。さらに,諸外国ではすでにアジスロマイシン耐性,セフトリアキソン耐性などの報告もされ始めている。

急性単純性膀胱炎 速見 浩士
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要旨 急性単純性膀胱炎は性的活動期の女性に多く発症し,治療薬としてキノロン系薬,セフェム系薬が推奨される。閉経前と閉経後の女性では原因菌の分布と薬剤感受性パターンが異なること,妊婦では腎盂腎炎を発症するリスクと胎児への影響などそれぞれの患者背景を理解しなければならない。また,原因菌として最も高頻度のEscherichia coliでは,10%前後でセフェム系薬やキノロン系薬に耐性,約5%は基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生株であり,薬剤耐性菌の増加傾向を認識する必要がある。したがって,急性単純性膀胱炎の治療では患者背景と原因菌の薬剤感受性を考慮し,最も適切な抗菌薬を選択する。

反復性・難治性膀胱炎 栗村 雄一郎
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要旨 反復性膀胱炎は6か月に2回以上または1年に3回以上の再発と定義され,bacterial persistenceとreinfectionの2タイプに分けられる。危険因子として若い女性では性交が,閉経後の女性ではエストロゲン減少が重要である。抗菌薬を使用した予防法として,①低量予防投与法,②性交後予防投与法,③セルフスタート療法などがあり,抗菌薬以外ではクランベリージュース,免疫活性療法などが報告されている。難治性膀胱炎では,抗菌薬感受性の再確認と性器感染症も含めた他疾患の除外診断が必要である。

急性単純性腎盂腎炎 石川 清仁
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要旨 急性単純性腎盂腎炎の治療は症例ごとに重症度判定と予後を予想し,治療には適切な抗菌薬の選択と泌尿器科的処置の必要性を判断することが求められる。原因菌の70%以上が大腸菌であるため,腎排泄型のグラム陰性桿菌に抗菌活性を示す抗菌薬を投与すべきである。外来治療が可能な症例では,経口キノロン系薬やセファロスポリン系薬が推奨される。臨床効果を高める目的で,治療開始時に注射用抗菌薬の単回追加投与も考慮される。入院が必要な症例では,初期治療の有効性を担保するため,empirical therapyに広域抗菌薬を選択するが,原因菌が同定されたら狭域抗菌薬にde-escalationし,症状寛解後24時間を目処に経口抗菌薬に切り替え,合計で14日間投与するのが一般的である。

重症尿路感染症 和田 耕一郎
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要旨 尿路感染症のうち,尿路通過障害の存在や宿主の状態によっては血中に原因菌が移行して尿性敗血症(ウロセプシス:urosepsis)となり,重症尿路感染症として抗菌化学療法や全身管理,症例に応じて外科的治療を行う必要がある。抗菌化学療法においては,抗菌薬の投与前に尿や血液の細菌学的検査を施行し,すみやかに各病態に応じて推定される原因菌に対し広域スペクトラムの抗菌薬を用いたempiric therapyを開始する。細菌学的検査,薬剤感受性試験の結果に応じて狭いスペクトラムの抗菌薬にde-escalationするdefinitive therapyを心がける。

慢性前立腺炎 上原 慎也
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要旨 慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群は,骨盤部の疼痛を主症状とする症候群であり,その病因は多岐にわたる。過去,抗菌薬を含む多くの治療法が試みられてきたが,標準的な治療法は確立されていない。単独の治療法では高い効果が認められないことから,近年,本疾患を6つのphenotypeに分類し(UPOINT system),症状の強いdomainに対応する治療法を組み合わせるmultimodal therapyが注目されており,今後の展開が期待される。

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要旨 尿路感染症領域において,無症候性細菌尿ならびにカテーテル関連尿路感染症に対しての治療法に関してはほぼ一定の見解は得られてはいるものの,それが必ずしも浸透しているとは言い難い。一般的には症状を有さない場合は治療の適応ではないことが多いが,例えば妊婦の無症候性細菌尿においては治療の適応とする場合が多いといった例外もある。またカテーテル関連尿路感染症に関しても通常の尿路感染症との原因菌ならびに治療法における違いなどについても,整理と理解が必要である。それらの特色について最新のガイドラインも含め紹介する。

小児の尿路感染症 兼松 明弘
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要旨 小児の尿路感染には成人とは異なる問題点が多い。乳幼児期早期では,尿採取と検査法の標準化が重要で,上部尿路感染の局在診断には腎静態シンチグラムが有用である。有熱性尿路感染(fUTI)に対して年長児では経口・注射薬のいずれも選択となるが,乳児期早期は注射薬が必須である。基礎疾患として膀胱尿管逆流(VUR)が重要であるが,自然軽快までの保存的治療で予防抗菌薬投与が行われる。VURは唯一のfUTIのリスク因子ではなく,排尿排便障害や包茎の関与も近年強調されている。小児の無熱性尿路感染は,昼間尿失禁の背景となる。小児の精巣上体炎は精巣捻転との鑑別が重要だが,必ずしも尿路感染症とはいえない。

淋菌性尿道炎 濵砂 良一
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要旨 近年,淋菌は数多くの抗菌薬に対して耐性となっている。クラミジアにも有効なニューキノロン,テトラサイクリンの耐性率は高く,アジスロマイシンの耐性率も上昇している。耐性淋菌の中で最も重大なものはセファロスポリン耐性である。セフトリアキソンは淋菌に対して最も強い抗菌力を持ち,各国の淋菌感染症に対するガイドラインでは第一選択薬となっている。今後の耐性菌出現に対して厳重なモニターする必要がある。また,性器淋菌感染症患者の咽頭から,同時に淋菌が検出される割合が高い。さらに,咽頭から耐性菌が検出されることが多いため,淋菌性尿道炎患者に対して,咽頭感染にも有効な治療薬を,十分量投与する必要がある。わが国ではセフトリアキソン1g(点滴)静注が推奨される。

非淋菌性尿道炎 髙橋 聡
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要旨 非淋菌性尿道炎の主要な原因微生物はクラミジア・トラコマティスであり,治療としては,マクロライド系,フルオロキノロン系,テトラサイクリン系抗菌薬の一部が有効である。いずれの推奨抗菌薬も同等の効果であり,選択肢は豊富である。しかし,近年,マイコプラズマ・ジェニタリウムが非淋菌性尿道炎の原因微生物として確立され,クラミジア・トラコマティスに対する推奨抗菌薬が有効ではない場合も報告されている。頻度は高くはないものの,マイコプラズマ・ジェニタリウムが原因である場合も想定して,アジスロマイシン,そして,無効例にシタフロキサシンという投与法が,現状では最適と考えられる。

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要旨 前立腺生検のアプローチ法には経直腸的と経会陰的があるが,全世界的には経直腸的生検が大半を占めている。両者は直腸を経由するか否かで大きく異なり,前処置や予防抗菌薬の投与方法に関しては,区別して対応すべきである。

 近年,経直腸的生検後のキノロン耐性菌による感染率増加の問題が深刻化している。経直腸的生検前に腸内細菌群の感受性検査を行うことで検査後の感染率が減少したとする報告が散見され,今後主流となる可能性がある。前立腺への移行が優れているキノロン系抗菌薬をいかにして使用するかが重要である。また,検査後に発熱が生じた際には,すみやかに各種培養検査を行った後に広域スペクトラムな抗菌薬を投与すべきである。

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要旨 泌尿器科領域にて種々の外来検査や処置に伴う感染を予防するため,抗菌薬が投与されている。しかし,その投与のタイミングや経路,期間など投与法は施設によりさまざまであり,いまだ経験や習慣で使用されているのが現状である。近年,薬剤耐性菌の増加が深刻化する中で,耐性菌誘導を避けるため予防抗菌薬の必要性を含めた選択および投与期間は重要な課題である。本邦では2006年「泌尿器科領域における周術期感染予防ガイドライン」が発表されたが,欧米と比較して,抗菌薬の投与期間はやや長めに設定されていた。本年ガイドラインが改訂されるにあたり,外来で日常的に施行されている検査や処置に対する予防抗菌薬投与について再考する。

知っていると役立つ泌尿器病理・40

症例:20代・女性 浦野 誠 , 黒田 誠
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症例:20代・女性

 左腰背部痛を主訴に受診。超音波検査で左水腎症が疑われ,CTでは腎上極〜中部に腫瘍が認められた。図1は左腎腫瘍の肉眼像で,図2〜4はその代表的な組織像である。

 1.肉眼像から推定される診断を述べよ。

 2.病理診断はなにか。

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 前立腺肥大症は中高齢の男性に多発する疾患である。泌尿器科医にとっては最もなじみ深い疾患であり,一般社会からも最も泌尿器科的な疾患と考えられているだろう。それ故に,前立腺肥大症については診療レベルを常にUpdateしておく必要がある。この度出版された「前立腺肥大症日常診療マニュアル」は,その目的に最適な本である。

 本誌は,この分野の世界的大家であるKirby博士とGilling博士による,その名もズバリBenign Prostatic Hyperplasiaという本の翻訳である。初版は2001年であり,この度の出版は,原著は第7版,日本語誌としては改訂第3版となる。原作の特徴は,いわゆるアメリカ的というか,とにかく内容や書き方が実践的であることであろう。それを訳したこのマニュアルにもその特徴が生きていることは当然であるが,単なる翻訳本ではないことにも注目すべきであろう。訳者の勝岡洋治博士による日本語がこなれているというだけでなく,わが国の諸学会が出している各種のガイドラインや用語集を尊重して,日本人により使いやすくなるような工夫が随所になされている。

交見室

なぜ続く論文不正 勝岡 洋治
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 昨今,科学論文の不正問題が取りざたされている。世紀の大発見として注目を浴びたSTAP細胞作成に関する論文は,データの改ざんを行ったとして,筆頭著者を含む関係者の不正行為が断罪された。また,某国立大学の基礎研究室より国際的に評価の高い一流雑誌に投稿され掲載済の論文の数編に改ざんの疑惑がもたれている。そのほかにも有数の研究施設からの投稿論文に捏造,改ざん,盗用の疑念が生じているものがあると報道されている。そうした論文の不正が次々に行われる背景について,識者のコメントが紹介されているが,一様に多くの研究者が研究費を獲得のためのプレッシャーを受けているとためと解説している。今日の研究は大型化,高度化しており1人でできるものではなく,それぞれの専門分野の人たちが参加しているので,ハイテク機器や機材の購入に加えて人件費などの費用が嵩む。昨今の外部資金の導入に関する不祥事として,降圧剤の臨床治験の成績に不正行為があり,治験に参加した複数の大学病院が摘発されている。これらの施設には多額の研究費が薬品メーカーから支給されていたことが明るみに出た。

 また,研究成果を上げることにより身分保障と昇格につなげようとの意思が働いていることも否めない事実であろう。特に若い研究者は身分が不安定であり,生涯にわたる生活保障がない。1日も早く,研究結果をまとめ,斯界より高い評価を得たいとする逸る気持が,コピー・ペーストや加工に手を染める要因と思われる。さらには,産学官共同や医工連携の研究分野では特許取得のために非公開で研究が行われている場合が多く,データの改ざんを見抜けない。

学会印象記

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 第30回欧州泌尿器科学会会議(30th Annual Congress of EAU)が,2015年3月20〜24日の5日間,スペインのマドリードで開催されました。私たちの教室は,学会活動として本学会を最も重要なものととらえ,毎年,多くの教室員が参加,発表していますが,私は残念ながらこの学会にずっと縁がなく,51歳で念願の初参加となりました。全体の印象として,米国泌尿器科学会(AUA)と比べると,Non-native English speakerに優しい学会であると感じました。AUAと異なり,質問も早口なアメリカ英語ではなく,また理解できないときもわかりやすく言い換えてくれるなど,英語発表のストレスは随分小さいものでした。

 さて,私の専門はOncologyですので,その分野に偏ってしまいますが,私が個人的に感じた学会のトピックスをいくつか述べさせていただきます。まず,根治的腎摘除(RN)の復権の風(?)を感じました。現在,小径腎腫瘍の標準的手術は,RNではなく腎部分切除(PN)になっていますが,ご存じのように,RNとPNの生存率を比較した,現在までに施行された唯一の前向き試験(EORTC)では,RNの全生存率がむしろよいという結果でした。それでもPNが推奨されていますが,今回の学会では「RNでもよいのではないか」ということを示唆する発表が複数ありました。少し例を挙げますと,#105 Comparison of long-term renal function outcomes after either partial or radical nephrectomy(SEER-Medicareデータベース):T1b腫瘍では,術後の腎機能はRNとPNと同様であった,#106 Partial nephrectomy does not improve cardio-specific survival in patients with localized renal cell carcinoma(ロシア):中央値50か月の経過観察で,PNはRNと比べ心血管死を減らさなかった,#107 Nephron-sparing surgery protects from chronic kidney disease relative to radical nephrectomy but does not impact on other-causes mortality:Long-term(more than 10 years)survival and functional outcomes in patients with a T1a-T1b renal mass(イタリアの共同研究):T1a-T1b腫瘍では,PNはRNに比べ術後の腎機能を温存するが,他因死には影響はなかった(差はなかった),といったものです。私たちも,#112 Progression of hypertension after partial nephrectomy in Japanese patients with renal tumors:RNと比べPNでは術後の高血圧の発症/進行が多いという発表でこの風(?)に乗らせていただきました。私個人として,まだPNの優位性を信じておりますが,今後PN/RNの適応について,現在とは少し異なった方向に進むのかもしれません。

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 第30回欧州泌尿器科学会会議(30th Annual Congress of EAU)が2015年3月20〜24日の5日間,スペインのマドリードで開催されました。当教室の中川昌之教授に同行させていただき,鹿児島空港から伊丹空港,関西国際空港からローマを経由し,マドリードへ向かいました。私は今回が国際学会デビューで,また海外への渡航経験も少なく,かなり不安な旅程でしたが,中川教授のおかげでスムーズにマドリードまで到達することができました。

 マドリードは人口約325万人で,ヨーロッパでは第5位の規模を誇る都市です。地下鉄が比較的発達している都市で,学会参加者には5日間の地下鉄フリーパスが配られたため,交通は非常に便利でした。しかし,スリや置き引きといった軽犯罪が非常に多い地域と言われており,かなり気構えていましたが,2020年の夏季オリンピック招致のため警察による取り締まりが強化されたおかげで,そういった犯罪はだいぶ減少したそうです(オリンピック招致は成功しませんでしたが…)。

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次号予告

編集後記 大家 基嗣
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 まだ1年が過ぎたばかりなのに巷ではW杯の予選をどう戦うかという話題に接する機会が多くなりました。ブラジルでのW杯は残念な結果でしたが,昨年のちょうど今頃,日本中がテレビにかじりついて試合を観戦し,試合結果に一喜一憂していました。そのときにおそらく皆様の耳に焼きついた楽曲があったのを覚えていらっしゃるでしょうか? 『NIPPON』という曲です。

 「東京事変」を解散して,ソロで活動を再会された椎名林檎さんがNHKサッカー放送のテーマソングとして依頼されて作曲した曲です。発表時には歌詞の一部が右寄りではないかと物議を醸したので記憶されている方も多いかもしれません。昨年の11月に『NIPPON』を含む全13曲からなるアルバムが発表されましたが,タイトルは『日出処』ですので,本人は全く意に介されてないようです。

基本情報

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臨床泌尿器科
69巻8号 (2015年7月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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