病院 80巻6号 (2021年6月)

特集 超高齢時代のリハビリテーション評価

総論 リハビリテーションの評価

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■はじめに

 日本における高齢化は急速に進んでおり,2019年の高齢化率は28.4%にまで上昇し,今後も2030年に30%,2050年に37.7%に上ると推計されている1).こうした社会背景から2000年に掲げられた「健康日本21」では高齢者の健康寿命の延伸および生活の質(QOL:Quality of Life)の向上が目標となっている.一方,高齢化率の上昇とともに要介護者も増加しつつあり,医療のみならず介護領域でも重要な役割を担うリハビリテーション医療の重要性はますます増している.さらに近年の高齢化率の上昇は,多様な疾病構造に伴ってさまざまな障害を多重に抱える患者の増加をもたらし,リハビリテーション医療が直面すべき課題となっている2).しかしながら,これらの課題を客観的に捉えるリハビリテーション評価が十分に確立されていないことも事実である.

 本稿では,現代の日本の超高齢社会において求められるリハビリテーション評価の在り方について,その方向性を考えてみたい.

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■はじめに

 超高齢社会においては,急性期・回復期・慢性期に関係なく,リハビリテーションを必要とする患者が増加する.また,リハビリテーションについては漫然とそれを行うのではなく,効果のある介入を促進する目的で質の評価を行うことも求められる.こうした問題意識から,これまでの診療報酬改定ではリハビリテーションの実施に関する評価項目が増やされてきた.効果のあるリハビリテーションを評価するという視点から,例えば回復期リハビリテーション病棟においては機能改善というアウトカムと診療報酬の紐づけが行われてきた.しかしながら,この評価が導入された2016年から入棟時のFIM得点が低下し,FIM利得が大幅に増加するという事象が生じており,いわゆるクリームスキミングが行われた可能性が指摘された.これを受けて2020年度診療報酬改定ではFIM利得による評価が厳しくなった.

 また,疾患別リハビリテーション対象患者については,一定の要件を満たす患者以外は,その継続ができなくなっている.具体的には要介護被保険者などの外来維持期リハビリテーションが2019年3月末で廃止された.これについて,要介護高齢者やその診療に当たってきた医師らから,対象者の生活機能が低下するのではないかという危惧が出されている.この背景には,厳しい社会保障財政の中,リハビリテーションにsupply side induced demand(供給側によって作り出される需要)があり,それが出来高払い制度の下では過剰なサービス提供につながっているのではないかという支払い側の批判がある.加えて,リハビリテーションが医療保険と介護保険とにまたがることから,維持期リハビリテーションについては,高齢者の自立支援を目的とした介護保険で手当てすることが自然であるという意見もある.

 しかしながら,利用者である患者の側から考えると,リハビリテーションの連続性が必ずしも保障されていない現状には不満や疑問が残る.社会保障財政の状況が厳しい以上,制度を維持するためには,将来的に今以上の保険料あるいは税金を投入することが不可避となる.その際,国民が納得して負担を引き受けるためには,サービスの内容が質も含めて評価されることを前提に可視化されていることが必要となる.こうした可視化を進めるためには,リハビリテーション医療の情報化がカギとなる.

 本稿では,上記の問題意識に基づいてリハビリテーション医療の評価の現状と今後の方向性について私見を述べたい.

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■はじめに

 アウトカム(帰結)評価を論じる際,二つの方向が考えられる.一つは,アウトカムを何で捉えるべきかという議論であり,もう一つは,アウトカム評価が現場でどう用いられるかである.前者は研究的側面の色も濃く,後者は医療施策とも関連してくる.

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■はじめに

 超高齢時代になり,心身機能の低下を来す高齢者は急速に増えつつあり,包括的なリハビリテーションニーズは確実に増加している.リハビリテーション医療は急性期,回復期,生活期(維持期)に分けられ,それぞれの役割や目的は異なる(図1)1)

 医療制度改革が進む昨今,急性期では在院日数削減が,回復期では急性期からのできるだけ早い受け入れが求められている.そのため,回復期では全身状態が不安定な患者の受け入れ機会が増えており,今後もその傾向は継続するものと思われる.回復期病院では受け入れ患者の詳細な情報収集が重要であり,患者の状態悪化の際には急性期病院への逆紹介を考える必要がある.ゆえに,回復期病院と急性期病院が密な連携を構築しておくことが重要である.

 回復期において,機能的目標の達成が近づくと,自宅退院が可能か否かの判断が必要になる.回復期病棟に入院した患者にはできる限り在宅生活を前提とした準備を進める.その際,介護保険利用を前提として退院前にサービス担当者会議を実施し,家庭訪問による家屋評価,評価をもとにした住宅改修や福祉用具の準備などを行うことが多い.

 本稿では回復期病院の立場から,急性期病院との連携,リハビリテーションゴール到達後の医療・介護の連携の意義や課題について概説する.

各論 医療の各フェーズにおけるリハビリテーションの現状と課題

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 現在,わが国では医療機関における機能分化が促進されており,急性期,回復期,慢性期における医療の適正化が進められている.この中で,急性期病院では,病床数の縮小と在院日数の短縮化が進められ早期の在宅復帰や回復期病院への移行が求められている.しかし一方では,社会の高齢化に伴い急性期病院においても,患者の高齢化や重症化が進みフレイルやサルコペニアなどリスクを持った患者も多くなり,さらに医療の高度化に伴い治療の高侵襲化も進んでおり,合併症や身体機能低下のリスクも高くなっている.つまり,急性期病院では,高齢者やリスクを持った重篤疾患患者に対し高侵襲治療を実施し,しかも合併症を予防し身体機能を維持していかなければならず,このため早期からのリハビリテーション医療の提供が不可欠となっている.

 一方,脳血管障害をはじめとした身体機能が障害される疾患に対するリハビリテーション医療では,回復期での集中したリハビリテーション治療が重要となる.しかし,急性期におけるリハビリテーション治療が,長期的な身体機能の予後に影響することも明らかになっている.つまり,脳血管障害などの身体機能障害を伴う疾患に対するリハビリテーション医療では,患者の機能的予後を改善するためには,急性期から回復期にかけて一貫したリハビリテーション治療が必要であり,急性期病院における早期のリハビリテーション治療も重要となる.

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■はじめに

 2000年に特定入院料として導入された回復期リハビリテーション(以下,回リハ)病棟の病床数は2020年には9万床を超え,費やされる年間医療費も1兆円に到達し,国民医療費の2%強を占める(図1)1,2).まさに日本のリハビリーション(以下,リハ)医療のコア部分であるといえる.同病棟設立の背景は,脳卒中や骨折などに対する急性期治療後に日常生活動作(ADL)が低下した患者に対して集中的にリハ医療資源を投入し,同時期に施行された介護保険適用前に要介護度を軽減して在宅復帰を目指す「リハ前置主義」という考え方である.それを実現するために,療法士による高単位リハ提供に加えて,質の高いチーム医療のための専門職配置が入院料の要件となっている.医師による再発・合併症管理とチーム医療のナビゲーション,看護・介護職によるケアや活動性の向上,社会福祉士による在宅復帰支援や社会資源の活用,管理栄養士による栄養管理などである.その成果としてのADL改善や在宅復帰といったアウトカムも入院料要件となっている.

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■はじめに

 内田病院を含む大誠会グループ(以下,当グループ)は,群馬県沼田市にあり,医療法人大誠会と社会福祉法人久仁会を中心とした医療・介護・福祉を一体的に提供している.沼田市が属する二次医療圏域は,人口7万8千人,高齢化率36.4%で,群馬県内でも特に人口減少および高齢化の進展が早い地域である(群馬県統計情報システム,2019年10月1日時点).そのような地域の中で,当グループは高齢者,特に認知症を有する人への地域医療に携わってきた.グループの中核を担うのが内田病院(以下,当院)であり,総病床数は99床で,内訳は地域包括ケア病棟16床,障害者施設等一般病棟(障害者病棟)33床,回復期リハビリテーション(リハビリ)病棟50床である.また,2010年から群馬県より委託を受け,群馬県認知症疾患医療センターとなっている.

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 慢性期医療におけるリハビリテーションは,急性期以降に行われる全てのリハビリテーションを包含している.具体的な機能としては,回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟,介護老人保健施設などの施設系と,外来や通所リハビリテーション,訪問リハビリテーションなどの在宅系とがある.それぞれの機能については他稿で論じられるため,本稿では慢性期リハビリテーション全体の課題について述べたい.

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■介護老人保健施設の機能と求められる評価指標

 介護老人保健施設(以下,老健施設)とは,リハビリテーション(以下,リハビリ),食事・排泄・入浴・就寝・健康管理などの日常生活の介護を通して,自宅での生活に復帰できることを目標にする施設である1).このため週2回の個別リハビリが必須で,施設類型が在宅強化型以上の老健施設では週3回以上の個別リハビリが行われている.これに加え,入所後3カ月はさらに短期集中リハビリ,および認知症短期集中リハビリがある.また,いつでも日単位で入所できるショートステイがあり,ここでは毎日個別リハビリを受けることができる.さらに老健施設は,訪問リハビリ,通所リハビリ,前述のショートステイも提供できる.

 このように老健施設には充実したリハビリ環境があるため,本来利用者の生活機能の変化を2〜3カ月単位で把握できるような鋭敏なリハビリ指標が求められる2).また,老健施設の対象者は,心身機能のうち,身体機能のみ,認知機能のみ,に問題がある高齢者,あるいはどちらともに問題がある高齢者がおり,自立から寝たきり状態まで極めて幅が広い方が対象である.さらに障害の原因は,アルツハイマー型認知症のような精神疾患から,脳梗塞,糖尿病などさまざまな疾患が関係しており,疾患に依存しない評価の仕組みが求められる.

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■はじめに

 令和2年版厚生労働白書1)によると,日本国民の平均寿命は平成の30年間に約5歳伸び,2040年にかけて,男性の約4割が90歳まで,女性の2割が100歳まで生存すると見込まれ「人生100年時代」が射程圏内になってきた.健康寿命の延伸を図るとともに,ライフステージに応じてどのような働き方を選ぶか,就労以外の学びや社会参加などをどのように組み合わせていくかといった生き方の選択を支える環境準備が重要と述べられている.

 住み慣れた場所で,直接・間接的に「心身機能」「活動」「参加」のそれぞれにバランスよく働きかけることが求められる訪問リハビリテーションは,患者を生活者として捉え,家族のみでなく,その患者に関わる全ての人々がサービス提供の対象となる.とりわけ患者を生活者として在宅生活にソフトランディングさせることは重要な役割であり,地域の医療・介護資源を有効に活用することが必要で,地域創りへの参画も求められることが多い.

 2020(令和2)年度の診療報酬改定では,医療機能の分化・強化,連携と地域包括ケアシステムの推進として,在宅復帰等につながるよう質の高い在宅医療・訪問看護の確保や,他の医療機関等との連携,介護サービスとの連携・協働等が強化され,患者が安心・納得して退院し,早期に住み慣れた地域で療養や生活を継続できるための取り組みが推進された.2021(令和3)年度の介護報酬改定においても,退院(所)直後のリハビリテーションを充実させる観点から,退院(所)の日から起算して3カ月以内の患者に対しては,週12回まで算定が可能になるなど在宅医療・介護の推進を図るに当たって訪問リハビリテーションが担うべき役割は大きい.

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超高齢社会においては,全ての医療職にリハビリテーションに対する理解が求められるが,その道程には課題が山積している.

一方,日本のリハビリテーションはアジアにおいて指導的役割を発揮しつつある.

今後のリハビリテーションの課題と可能性を語る.

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要旨

【目的】本研究の目的は,急性期病院でリハビリを受けた患者の転院,退院した後の経過と実態を明らかにし,急性期病院におけるリハビリの役割を考察することである.

【方法】2016年4月1日〜2016年9月30日にリハビリが処方された654人を対象として自記式質問紙調査を実施し,有効回答数309通を統計学的に分析した.

【結果】当院からの転帰は自宅退院が249人(80.6%),転院は57人(18.4%)であった.転院群のうち70%以上がケアミックス型へ転院し,転院後は約60%が自宅退院していた.当院から直接自宅退院した群と転院群に分け比較した結果,入院期間,リハビリ日数,リハビリ開始時BI,退院時BIの項目で有意差を認めた.

【結論】急性期病院におけるリハビリでは,患者の多くは自宅退院することを見据えてリハビリを行い,各種サービスに関する情報を提供していく必要性が示唆された.

連載 これからの病院経営の考え方・1【新連載】

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◆はじめに:足利赤十字病院の紹介を兼ねて

 新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)のアウトブレイクがいつ収まるのか予見することができず,われわれ医療機関は出口の見えない中で,日々その対応に追われ,医療崩壊の危機にさらされている.都心部の病院では院内感染が4人部屋などの多床室で発生し,患者同士,医療従事者,家族・面会者へと濃厚接触感染が起こり,クラスター化している.第2波が収まっても中小の病院では相変わらず院内感染が続いている.院内感染の封じ込めはなかなか実行できずに,コロナ感染は一般の市民にも蔓延し,今,第3波に続く第4波の中にわれわれが居る.そして,その対策は混迷を極めている.

 そこで,院内のコロナ感染をどのように制御したらよいかという議論の中で,4人部屋を2人部屋にするとか,間仕切りとなるビニールカーテンの設置,換気や手洗いの徹底,消毒などのいろいろな感染防御策を立てて対応している病院が増えている.多くの病院はコロナ以前から経営難によって一部病棟を閉鎖していたが,コロナ感染が広まるにつれてさらに病棟閉鎖を推し進めざるを得ない状況下にある.日本の病院の8割方が以前より赤字経営を強いられている状況で,少子高齢化,地域医療構想,医師の働き方改革などの導入がさらに加速することが予想され,病院の経営面においては多くの課題が露呈してきた.

 足利赤十字病院(540床.以下,当院)はコロナ禍の中,重症なコロナ患者を受け入れ,通常の診療も続けつつ,病床稼働率を100%に維持している.当院はコロナ対応を見据えた,またコロナに強い病院としてマスコミ,医療雑誌などの取材が続いている.

 当院は2011年に全面新築移転し,旧病院の多床室から一般病床全室個室化を実現した(図1).全室個室化により,患者同士の接触による感染が起こりがたくなった.トイレやシャワー室の水まわりを外周部に設置したため,音と臭いの問題が解消された.個室化により消灯時間や面会時間制限が緩和された.患者と家族の行動容態の変化が見られるようになった.個室であるためプライバシーが保たれ,快適な療養環境が提供されていることから,患者のクレームは激減し,病院のいろいろなルールについても遵守してくれるようになり,われわれは医療に専念できるようになった.

 各病棟には陰圧個室を備え,コロナ患者に対応している.また,透析中のコロナ患者は陰圧個室で透析可能である.バックヤードの有効活用と,患者とスタッフ動線の完全分離,ICT・AI技術を導入しコンタクトレスを促進した非接触型ICチップによるセキュリティシステムを導入した(図2).そうすることにより人と物,非感染と感染,未使用と使用済器材などのそれぞれの動線分離・非交叉が可能となった.さらに感染ゾーンと非感染ゾーンの完全区割化にも成功した.このような病院設備の導入と全室個室化により感染制御の面から多くの有効性が実証され始めた(表1).今後,全室個室化について議論する際,療養環境としてのトータルベネフィットを考える時,コロナ感染をはじめとした感染防御やプライバシー・セキュリティの確保など全室個室化のメリットは非常に高いと考えている.日本の各地で病院の増改築,新病院の計画,設計,建築がなされている.その中で病床個室率の上昇が議論されている.個室化が病棟運営,感染対策,患者への快適な療養環境の提供など様々な面から与える影響について,広く議論していくことは重要であり,当院の例がその一助になれば幸いである.

 以上のような背景を踏まえて,コロナ禍の中で病院経営のあり方について,われわれは今一度考え直す時が来たのではないだろうか.本連載では並行して,当院の経営実績についても述べていきたい.

連載 医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・2

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1 暴言やクレームの背景事情・理由の確認と医療機関の見解の説明

 患者が医療機関の職員に対して暴言を吐いたりクレームを述べるケースには,(a)医療機関には何の落ち度もないのに言い掛かりをつけている場合と,(b)不適切な診療行為や対応があり患者の言い分にはそれなりの理由がある場合★1があります.

 いずれにせよ,まずは患者のクレームなどの背景事情や理由を確認し,(a)のケースでは,医療機関としては適切に対応しており,クレームを受ける理由がないことを明確に説明するべきでしょう.冒頭のケースでは,症状が改善しないことを患者が不満に思っていると医療機関側において「推測」していますが,患者の思いに真摯に耳を傾けるよう心掛けてください.薬を塗っても直ちに症状が改善しないなど診療内容に関わることであれば,時間をとって医師から丁寧に説明することで患者の理解や納得を得られることもあります.医師にとってみれば,「当たり前のこと」であり,手短に専門的な説明だけを行ってしまうことがあるかもしれませんが,そのような対応が患者に不満を与えることになりかねませんので,患者の理解力に応じて分かりやすい説明を心掛けることが肝要です.

連載 ケースレポート

地域医療構想と病院・41

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■はじめに

 新型コロナウイルス変異株の感染拡大により,地域医療をいかに維持し,それに対応していくかが喫緊の検討課題となっている.本稿執筆時点(2021年4月16日)で,大阪府の新型コロナウイルス感染症の陽性者は1日に1,000人を超え,そして重症者用ベッドの利用率が100%を超える状況となっている.大阪府知事からはコロナ対応病床の増床要請が出されているが,医療職確保の面などで対応が難しい状況となっている.広域での搬送の可能性についても検討が行われているが,変異株の感染力の強さを考慮すれば,早晩,他地域においても同様の感染拡大が起こることが予想されるため,受け入れ側としても慎重にならざるを得ないだろう.

 変異株については若年者での感染率が高いことが,すでに海外の報告で明らかになっていた.しかしながら,こうした情報が政策決定に十分に生かされていない.ここにわが国の問題点がある.若年者が媒介となって感染の広がりが生じていることを考えれば,今春の卒業旅行などについてはやはりそれを控えるよう国として強いメッセージを発するべきであったろう.また,教育現場における対応についても,科学的根拠に基づいた工夫がなされるべきであったと考える.ITを活用した働き方や学び方など,New normalを考えることが,1年前政府によって提案されていたはずであるが,期待通りの社会変革ができているとはいいがたい.

 世界で最も新型コロナウイルス対応に成功しているイスラエルでは,国防相・参謀総長の指揮下にある「アマン(国防軍情報局)」がその重要な役割を果たしている.アマンの本来業務は国内外の軍事情報の分析とそれに基づく戦略の策定である.今回の新型コロナウイルス感染流行に当たっては保健省によってコロナ情報知識国家センター(CNIKC)が設立されている.池田1)によると,この組織は「国内の感染者数その他の罹患情報,国外での対応状況,薬剤の有効性やワクチンの開発情報など,新型コロナにかかわるありとあらゆる情報を収集し分析し,その結果を日常的に発信して」おり,そこには,「多数の医師や研究者,技術者と並んで数百名規模のアマン要員が投入され,(中略)情報中枢機能を担うと同時に,アマンは軍の技術開発部門と保健省や国内各大学・研究機関など民生領域とを結ぶコーディネーター的な役割をはたし,検査方法や人工呼吸器の改善・量産に向けてのデータや成果を迅速かつ実効的に共有できる態勢を構築した」と紹介されている.

 わが国においても,関係者が日々大変な努力をされていることを筆者もよく知っている.しかしながら,そうした努力がより効果あるものになるための総括的なマネジメント体制が諸外国に比較すると弱いように思う.縦割り行政に象徴される組織構造上の弊害をなくさなければ,迅速な対応は難しい.

 変異株の流行などのために,依然施設の訪問ができない状況が続いているので,今回も前回,前々回に引き続き,これまでの筆者の研究成果などを踏まえながら,新型コロナウイルス感染症と地域医療構想について私見を述べたい.

連載 感染症新時代—病院はどう生き抜くか・9

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新型コロナウイルスの国内流行が始まった当初,「自分たち(の病院)は直接は関わらないだろう」と考えた医療関係者は少なくなかった.新しい感染症がどうなっていくのか見えにくいという理由もあったが,選べるのだとしたらできれば受け入れをせずにすませたい,困難要素を避けようというのは自然なリアクションである.しかし,「うちは診ない病院」とすることで生じるリスクがあるのも事実である.実際に症例が発生した際にどうするのかの体制が整わない,スタッフの意識が高まらない,知識のアップデートがされにくい.その結果として院内感染が起きたり,標準的な医療の提供や医療安全の確保が難しくなることがある.これは結核やHIV感染症の医療で経験していることである.

実際,自治体が受け入れ体制を作る際に初期から積極的に手を挙げた病院ばかりではない.本号では,初期から「発熱患者を受け入れる」「病院や患者を感染からも風評被害からも守る」体制を整え,さまざまな補助金を活用して「最終的には黒字」が見込まれる病院の経験を紹介する.

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目次

Book Review 新・栄養塾 西岡 心大

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次号予告

基本情報

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病院
80巻6号 (2021年6月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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