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■はじめに
新型コロナウイルス変異株の感染拡大により,地域医療をいかに維持し,それに対応していくかが喫緊の検討課題となっている.本稿執筆時点(2021年4月16日)で,大阪府の新型コロナウイルス感染症の陽性者は1日に1,000人を超え,そして重症者用ベッドの利用率が100%を超える状況となっている.大阪府知事からはコロナ対応病床の増床要請が出されているが,医療職確保の面などで対応が難しい状況となっている.広域での搬送の可能性についても検討が行われているが,変異株の感染力の強さを考慮すれば,早晩,他地域においても同様の感染拡大が起こることが予想されるため,受け入れ側としても慎重にならざるを得ないだろう.
変異株については若年者での感染率が高いことが,すでに海外の報告で明らかになっていた.しかしながら,こうした情報が政策決定に十分に生かされていない.ここにわが国の問題点がある.若年者が媒介となって感染の広がりが生じていることを考えれば,今春の卒業旅行などについてはやはりそれを控えるよう国として強いメッセージを発するべきであったろう.また,教育現場における対応についても,科学的根拠に基づいた工夫がなされるべきであったと考える.ITを活用した働き方や学び方など,New normalを考えることが,1年前政府によって提案されていたはずであるが,期待通りの社会変革ができているとはいいがたい.
世界で最も新型コロナウイルス対応に成功しているイスラエルでは,国防相・参謀総長の指揮下にある「アマン(国防軍情報局)」がその重要な役割を果たしている.アマンの本来業務は国内外の軍事情報の分析とそれに基づく戦略の策定である.今回の新型コロナウイルス感染流行に当たっては保健省によってコロナ情報知識国家センター(CNIKC)が設立されている.池田1)によると,この組織は「国内の感染者数その他の罹患情報,国外での対応状況,薬剤の有効性やワクチンの開発情報など,新型コロナにかかわるありとあらゆる情報を収集し分析し,その結果を日常的に発信して」おり,そこには,「多数の医師や研究者,技術者と並んで数百名規模のアマン要員が投入され,(中略)情報中枢機能を担うと同時に,アマンは軍の技術開発部門と保健省や国内各大学・研究機関など民生領域とを結ぶコーディネーター的な役割をはたし,検査方法や人工呼吸器の改善・量産に向けてのデータや成果を迅速かつ実効的に共有できる態勢を構築した」と紹介されている.
わが国においても,関係者が日々大変な努力をされていることを筆者もよく知っている.しかしながら,そうした努力がより効果あるものになるための総括的なマネジメント体制が諸外国に比較すると弱いように思う.縦割り行政に象徴される組織構造上の弊害をなくさなければ,迅速な対応は難しい.
変異株の流行などのために,依然施設の訪問ができない状況が続いているので,今回も前回,前々回に引き続き,これまでの筆者の研究成果などを踏まえながら,新型コロナウイルス感染症と地域医療構想について私見を述べたい.
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