病院 78巻2号 (2019年2月)

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2018年4月,新専門医制度が始動した.

医師の地域偏在・診療科偏在,総合診療専門医を巡る混乱など,課題は山積したままだ.

制度の目的は何だったのか,今後どうあるべきか.

発端となった厚生労働省検討会の座長を務め,自治医科大学学長として全国の地域医療を支えてきた髙久史麿氏が語る.

特集 病院医療に専門医制度は貢献するか

巻頭言 神野 正博
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 2018年4月に日本専門医機構による新専門医制度が開始された.その登録医の状況を見ると,東京集中や診療科間の偏在が顕著になったのではという意見も多い.新制度には以下のような疑問が残されている.

・2016年6月の見直し時に掲げた地域医療への配慮は果たしてかなえられたのだろうか?

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●今回の医療法・医師法改正は,医師偏在対策を目的とする.3つの柱があり,「医師の少ない地域での勤務を促す環境整備」「都道府県における体制整備」「外来医療機能の不足・偏在等への対策」である.個人へのインセンティブ付けを基本とするとともに,全体として機能するシステムづくりを志向した.

●また,医師の働き方改革も大きな課題の一つである.検討会では,実態を把握し,データとエビデンスに基づく議論を心がけた.現在,議論は終盤だが,本稿では重要な論点を列挙した.

●専門医制度については,国民の視点に立ち,地域医療の確保,具体的には医師の地域偏在・診療科偏在の是正という社会の要請にどう応えるのか,医療は社会的共通資本であるという認識で議論を進めてほしい.

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●医師の地域偏在,診療科偏在は古くからある社会問題であり,簡単な解決策は存在しない.

●平成30年第1期の専門専攻医の動向を見る限り,都市部,それも東京への集中が見られ,地域偏在の解決にはなっていない.

●診療科偏在に関してはそれほど顕在してはいないが,総合診療専門医は不足していると考えられる.

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●いくつかの仮定を置くことで,DPCデータやレセプト情報,患者調査などに基づいて領域別専門医の必要数を推計することは可能であるが,それは絶対視すべきようなものではなく参考値にとどめるべきだろう.

●フランスの地方医療職養成数および配置検討委員会のような組織をわが国においても都道府県単位で組織し,そこでデータに基づいて漸進的に対策を進めていくことが実際的である.

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●地域医療とは,単に地域で医療サービスを提供するということではなく,地域包括ケアシステムの中で医療を行うことである.同システムを構築し推進できる総合診療医の養成が求められている.

●専門医制度は,社会に貢献する気概をもちながら自律的に研鑽を積み続ける態度,すなわち真のプロフェッショナリズムを修得できるものである必要がある.

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●現状では,それぞれの診療科に強い魅力ややりがいを感じることで勤務時間が長くとも頑張れる医師がいる一方,日本の医療体制の維持は医師の「やりがい」や「責任感」,「エンゲージメント」によって行われる時間外労働に依存しているマイナスの側面もある.

●ワークライフ・バランスを重視する医師は確実に増えている.しかし,両立しやすい診療科は現状では限られる.新専門医制度が現状のまま進めば,望まない診療科に進むことを余儀なくされる事態が生じうる.各診療科が長時間勤務をこなして体制を維持することはより困難となる.

●働き方改革の関心の高まりにより各診療科が勤務体制改善に積極的に取り組むと,ワークライフ・バランスを重視する医師も希望の診療科に進むことができ,新専門医制度は理想の働き方で専門医資格を持つことを可能にする.それが診療科偏在をはじめとした日本の医療体制の危機を救うのではないか.

【オピニオン】私たちの考える専門医制度 骨太の提案

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 特定機能病院である大学病院こそ,専門研修に適している.

 特定機能病院の法令上の取り扱いは重く,その役割は「高度の医療の提供」「高度の医療技術の開発・評価」「高度な医療安全管理体制」そして「高度の医療に関する研修」の4項目が挙げられ,「通常の2倍程度の医師の配置が最低基準」かつ「配置基準数の半数以上の医師が定められた診療科の専門医を有すること」など手厚い専門医の配置が求められている.さらに「査読のある雑誌に掲載された英語論文数が年70件以上」など活発な学術活動も必須である.

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 新専門医制度は,医師の地域偏在助長などの地域医療への影響に対する四病院団体協議会と日本医師会による意見表明や,全国知事会など地域医療関係者の相次ぐ懸念を受け,当初の予定を1年間延期し,2018年4月にようやく開始されるに至った.

 日本専門医機構(以下,機構)が公表した2018年度の全国の専門研修採用専攻医数は8,410名であり,仮に2016年度の臨床研修医採用数8,622名を分母とした場合,97.5%の研修医が専門研修に移行したことになる.2019年度の専攻医登録状況は,1次募集期間中の2018年11月19日時点ですでに7,652人となっており,専攻医の登録数という点においては,順調に推移しているように見える.

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 四病院団体協議会(日本病院会,全日本病院協会,日本医療法人協会,日本精神科病院協会)では,2018年3月の総合部会にて,病院団体の考える専門医,必要とする専門医のあり方について,これまでの専門医制度から離れてゼロからの意見のすり合わせを図ろうと,各病院団体の代表委員からなる委員会を立ち上げ議論を重ねてきた.そして,同年8月22日に「社会はいかなる専門医を必要としているのか」1)なる提言書を上梓した.

 本提言書は,決して現行制度を否定するものではなく,今後の社会に応える医師のキャリアパスのあり方,専門性のあり方やその多様性に応えるべく,制度においても多様性を求めることを主眼とした.

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 新しい専門医制度は,基本19領域で合計8,378名の専攻医が採用され、2018年4月から始まった.しかし現在の医療環境は,昔から見ると大きく変化している.患者の大多数は高齢者である.高齢者の身体はいろいろな臓器の機能が低下してくる.1つの臓器の専門医というより,総合診療専門医の治療が必要である.

 実は筆者は,実質最後のインターン生であった.そして筆者の息子が新研修医制度における最初の研修医である.この30年以上の間は,ほとんどの医学部卒業生は卒業直後より臓器別専門医集団ともいえる大学の医局に入局していた.現在,臨床現場で中心となっている医師は,まさに臓器別専門医である.2018年4月から始まった新制度においても,総合診療専門医を目指す医師は,他科に比べるとごく少数であった.やはり臓器別専門医の方がより評価されると思っているのかもしれない.

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■新築を機に機能分担を進める

 公益財団法人慈愛会(以下,同法人)は,鹿児島県で広く保健・医療・介護・福祉・教育事業を展開し,2014年に創設80周年を迎えた.創設80周年記念事業の一環として2017年に新棟を建設し,今村病院分院(鹿児島市)から今村総合病院(以下,同院)に名称変更した.同法人が市内の別の地区で運営するいづろ今村病院(旧・今村病院.145床)が,急性期医療を含むケアミックス型の医療や,かかりつけの診療所や在宅医療との橋渡し,緩和医療,人間ドックなどを提供するのに対して,同院は急性期総合病院として高度専門医療と救急医療を主に担い,機能分担を進めてきた.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・50

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■まちづくりと病院づくり

 長野県佐久市には,故・若月俊一先生が地域医療の概念を実践し,原点ともみなされる有名な佐久総合病院があり,またそこから派生し救急・急性期を担う佐久医療センター,さらに市立浅間総合病院などの大規模病院がある.こうした医療環境の中で,100床に満たない小病院・くろさわ病院が,地域への医療提供として何を期待されているのか,まちの成り行きとともに必要とされる医療・介護サービスとはどのようなものなのか,人口の推移や市民活動の変化に表れるまちの変遷とも深く関わり合いながら地域医療を実践するとはどのようなことなのか.既に理事長・病院長の黒澤一也氏ご自身による本誌への寄稿がある1)が,本稿ではまちづくりと病院づくりについて,建築(学)の視点から「くろさわ病院」(以下,同院)の変遷を概観しながら考えたい.

 黒澤理事長の祖母が産婦人科医院を開設したのは1937年のことである.その後,1972年に病院となったが,高齢者医療と介護への転換を図り,1988年には介護老人保健施設を開設,1998年以降にはケア付き住宅の開設など介護サービスの拡大を図った.しかし,第2代理事長の急逝などもあり,法人経営はしばらく低迷していた.現理事長が大学を辞して病院に戻り,地域ニーズを読み取りながら市内初の宅老所や有料老人ホーム・託児所を開設,また,さまざまな研修事業などにより職員満足度を上げる取り組みも実施して職員確保を図った.さらに障がい者事業への展開も始め,地域の需要に応じた事業を拡大してきた.

連載 ケースレポート

地域医療構想と民間病院・27

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■はじめに

 平成30年度の診療報酬改定により,病院は治療を中心とする施設としての位置づけが従来以上に明確になった.すなわち,今後病院は看護配置基準10:1,15:1,20:1を基本として,これに診療行為の密度と連携体制および在宅患者の支援体制などに応じて収入が決まる仕組みとなった.療養病床については,看護配置基準25:1の医療療養病床と介護療養病床の廃止が期限付きで決定され,今後,療養病床は20:1の医療療養病床か,介護医療院への転換などの選択を迫られることになる.

 これまでを振り返ると,療養病床を持つ施設は数次の制度改正に振り回されてきた感がぬぐえない.介護保険制度導入時の介護療養病床への転換の誘導,その後の転換型老健へのさらなる誘導,医療療養病床における医療区分・ADL区分による評価の導入,そして今回の介護療養病床廃止の決定である.背景には「療養病床は社会的入院の温床になっている」という批判がある.しかしながら,介護保険制度導入以降,特に医療区分による入院基本料決定のロジックが導入されて以降,療養病床に入院している患者の医療的ニーズは高まっており,いわゆる社会的入院は大幅に減少している.また,印南らの研究によって,社会的入院は療養病床よりは一般病床で多いことも明らかになっている1).実際,福岡県医師会2)や山口県医師会3)の行った療養病床入院患者の調査においても,入院患者の高齢化(平均年齢85歳以上)や在宅復帰の困難さ(受け入れ家族の不在,および在宅介護サービスの不足)が明らかとなっている.また,筆者らが西日本の複数の自治体のレセプトを基に分析をした結果でも,療養病床入院患者の複雑な医療ニーズの状況が明らかになっている4〜6)

 本連載でもこれまで繰り返し強調してきたように,地域医療構想においては「慢性期=療養病床+介護施設+在宅」という認識で,筆者らはその必要数の推計を行っている.地域にどれだけの療養病床数が必要であるのかは,その他の2つの条件に大きく規定されるのである.このことが地域医療構想調整会議(以下,調整会議)の場では十分に認識される必要がある.しかしながら,多くの場合,調整会議では一般病床の在り方に関する議論が中心で,今後その重要性が飛躍的に高まる慢性期の在り方に関する議論が少ないのが現状である.

 今回,インタビューを行ったのは西日本のある地域の慢性期病院の理事長である.地区医師会の理事でもあるA氏は地域医療構想調整会議にも出席しているが,慢性期病床の在り方に関する議論がほとんどなく,その中で自施設の方向性をどうしたらよいのか悩んでいる.氏名および病院名を出さないことを前提にインタビューに応じていただいたので,今回はその内容を元に慢性期医療の今後の在り方について考えてみたい.

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■労働者の労働時間管理および健康管理

 いよいよ働き方改革関連法が段階的に施行され始める今年(2019年)は,「働き方改革元年」ともいえる年である.

 前回でも紹介したとおり,「働き方改革実行計画」を受けて,厚生労働省は,各都道府県に対して,勤務環境の改善を促すべき医療機関(特に病院)などを把握するとともに,必要に応じて助言などの対応を実施するよう依頼(要請)しており,労働基準監督署による立入調査は活発化の一途を辿っている.

連載 多文化社会NIPPONの医療・17

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 日本人では縮小傾向にありながら,外国人ではニーズを増している医療がある.かつて国民病といわれた結核である.感染症法で2類の結核は,診断したら必ず保健所に届け出る全数報告疾患で,濃厚接触者の健診も行われる.

 図1が示すように,日本で報告される結核の数は順調に減少している.減らすための努力も大きいが,結核菌に感染している人が多い世代(高齢者)が自然減少していることが影響している.全体で見ると外国生まれは7%ほどであるが,29歳以下の若年層になると6割以上が外国生まれとなっている(表1).よくある誤解として,「うちは富裕層外国人のみを受け入れているから結核は関係ない」というものがある.確かに結核菌に感染しただけでは全員が発病するとは限らない.イメージしやすいのは,休みなく働き,食事を切り詰めるという厳しい環境にいる外国人労働者が発病するパターンである.しかし,日本での医療を希望する富裕層であっても,もともと高流行地域で生活していたり,日本で希望する治療が免疫低下を伴う疾患であったりする症例が多く,治療のプロセスの中で結核と診断されることがある.現在,各地から「外国人増加に備えて何をすればよいのか」という相談が増えているが,その多くは通訳や未収金の話である.しかし,結核をテーマとして,感染管理,医療安全のリーダーと共に今ある取り組みを見直して,必要な対策を加えることをお勧めする.以下,外国人受診者の受け入れ体制整備に取り組むためのアクションリストを紹介する.

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病院
78巻2号 (2019年2月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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