病院 78巻1号 (2019年1月)

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平成時代は,わが国の社会経済状況や医療のあり方が大きく変わった.

病院界を代表し,政策や制度設計においても積極的に提言を続ける神野氏と,次世代を担うべく果敢に行動する太田氏に,新しい時代の病院のあり方を渋谷氏が聞く.

特集 平成の病院医療から次の時代へ

巻頭言 渋谷 健司
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 バブル景気に沸いた1989年に始まる平成時代ほど,わが国の社会経済状況や医療のあり方が大きく変わった時代はないかもしれない.昭和時代の人口増と右肩上がりの経済成長が終焉を迎え,急速に少子高齢化やグローバル化が進行し,わが国は世界に冠たる経済大国から低成長成熟社会へと変貌を遂げた.それに伴い,医療,そして,病院を取り巻く状況も大きく変わった.本特集は,医療制度,病院機能,経営,人材,テクノロジーという観点から平成時代における病院医療を振り返り,新しい時代への展望を示すことを試みた.

 平成時代は,尾形論文・江利川コメントにあるように,介護保険制度(2000年),地域包括ケアシステム(2006年),税と社会保障の一体改革(2010年),地域医療構想(2014年)という,現在の医療制度にも大きな影響を与えている改革が実行された.その荒波を最も被って変革を迫られたのが,これからを担う若手の病院経営者たちである.急性期病院が地域包括ケアを担う核となる病院機能へと,いつ,どのように転換していくのか,どのように,その先に向かうのか.大田論文からはその時々の経営判断がリアルに浮かび上がる.それを「病院の潜在能力と地域の期待のマッチング」と称した河北コメントは,まさに言い得て妙である.

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●本稿では平成の医療制度改革の全体像を3つの時期に分けて概観する.

●介護保険制度・高齢者医療制度の創設とその後の推移を示す.

●医療保険制度の都道府県単位での再編,地域医療構想の策定・推進が行われた.

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 平成年間は,経済や政治も含め,時代の大きな曲がり角だったと言えるのかもしれない.経済の低迷から脱却できない中で,社会保障制度は,人口構造の急速な高齢化,深刻化する少子化を踏まえつつ,改革を続けてきている.

 この平成年間における医療制度改革の流れを,尾形論文(p.21〜24)は3つの時期に分けて整理しているが,非常に分かりやすく,多くの関係者が賛同すると思われる.経済成長による社会の負担力の増加があまり見込めない中で,高齢化の進展による医療費の増加に,まずは医療保険制度の手直しで対応し,次に介護保険制度や高齢者医療制度の創設によって対応し,さらには社会保障と税の一体改革といういわば総動員体制で対応してきた.私も健保改正や介護保険法成立に関わってきたが,振り返ればこう整理できるのかなと思う.

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●当院は創業以来,脳神経疾患専門病院として事業展開してきたが,社会環境の変化を受けて,近年,地域のコアホスピタルとしての機能も拡充してきた.

●地域包括ケアシステム構築に向けて,医療・介護・地域の統合を図るとともに,異業種とのヘルスケア事業や,パーソナルヘルスレコードに着手している.

●当院には広範囲を対象とした急性期病院としての姿と,地域包括ケアシステムを担う病院としての「二つの姿」があり,適正な病床数についての経営的判断に苦慮している.

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 大田論文(p.27〜32)を読んで,多くの民間病院の経営者が抱える課題を切実に感じざるを得ない.実は私は先代の理事長もよく存じ上げている.先代が築いた脳神経外科専門病院は,その時代の夢にあふれた病院経営者の極めて前向きな姿であった.言い換えれば,プロダクトアウトが可能な時代であった.

 2014年の診療報酬改定は,実は2015年の地域医療計画の中での地域医療構想が根底に存在する.これは2025年どころか,2040年の社会を想定したものである.医療の人的資本を集中的に活用できる機関を除き,その他の医療施設はいやでもマーケットインからパブリックリレーションズへ変わらざるを得ない.

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●新しい元号の時代において,病院経営者に求められるものは「勘と経験と度胸」ではなく,経営のためのありとあらゆるものを学び吸収できる場に積極的に参加することである.

●病院経営や医療マネジメントの専門家の重要性がますます高くなる時代がやってくる.

●AIやIoTなど「第4次産業革命」を人材戦略とどうからめていくかが,新しい元号の時代での厳しい競争を乗り切る鍵となりうる.

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 中村論文(p.34〜38)を拝読したので,コメントを入れさせていただく.この論文では,超高齢少子社会における人口減,小規模病院の減少,病院経営者に必要な資質など,多面的な分析をした上で,病院経営において何が必要かということをよく纏めている.

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●激動の時代を乗り越えていくための人材戦略:医療機関を取り巻く環境が激しく変わる中で,医療経営人材,管理職に求められる役割は変化している.

●各階層に求められる役割と視点:トップマネジメントに「求められる役割と欠かせない3つの視点」,重要度を増すミドルマネジメントの「人材マネジメント力」,マネジメントスタッフに必須となる「当事者目線」がある.

●全ての階層に共通して必要なもの:選択と集中を駆使した引き算の発想と,多様性・異質性を是とし「人」を大切にするマネジメントの姿勢が求められる.

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 従来,病院は,国民の生命・健康を守ることを使命とし,患者を救うことを最優先に考え,一種の自己犠牲ともいうべき精神で,患者のリクエストには最大限応えてきた.反面,勤務医の労働環境についての配慮が不足していたと言わざるを得ず,勤務医の過重労働によって日本の良質で廉価な医療が支えられてきたといっても過言ではない.しかし,勤務医の長時間労働・過重労働は,もはや限界にきている.病院は,良質な医療の持続可能性の観点から,勤務医が「労働者」であることを意識して,勤務医の労働環境に留意することが求められるようになった.

 そのために,まず,病院は,労働諸法令を正確に理解し,遵守する必要がある.医師は,高度な専門職として働き方の裁量が広く,自己研鑽の必要性も高く,また,活動時間と不活動時間がモザイク状に入り組んだ実態があり,労働時間の管理が難しいことは確かである.しかし,勤務医を過重労働から解放する方向性は忘れてはならない.

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●高齢化が進むわが国では,医療の質の維持・向上,生産性の向上のために積極的にICTを活用していくことにより,医療従事者の自己犠牲を伴う負担を最小限に減らし,持続性のある医療が提供可能になる.

●医療で導入すべきICTとして,EHRの構築とAIの活用が挙げられる.EHRにより診療所・病院および地域での医療情報共有の強化,医療データを活用した医療の質の管理や予防医療への効果が期待される.また,AIなどの診療補助ツールの活用により効率化と医療の質の向上が可能になる.

●従来の「病院完結型医療」から,診療所や病院が密に連携した「地域」が医療の主体となる「地域連携型包括医療」へのパラダイムシフトが求められている.ICTを活用したシームレスな医療連携のために,医療情報を集める中心はかかりつけ医と病院となり,それを統治する自治体が積極的に連携する必要がある.

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 佐々江論文(p.46〜50)は,総合内科医として現職にある一医師の,医療提供体制とそれを支える電子カルテのありようについての日英の比較論である.佐々江氏は英国で医師免許を取得して8年余をロンドンでGP(general physician)として活躍し,後に帰国して改めて日本の医師免許を取得した経歴の持ち主である.今日,最も病院を変えたテクノロジーといえば,何をおいてもIT(ICT)である.その代表が電子カルテであることは間違いがない.わが国でも地域包括ケアの実現に向けて医療機関の機能分化と連携が強く求められている.政府主導で全てを税金による英国と,民間病院の比重が高く,原則,保険制度を基調とする日本というように,両国の医療提供体制には大きな違いがある.しかし,国民の医療・健康を支えるという視点に立てば,電子カルテのあるべき姿に大きな差はないはずである.佐々江氏による彼我の差についての記述は,全て,実際にそれを経験した者の手によるだけに,指摘にはいちいち迫力がある.

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 「平成30年7月豪雨」により,岡山県倉敷市真備町地区は一級河川・高梁川に注ぐ小田川とその支流の決壊により,約1,200haが浸水し,まび記念病院が被災した.以下は,救出活動に当たった稲葉基高医師のレポートである.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・49

青森新都市病院 須田 眞史
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■はじめに

 函館新都市病院を中核に地域の医療を支えている医療法人雄心会が,津軽海峡を越え,2017年5月,青森市に青森新都市病院(191床)を開設した(図1).新幹線新青森駅から徒歩3分に立地し,アクセスのよさを生かした事業展開が期待される.今回は開設後1年3カ月(取材時)が経過したこの病院を取り上げる.

連載 事例から探る地域医療再生のカギ・25

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■何が問題だったのか

①病院激戦地で経営改善を求められる国立大学附属病院

 富山大学附属病院は,富山医科薬科大学の附属病院として1979年に開設された.2005年に富山大学,高岡短期大学との3大学統合により,富山大学附属病院に変更されている.

 国立大学医学部の附属病院ではあるが,戦後の新設医大の附属病院として新たに設置されたため,運営的には厳しい環境にあった.まず,病院の建物は,富山市郊外の山を切り拓いて建設され,市内中心地から自動車で20分以上かかる交通不便地にあった.病床数も612床と大学附属病院としては決して大きくなかった.さらに,市内には,県立中央病院(733床),市立富山市民病院(595床),富山赤十字病院(401床),国立病院機構富山病院(300床),済生会富山病院(250床)が開設されており,患者を集めるに当たって厳しい競争に直面することとなった.

連載 事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・13

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 調布東山病院は,京王線調布駅近くにある83床の急性期病院で,病院単体の医業収益約40億円,経常利益率約2.48%,平均在院日数13.8日,重症度,医療・看護必要度29.1,在宅復帰率93.2%(2017年度実績)と良好な経営内容となっている.

 以下,それが実現している理由と,そこに至るまでの過程について紹介したい.

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■そもそも「働き方改革」とは何か

 2017年11月,第4次安倍内閣発足時の総理大臣所信表明演説において語られた「1億総活躍社会」は,少子高齢化という日本の構造的な問題に正面から取り組むことで歯止めをかけ,50年後も人口1億人を維持することなどを目的としている.その実現に向けた最大のチャレンジと位置づけられるのが「働き方改革」であり,多様な働き方を可能とし,中間層の厚みを増やして消費を押し上げ,労働生産性の改善による成長と分配の好循環を実現することで,日本経済の再生や少子高齢化問題への対策につなげる政策とされる.

 「働き方改革」において対応すべき課題として取り上げられた現在の日本の労働制度と働き方の特徴には,①長時間労働,②正規と非正規の不合理な処遇の差,③単線型のキャリアパスがある.これらを克服するために,労働基準法や労働安全衛生法をはじめとする8つの法律を改正する法案が,2018年6月29日の参議院本会議で可決され,成立したのが,いわゆる「働き方改革関連法」である.

連載 多文化社会NIPPONの医療・16

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 ニュースなどでお気づきの読者も多いと思うが,2018年春以降,自民党のプロジェクトチーム,内閣府,厚生労働省によって,外国人患者の医療機関の受け入れ体制整備や健康保険制度を含めた制度の整備が進行中である.少子高齢化,労働力不足を背景に,これまで以上に多くの外国人を日本に呼び込むための滞在資格の新設や,より長期の滞在を可能にするための施策が検討されている.このような大きな変革の時代に,医療はどう変わっていくのだろうか.

 実は,国レベルでの検討の動きは,短期滞在の訪日客への対応が先行している.オリンピック/パラリンピックが目の前であり,各方面の合意や協力も得やすいので妥当な路線である.しかし,基盤となる地域医療としての整備がなければ,それらは脆弱なものになってしまう.医療通訳ひとつとっても,訪日客には有料で在住者は無料といった区別が可能なのか,診療報酬上の加算などは可能なのか.現場の負担を軽減する仕組みとセットでなければ,医療安全も脅かされるだろう.このような中で,「応召義務」についての問い合わせが増えている.

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78巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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