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■はじめに
平成30年度の診療報酬改定により,病院は治療を中心とする施設としての位置づけが従来以上に明確になった.すなわち,今後病院は看護配置基準10:1,15:1,20:1を基本として,これに診療行為の密度と連携体制および在宅患者の支援体制などに応じて収入が決まる仕組みとなった.療養病床については,看護配置基準25:1の医療療養病床と介護療養病床の廃止が期限付きで決定され,今後,療養病床は20:1の医療療養病床か,介護医療院への転換などの選択を迫られることになる.
これまでを振り返ると,療養病床を持つ施設は数次の制度改正に振り回されてきた感がぬぐえない.介護保険制度導入時の介護療養病床への転換の誘導,その後の転換型老健へのさらなる誘導,医療療養病床における医療区分・ADL区分による評価の導入,そして今回の介護療養病床廃止の決定である.背景には「療養病床は社会的入院の温床になっている」という批判がある.しかしながら,介護保険制度導入以降,特に医療区分による入院基本料決定のロジックが導入されて以降,療養病床に入院している患者の医療的ニーズは高まっており,いわゆる社会的入院は大幅に減少している.また,印南らの研究によって,社会的入院は療養病床よりは一般病床で多いことも明らかになっている1).実際,福岡県医師会2)や山口県医師会3)の行った療養病床入院患者の調査においても,入院患者の高齢化(平均年齢85歳以上)や在宅復帰の困難さ(受け入れ家族の不在,および在宅介護サービスの不足)が明らかとなっている.また,筆者らが西日本の複数の自治体のレセプトを基に分析をした結果でも,療養病床入院患者の複雑な医療ニーズの状況が明らかになっている4〜6).
本連載でもこれまで繰り返し強調してきたように,地域医療構想においては「慢性期=療養病床+介護施設+在宅」という認識で,筆者らはその必要数の推計を行っている.地域にどれだけの療養病床数が必要であるのかは,その他の2つの条件に大きく規定されるのである.このことが地域医療構想調整会議(以下,調整会議)の場では十分に認識される必要がある.しかしながら,多くの場合,調整会議では一般病床の在り方に関する議論が中心で,今後その重要性が飛躍的に高まる慢性期の在り方に関する議論が少ないのが現状である.
今回,インタビューを行ったのは西日本のある地域の慢性期病院の理事長である.地区医師会の理事でもあるA氏は地域医療構想調整会議にも出席しているが,慢性期病床の在り方に関する議論がほとんどなく,その中で自施設の方向性をどうしたらよいのか悩んでいる.氏名および病院名を出さないことを前提にインタビューに応じていただいたので,今回はその内容を元に慢性期医療の今後の在り方について考えてみたい.
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