臨床眼科 56巻1号 (2002年1月)

連載 今月の話題

  • 文献概要を表示

 臓器や組織移植のなかで,角膜移植は生着率が高く最も普及しているものであろう。それでも欧米諸国に比べてドナー不足が続いているのがわが国の現実である。ドナー増加への努力は当然として,ヒトからの角膜提供に代わる方法を模索することも重要であろう。その方法として人工角膜,再生角膜,そしてヒト以外の動物からの異種角膜の3種の方法が考えられている。ここでは異種角膜の可能性につき,最近の研究も踏まえて解説してみたい。

連載 眼の遺伝病・29

  • 文献概要を表示

 網膜分離症1から7までのシリーズを見ていただくと,網膜分離症の臨床像は非常に多様性に富み,さらに遺伝子異常もさまざまであることがわかる。しかしながら,これだけ臨床像の多様性に富む疾患は,正確にかつ迅速に臨床診断を下すことが困難な場合が多い。そこで大きな役割を果たすのがこのXLRS1遺伝子診断である。このシリーズでは現在までにどのくらいの遺伝子異常が報告され,さらに筆者らがこのシリーズで報告した症例と遺伝子異常の関係を表にし,遺伝子異常による臨床像の違いがあるか否かを検討したい。

連載 眼科手術のテクニック・143

  • 文献概要を表示

はじめに

 白内障手術にて破嚢した場合,次のような術後合併症が起こりうる。主なものは,高眼圧,眼内レンズ位置異常に伴う屈折誤差,術後黄斑浮腫,網膜剥離などである。白内障手術の強角膜創部やサイドポートに嵌頓した硝子体による網膜への牽引や,虹彩や眼内レンズへのタッキングが原因である。

 これらの合併症は,すべて,脱出硝子体の不十分な処理によるものである。そこで,破嚢時の対処法のキーポイントは,硝子体の処理に尽きる。理想は,硝子体を亜全摘することであるが,現実的ではない。破嚢時の処理の目的は,白内障手術の創口に嵌頓した硝子体のみを最小限の侵襲で,より効果的に取り除くことである。今回,筆者が行っている破嚢時の対処法を紹介する。

連載 あのころ あのとき・13

  • 文献概要を表示

 1960年に久留米大学から九州大学の解剖学教室に転任した。所属の講座の前任者は人類学の専攻であったから,およそ正反対の研究分野の私にとって必要な研究設備は皆無で,古代人骨のコレクションで占められた研究室に赴任することになった。幸いロックフェラー財団から援助が受けられることになり,新しい研究室造りから始めた。

 私が使用できるスペースは,昭和3年に増築された木造平屋建の53坪で,これを電顕室,写真室,切片室,動物実験室,包埋室および居室のための部屋に改造した。また大型の空調機を設置して,全室を一括して冷暖房可能にした。既存の窓にはビニールシーツを張って防塵し,電顕台は大きなコンクリートブロックを地面から立ち上げて建物から分離し,振動が伝わらないようにした。こうして狭いが使いやすい研究室が完成した。

連載 他科との連携

EMRIR(緊急MRI検査室) 根本 裕次
  • 文献概要を表示

 真冬の夕暮れは早かった。木枯らしの中,患者と2人でタクシーから降り立ったときは,病院の建物はすでに闇に包まれていた。しかし,その通用門は少し開かれており,一筋の明るい光が迎えてくれていた。いつものようにMRI検査室に入ると,放射線技師が調整の手を休めた。白い歯がこぼれた。

 「やあ先生,お待ちしていました。早速始めましょう。」

  • 文献概要を表示

 TGFBI遺伝子Leu527Argの変異による高年発症型の格子状角膜変性症の症例である。患者は69歳,男性。65歳頃より右眼の視力低下に気付いているが,左眼にはとくに訴えはなく,両眼ともに角膜びらんの既往歴はない。写真の時点で視力は右(0.02),左(1.0)。格子状の線条は通常のⅠ型格子状角膜変性症に比べて太く,角膜深層に及び,角膜中央部深層には小粒状の灰白色沈着物を伴っている。所見の左右差が著明である。臨床所見では1987年,Hidaらの報告(Am JOphthalmol 104:241)によるⅢ型格子状角膜変性症に酷似するが,TGFBI遺伝子Leu527Argの変異がヘテロ接合で認められているため,常染色体優性遺伝による角膜変性症と考えられ,ⅢA型に分類している。この患者の右眼には深層角膜移植術を行っているが,角膜中央部深層の小粒状沈着物はデスメ膜付近にも及んでおり,その除去中にデスメ膜に穿孔をきたしている。ただし,術後経過はとくに問題なく,視力は(0.3)が得られ,さらに白内障手術後(0.8)に改善している。

  • 文献概要を表示

 57歳男性が3週間前からの左眼飛蚊症で受診した。左眼の眼底後局部に網膜下滲出斑が十数個あつたが、2週間で自然消退した。以後6か月間に網膜下滲出斑は計6回,出現と消退を繰り返した。初診から6か月後に左眼に硝子体混濁が生じ,副腎皮質ステロイド薬で消退したが,さらに5か月後に両眼に硝子体混濁が生じた。硝子体試験切除を行い,細胞診で眼内悪性リンパ腫と診断された。両眼への硝子体切除術と放射線照射で寛解した。本症例は,眼内悪性リンパ腫が仮面症候群として眼底病巣があたかも炎症性疾患のように出現と自然消退を繰り返した稀な例である。

  • 文献概要を表示

 眼内レンズ挿入術後に発症した細菌性眼内炎15例15眼に対して硝子体手術を行い,その視力転帰,臨床像,術後合併症を病歴記録に基づいて検討した。術直前の視力は12眼(80%)が手動弁以下であった。眼内炎は術後1日から19日で発症し,10眼(67%)が4日以内に発症した。最終視力は0から1.0であり,10眼(67%)が0.5以上であった。後嚢破損が6眼(40%)にあり,術後視力が不良な傾向であった。起炎菌は8眼(53%)で検出され、腸球菌とα—Streptococcusによる各1例で光覚が失われた。術後の網膜剥離が4眼にあり,3眼は再手術で復位し,1眼は本人の希望で手術を行わなかった。以上の結果から,眼内レンズ挿入術後の細菌性眼内炎に対して硝子体手術は有効であると結論される。

  • 文献概要を表示

 慢性涙嚢炎に対する涙嚢鼻腔吻合術鼻外法の術前検査として,CT涙道造影を45例47側に対して行った。造影剤は下涙小管に注入した。これによる所見は涙嚢窩骨の厚さを知るのに有用であった。篩骨洞が涙嚢窩骨の鼻側に位置している例が11側(23%)にあり,このような例では手術で涙嚢を篩骨洞に吻合させないよう注意が必要であつた。鼻涙管の中まで造影されていた例が14側(30%)にあり,閉塞が主として鼻涙管下方部にあることが推定され、手術の際に鼻涙管内の膿吸引,粘膜掻爬,鼻涙管開放などを行うことで手術成績が向上すると思われた。鼻涙管部に骨折後の骨肥厚が1例にあり,顔面外傷と鼻涙管閉塞との関連が推測された。

  • 文献概要を表示

 電動マッサージ器による振動刺激で生じたと考えられる白内障の2例を経験した。いずれも25歳,男性で,眼精疲労時に手持ちの電動マッサージ器を,1例は数年間,他の1例は2週間,眼部に直接当てて使用していた。白内障はいずれも両眼性で,前嚢下に限局性の混濁があった。両例ともアトピー性皮膚炎や外傷などはなく,マッサージ器による振動刺激が白内障の原因であったと推定した。

  • 文献概要を表示

 Shaffer分類Ⅱ度以下の狭隅角で明らかな周辺虹彩前癒着(PAS)のある50眼(狭隅角眼)の眼軸長,前房深度,水晶体厚,硝子体長を超音波Aモードで測定した。同様な生体計測を,Shaffer分類Ⅲ度とⅣ度の広隅角でPASのない67眼(広隅角眼)に対して行った。狭隅角眼では広隅角眼に比べ,眼軸長(p<0.001),前房深度(P<0.001),水晶体厚(p<0.001)それぞれが有意に低値であった。硝子体長は両者間に有意差がなかった(p<0.45)。眼内計測値の中で前房深度がPASの存在を最もよく判別し,そのカットオフ値は2.6mm (感厚:100%,特異度:82%)であった。

  • 文献概要を表示

 16歳の女性が2か月前から左眼上方視野欠損を自覚して受診した。矯正視力は両眼とも1.2であり,左眼硝子体中に細胞1+と鼻下側動脈の軽い狭細化があった。視野検査で盲点の拡大と耳側から鼻側上方に連なる視野欠損があった。フルオレセインとインドシアニングリーンによる蛍光眼底造影で異常はなかった。ERGではa波とb波に振幅の低下があり,EOGでは基準電位が正常で,左眼に軽度の反応低下があった。血液,髄液,頭部MRIに異常はなかった。以上の所見からacute zonal occultouter retinopathy (AZOOR)と診断した。副腎皮質ステロイド薬の大墨漸減療法で翌口から症状が改善し,投与37日目には絶対暗点が消失した。本症にステロイド薬の投与が視野の改善に有効である可能性を示す症例である。

  • 文献概要を表示

 目的:視交叉近傍の圧迫性病変による半盲の検出でのfrequency doubling perimetry (FDP)とハンフリー視野解析装置(HFA)の比較。

 対象と方法:視交叉近傍の圧迫性病変のある14例28眼と正常省20例を対象とした。ハンフリー閾値テストでの中心30-2とFDP threshold c−20で測定し,測定時間,MD, PSD,および独自に定めた半盲比(耳側視野の平均感度/鼻側視野の平均感度)を検索した。

 結果:平均測定時間は,HFA 14.4分,FDP 4.6分であった。MD, PSD,半盲比には,HFAとFDP間に有意の相関があった。これらは腫瘍病変手術後に有意に改善し,半盲比の手術前後の変化は80%で,HFAとFDP間で一致した。

 結論:FDPは視交叉圧迫性病変による半盲の検出に有用である。

  • 文献概要を表示

 過去11年間に受診し,内服治療のみを行った黄斑浮腫のある網膜静脈分枝閉塞症33例33眼の視力経過を検索した。推定発症後1か月目と6か月目の視力,3か月目と6か月目の視力に有意の相関があった(p<0.05)。3か月目の視力が0.4以上で6か月目の視力が0.7以上になった症例は50%であり,3か月目の視力が0.4未満であると6か月目の視力が0.7以上にはならなかった。このような場合には,光凝固などによる早期の積極的な治療を考慮する必要があると考えられた。

  • 文献概要を表示

 49歳,男性が頭痛と眼痛で近医を受診し,急性結膜炎の所見と74mmHgの高眼圧が両眼にあった。2日後の当科初診で,流行性角結膜炎の所見があり,眼圧は右48mmHg,左58mmHgであった。前房は深く、開放隅角であった。涙液からアデノウイルスが検出された。眼圧下降薬などで眼圧はいったん正常化したが,初診から6日後に眼圧は両眼とも70mmHg前後に上昇した。初診から約2週後に結膜炎は消退し,眼圧は20mmHg以下に下降し,以後安定した。高眼圧の既往はなく,ステロイド緑内障である可能性は否定された。本例での高眼圧は流行性角結膜炎に続発したと推定され,潜在的に併発した強膜炎の関与が疑われた。

やさしい目で きびしい目で・25

  • 文献概要を表示

 アメリカ大使館から100mの距離にある私の診療所の前は,防弾チョッキ?で着膨れした機動隊員が30m置きくらいに立っている。9月11日の事件,そして1か月後の報復行動以来,ますます警戒は厳しくなった。

 患者さんから「車は停められますか?」の電話はいいとして,「やってますか?」の電話があったりする。医療改革で診療点数が低くなり,経営が悪くなる前にテロのため患者の出足が悪くなり,診療所が立ち行かなくなるかもしれない。

基本情報

03705579.56.1.jpg
臨床眼科
56巻1号 (2002年1月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

文献閲覧数ランキング(
10月4日~10月10日
)