公衆衛生 84巻8号 (2020年8月)

特集 統括保健師の役割—環境をつくる,人材を育てる

春山 早苗
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 少子高齢化,現役世代人口の急減など人口減少が進むわが国においては,健康寿命を延伸し,誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現が求められています.一方で,高齢化,支え手の減少,医療技術の高度化などにより,社会保障給付費は増加の一途をたどっており,財政と医療・介護保険制度の持続可能性を確保していくことも,わが国の課題です.

 このような中,市町村や都道府県における保健活動はますます重要性を増し,財政的・人的に限られた資源を効率的に活用し,最大限の効果を生む活動を展開していくことが,住民に質の高いサービスを提供し続けるためにも一層求められています.そのためには,現場で的確にPDCAサイクルを回していくこと,ひいては地域保健の主要な担い手である保健師の活動の在り方が重要になってきます.

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【ポイント】

◆全国の延べ14市区町の保健師にインタビューを行い,PDCAサイクルに基づく効率的・効果的な保健活動の留意点をまとめた.

◆これをそれぞれの自治体の状況に合わせて改変して活用してほしい.

◆保健師が周囲の専門職や事務職,直属やその上の上司らの理解と協力を得ることの重要性が再確認された.

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【ポイント】

◆統括保健師を対象とした「効率的・効果的な保健活動の展開に関する留意点」(大項目5,中項目20,小項目89)を作成した.

◆統括保健師は全保健師が円滑に保健活動を展開できるよう,統括保健師の留意点を活用し,所属自治体の組織体制等を考慮して,直接・間接的に支援する.

◆統括保健師の役割は,保健活動が行政施策として自治体方針や地域のニーズに合致し,効率的かつ効果的に展開されるようにすることである.

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【ポイント】

◆人口減少がさらなる進展を遂げる「2040年問題」を視野に入れた人材育成が必要である.

◆①個々の保健師の育成,②組織全体の保健師の技術や能力の底上げ,③次期統括保健師となる人材の育成,④人材確保について検討し,2040年問題に備える必要がある.

◆統括保健師は「保健師集団の年齢や職位のバランス」と,それが「10年後どうなるのか」を予測し,人材育成・人材確保を進めることが必要である.

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【ポイント】

◆都道府県の保健師,特に本庁の統括保健師には,広域・広範な健康課題の把握・情報化支援,技術的支援などの役割が求められている.

◆都道府県の役割としては,市町村を超えた保健師活動の調整はもとより,福祉・保険・教育等の拡大した保健師活動分野での全体調整が期待されている.

◆このため,次代に向けて自都道府県内の統括保健師および次期統括保健師の育成に加え,市町村においても,統括・次期統括保健師の人材育成を進めることが求められ,首長も含めた意識改革・体制整備につながる取り組みが理想である.

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【ポイント】

◆保健師は職能集団として,庁内組織全体から正当な交渉相手として認知される上位ポストの獲得を目指さなければならない.

◆人事には組織内での納得感が欠かせないことから,「あの人ならやってくれそうだ」「あの人は適任者だ」と評価されるための計画的な人材育成が重要となる.

◆統括保健師は“ウチワ”(内輪)に止まることなく,“ソトガワ”(外側)を巻き込む「手練手管」の使い手となる必要がある.

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【ポイント】

◆高知県安芸市では,首長を本部長として,組織横断的なチーム体制を構築して健康なまちづくりに取り組んでいる.

◆住民や地域の関係者と協働する健康なまちづくりの醸成には,目的の明確化と共通認識の形成が有効である.

◆効率的かつ効果的な保健活動の展開のために,統括保健師の役割と機能を組織的に位置付ける必要がある.

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【ポイント】

◆豊田市では,地域診断結果を中学校区ごとに「地域健康カルテ」としてまとめ,PDCAサイクルによる住民共働の健康づくりを推進している.

◆地区担当制は,住民との信頼関係構築,保健師の地域への能動的な業務スタイルの定着,小地域のPDCAサイクルの継続による市全体の健康水準の向上に有用である.

◆統括保健師の役割としては,組織横断的な連携強化,人材確保と人材育成,他自治体との連携強化,災害時の対応などが挙げられる.

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【ポイント】

◆産後2週間サポート事業は同一医師会圏域,同一保健所圏域の3市3町で市町の枠を超えて実施した保健事業の一つである.

◆地域内の産科医療機関と日常的に情報交換や連携があったことに加えて,医療機関と行政が「産後2週間前後の支援が必要ではないか」ということを共通の緊急課題と認識したことが事業開始のきっかけとなった.

◆保健所が加わることにより評価分析ができ,その結果を生かして産婦健診のより効果的な実施につながった.

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国家資格「衛生管理者」の存在価値

 『日本列島改造論』(田中角栄・著)がベストセラーとなった1972年,いわゆる労安衛法(Occupational Safety and Hygiene Act)が施行され,疾病の予防措置などを担う国家資格「衛生管理者(Health Supervisor)」は旧法(1966年)などですでに位置付けられていた.衛生管理者は,非医療系人材も取得可能であることから,職場にも資格を有する同僚がいたりする.ただ,資格よりも技術立国として製造現場での安全が最優先される.1961年世界でも類を見ない国民皆保険制度が始まり,「健康権」の絶対的保障があるためか,衛生管理者が産業医,保健師のはざまで中ぶらりんになったというのは,50年前に資格を取られ,長く保健行政に深く関わってこられたある老翁医療職の率直な意見である.

連載 リレー連載・列島ランナー・137

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はじめに

 「アフリカの生活習慣病」といっても,イメージが湧かない人も多いのではないだろうか.脳卒中,心疾患,糖尿病などの生活習慣病を含む非感染性疾患(non-communicable diseases:NCDs)は,食習慣・生活習慣が関係することから,先進国の課題と思われがちである.しかし,実際は,世界全体で,毎年1500万人が70歳未満でNCDsにより死亡しており,その「早すぎる」死亡の約85%は,アフリカ地域を含む低中所得国で起こっているのである1).本稿をきっかけとして,読者の方々に,アフリカ地域のNCDsの課題について関心を持っていただけるとうれしく思う.

連載 今さら知らないといえない 科学技術イノベーション—iPS,AIを説明できますか・3

出生前遺伝学的検査 武藤 香織
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はじめに

 出生前検査とは,妊娠中に胎児の健康状態を調べる検査の総称である.出生前検査に基づいて行う診断が,出生前診断である.

 出生前検査には,妊婦健診で実施されている通常超音波検査も含まれるが,①主に染色体異常を調べる遺伝学的検査,②胎児の心臓などの臓器の異常を診断する形態学的検査がある.これらを総称して,出生前遺伝学的検査という.

 本稿では,出生前遺伝学的検査に関連する用語を取り上げ,その現状を概説する.

予防と臨床のはざまで

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 4月中旬まで発熱外来では,PCR検査の陽性者が断続的に出る状況が続き,一時はコロナ専用の病棟が複数できました.東京都の感染者数のピークは4月17日の206人ですので,実感と合っています.「PCR検査を希望しても受けられない」という報道が多かった頃ですが,半屋外の発熱外来の稼働により検査のキャパシティーは飛躍的に増加し,産業医先の従業員の検査対応などもできるようになりました.しかし連休明けぐらいからは,パタリと陽性者が減りました.COVID-19専従チームには医師・看護師ほか延べ100人以上のスタッフが関わり,5月末の入院チームの解散まではこの体制が続きました.

 ゴールデンウィークには,政府のオススメにしたがって(?)「オンライン帰省」もやってみました.と言ってもLINEのビデオ通話を小一時間しただけですが,実家のiPadにインストールしておいたLINEが役に立ちました.両親の顔は鮮明で音声も明瞭,電話で話すのとまた違った雰囲気を味わうことができました.一方で,都内の繁華街は,銀座,有楽町や丸の内などを運動がてら自転車で走ってみると,例年のゴールデンウィークと比べて明らかに閑散としていました.

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 映画の冒頭,本作品は事実に基づいている旨のクレジットが入り,2014年,本作品の主人公の一人,アレクサンドル(メルヴィル・プポー)が,ボーイスカウト時代の知り合いとの会話から,子どもの頃,ボーイスカウトを指導していたプレナ神父から受けた性的虐待の記憶を呼び起こされるところから,物語がはじまります.アレクサンドルはフランスのリヨンで,妻と5人の子どもと暮らす敬虔なカトリック教徒です.自分が受けた性的虐待の加害者であるプレナ神父が,現在もなお聖職にとどまっており,しかも子どもたちに聖書の講義を行っていることを知った彼は,新たな犠牲者が出ることを心配し,プレナ神父の上司である枢機卿に手紙を書きます.枢機卿からは返信がありますが,教会側の対応に疑問を感じたアレクサンドルは,警察に告訴状を送り,告訴を受けた警察が過去のボーイスカウトに在籍した者を対象に被害の捜査を開始します.

 わが国の法律では親や監護者による行為を「児童虐待」と定義しているため,第三者による「性的虐待」は親などの養育が不十分という意味で「ネグレクト」に分類されますが,親による加害であるにせよ,第三者による加害であるにせよ,「性的虐待」は被害児童に深い心の傷を残します.欧米に比べれば,統計上わが国の「性的虐待」の報告割合は低く,文化の違いなどの理由もいわれていますが,明らかにされていない実態があるのではないかとの意見もあります.本作品の中でも描かれているのですが,被害からかなりの年数が経過し,既に中年を迎えている大人であってもかつての記憶がよみがえって心理的トラウマを抱えることもあり,性的虐待に限らず児童虐待は公衆衛生上も重要な問題です.

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次号予告

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 特集企画「統括保健師の役割—環境をつくる,人材を育てる」はいかがだったでしょうか.本特集は,2017(平成29),2018(平成30)年度の効率的・効果的な保健活動や統括保健師に関するインタビューの成果やそこに関わった方々を中心とした企画です.PDCAサイクルに基づく効率的・効果的な保健活動の留意点の解説から始まり,春山早苗先生には効率的・効果的な保健活動における統括保健師の役割を,図も交えてわかりやすく提示していただきました.さらに吉岡京子先生には保健師や統括保健師の育成に関する課題と展望を広範かつ具体的に解説していただきました.土屋厚子先生には,統括保健師活躍のための都道府県と市町村の連携について,静岡県の事例も交えて詳しく書いていただきました.国籐美紀子先生,柴川ゆかり先生,田平昌代先生他による自治体での効率的・効果的な保健活動の具体的な取り組み事例は,実践のヒント満載です.自治体の規模や状況に合わせて,読み解いていただければ幸いです.さらに,國井隆弘先生には,本庁の事務職の立場から,保健師への期待を,幅広い行政的視点でご執筆いただきました.事務職幹部の方から,ここまで率直なご意見をいただけるとは,正直,驚きました.現実的な示唆に富む内容を噛みしめたいと思います.

 「視点」では,林田雅至先生に,グローバルかつ歴史的な視点で,感染症対策をはじめとする「健康」にまつわる課題を語っていただきました.ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」の背景も大変勉強になりました.「列島ランナー」の立山由紀子先生には,ザンビアにおけるNCDsの状況とその対策について,臨場感あふれるご報告を頂きました.特にHIV予防啓発活動とNCDsスクリーニングを組み合わせるという発想には感銘を受けました.ここにも効率的・効果的な保健活動のグッドプラクティスがあります.

基本情報

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公衆衛生
84巻8号 (2020年8月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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