映画の時間
—沈黙は,捨てた.—グレース・オブ・ゴッド 告発の時
桜山 豊夫
pp.557
発行日 2020年8月15日
Published Date 2020/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209455
- 有料閲覧
- 文献概要
映画の冒頭,本作品は事実に基づいている旨のクレジットが入り,2014年,本作品の主人公の一人,アレクサンドル(メルヴィル・プポー)が,ボーイスカウト時代の知り合いとの会話から,子どもの頃,ボーイスカウトを指導していたプレナ神父から受けた性的虐待の記憶を呼び起こされるところから,物語がはじまります.アレクサンドルはフランスのリヨンで,妻と5人の子どもと暮らす敬虔なカトリック教徒です.自分が受けた性的虐待の加害者であるプレナ神父が,現在もなお聖職にとどまっており,しかも子どもたちに聖書の講義を行っていることを知った彼は,新たな犠牲者が出ることを心配し,プレナ神父の上司である枢機卿に手紙を書きます.枢機卿からは返信がありますが,教会側の対応に疑問を感じたアレクサンドルは,警察に告訴状を送り,告訴を受けた警察が過去のボーイスカウトに在籍した者を対象に被害の捜査を開始します.
わが国の法律では親や監護者による行為を「児童虐待」と定義しているため,第三者による「性的虐待」は親などの養育が不十分という意味で「ネグレクト」に分類されますが,親による加害であるにせよ,第三者による加害であるにせよ,「性的虐待」は被害児童に深い心の傷を残します.欧米に比べれば,統計上わが国の「性的虐待」の報告割合は低く,文化の違いなどの理由もいわれていますが,明らかにされていない実態があるのではないかとの意見もあります.本作品の中でも描かれているのですが,被害からかなりの年数が経過し,既に中年を迎えている大人であってもかつての記憶がよみがえって心理的トラウマを抱えることもあり,性的虐待に限らず児童虐待は公衆衛生上も重要な問題です.
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.