公衆衛生 84巻3号 (2020年3月)

特集 がん検診—見えてきた問題にどう取り組む?

中山 富雄
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 わが国では,1983(昭和58)年から老人保健法に基づき,国策という形で住民に対するがん検診が行われてきました.すでに早期発見法の開発が進み,かつ罹患率・死亡率の高い5つのがん種に対して,関連学会や研究班での議論を踏まえて導入されたという経緯があります.当時から職場で検診が提供されており,「職場で検診を提供される機会のないもの」を住民検診の対象と定義したため,受診率の分母さえ推計することが困難でした.その後,「がん検診無効論」や検診費用の一般財源化によって検診の中止や国の推奨外の検診の導入などの大混乱を招き,現在に至っています.がん検診は,症状がなく生活に支障のないものを対象とし,公費を用いて医療に結び付ける行為です.よかれと思ってやっていることに本当に効果があるのか?不利益はないのか?という議論が区市町村レベルで十分できているとは思えません.

 がん対策推進基本計画の中で,がんの早期発見・検診ががん対策の柱の一つと位置付けられ,自治体の検診担当者だけでなく,拠点病院や地域の公衆衛生従事者の間で議論の俎上に乗るようになりました.継ぎ接ぎで構築されたシステムの矛盾は目を覆うばかりで,今後どうやって解決していくのか大きな課題です.

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【ポイント】

◆わが国のがん検診は多種多様な実施主体によって,対象臓器,検診手法,対象年齢,検診間隔などが無秩序に行われてきた.

◆自治体検診は1999年前後の「がん検診無効論」や「検診費用一般財源化」などによって大混乱を招いたが,ガイドラインの整備や精度管理手法の確立・普及が進んでいる.職域検診は実施主体もさまざまで,福利厚生の一環としてがん検診が行われており,規制を掛ける状況ではない.

◆検診の不利益を被りやすい高齢者の検診受診増加が問題となってきた.受診抑制を高齢者に理解してもらうのは困難であるので,がん予防から介護予防への円滑なシフトが必要である.

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【ポイント】

◆大阪府は,精度の高いがん検診実施と受診率の向上のため,独自に目標を設定し,モニタリングを実施している.全国初の精度管理センター事業などを推進している.

◆大阪府を含む都道府県は,がん検診受診率などの情報公開,取り組み状況の分析,重点受診勧奨者設定など,市町村への助言・指導を実施している.

◆指針外検診を実施している市町村への文書発出や,受診率向上モデル構築,個人インセンティブ制度の導入など,新たな取り組みも行っている.

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【ポイント】

◆労働安全衛生法に基づく「がん」に関する健康診断は職場における労働者の健康管理として実施されるので,公衆衛生対策としてのがん検診とはその趣旨が異なる.

◆職域におけるがん検診は実施主体,検診項目,検診開始年齢などが事業者,医療保険者によってさまざまである.がん検診を受診する機会や仕組みも個人で異なる.

◆職域も含めてがん検診の実施体制を定め,併せてがん検診の委託を受ける健診機関や医療機関における精度管理の重要性を浸透させることが必要である.

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【ポイント】

◆胃がんはいまだ疾病負荷が高く,対策が必要ながんであり,胃X線検診と胃内視鏡検診が実施されている.

◆胃X線検診は受診率の低迷や読影医不足,胃内視鏡検診は検査医の確保や読影体制の構築などの問題を抱えている.

◆胃がんリスク因子であるH. pylori感染に基づくリスク層別化を加味した適正な検診提供体制の構築が望まれる.

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【ポイント】

◆わが国で推奨されている肺がん検診は,40歳以上全員に対する胸部X線写真と,50歳以上の重喫煙者に対する喀痰細胞診の併用法である.

◆肺がんCT検診は低線量で行う必要がある.有効性が未確定のため,ガイドラインでは推奨に至っていない.

◆精度管理は最重要である.各学会がガイドラインや手引きなどを公表しているので,参考にすべきである.

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【ポイント】

◆子宮頸がん検診プログラムでは浸潤がんだけでなく,前がん状態を検出し,医療管理下に置くのが特徴である.

◆子宮頸がん検診プログラムの選択では,単に検診方法だけでなく,その後の流れが自国で実現できるか,また,効果を上げられる状況にあるかを判断することが肝要であるため,国によっておのずと結論は異なる.

◆子宮頸がん検診プログラムで効果を上げるには,その国のプログラムの精度管理能力が鍵を握るが,わが国は心もとない状況にある.

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【ポイント】

◆便潜血検査を用いた大腸がん検診の死亡率減少効果は確実である.

◆日本では精検受診率が低く,受診率自体も低いため,大腸がん検診が十分に奏功しているとは言い難い.

◆検診が,より効果を発揮するには精検受診率の向上が急務である.全ての人の受診状況の把握と受診勧奨,そして,将来的には内視鏡検診の導入も検討すべきである.

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【ポイント】

◆高濃度乳房問題はマンモグラフィ検診の偽陰性問題で,高濃度ほどがん検出感度が低下する.

◆高濃度乳房が疾患や特別の病態であるといった誤った認識の是正が必要である.

◆乳房構成の通知は一律には推奨されておらず,その判断は市町村に委ねられているが,通知を受けた受診者が不安に陥ることなく適切な行動が取れる体制整備が重要である.

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■はじめに—私の社会医学研究者としての歩み

 もともと学生時代から,集団を対象とした疾病の予防や健康のコントロールに興味があり,九州大学医学部5年生の時に,当時,大学でも始まったばかりの基礎配置で公衆衛生学講座を選択した.その印象が良かったため,卒後,精神科に入局して研修医を2年間務めた後,公衆衛生学の大学院に入学した.虚血性心疾患と精神的ストレスの疫学研究で学位を取得したのち,再び精神科に戻り,臨床と行政を経験した.2004年の5月から現所属となり,精神保健の研究を専門としている.

連載 衛生行政キーワード・136

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はじめに

 がんは,わが国において1981(昭和56)年から死因の第1位となり,2017(平成29)年には,年間約37万人が亡くなっている.また,生涯のうち約2人に1人が,がんにかかると推計されている.今後も,人口の高齢化とともに,がんの罹患者や死亡者の数は増加が見込まれており,がんは,依然として国民の生命と健康にとって大きな問題となっている.

連載 リレー連載・列島ランナー・132

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エンパワメントする評価

 健康教室などの事業評価を行った際,最終評価の数字が「参加者数10名」などになり,「参加者数は少なくても,今後につながる意義がある活動なのに……」と歯がゆく思うことや,これに似た経験をした方も多くいらっしゃると思います.往々にして,事業の表現方法を十分に検討できないまま評価をしてしまうことで起こります.評価を意味する「evaluation」という語はvalue(価値)を含むように,評価は「価値を定める行為」といわれています.活動の価値を十分表現できる指標で評価をしなければ,関係者だけでなく事業サービスを享受する住民の不利益につながることもあります.評価とは合格不合格を決めるものではなく,事業の価値を認識するとともに,改善に向かうために必要なアイデアを提供してくれる地図のようなものだと考えています.

 私がいくつかのコミュニティーと取り組んでいる「エンパワメント評価」では,コミュニティー当事者が評価という地図の所有者であることを前提として,自ら地図を活用していくことができるよう地図の作成から次の一歩を踏み出すための解釈まで,評価という作業を通して継続的に関わっていきます.具体的には,各種理論やツール,調査などを活用して,コミュニティー内のコミュニケーションと気付きを増やすように支援することにより,当事者自身が主体的に事業の価値を理解し,改善とマネジメント,発展に向けて進んでいく力を持つことを目的とした関わりをしています.正式な定義は成書や「American Evaluation Association」を参考にしていただくとして,本稿ではその評価の事例を紹介します.

予防と臨床のはざまで

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 健診スタッフのための勉強会(医療法人社団同友会主催)である文天ゼミにおいて,2019年10月29日に「第5回文天シンポジウム」(第100回文天ゼミ)を開催しました.2018年に続いてのサロンミーティングスタイルです.今回は第100回記念ということで原点に帰り,「保健指導・予防医療,参加率向上の起爆剤」をテーマに取り上げました.保健指導や予防医療プログラムは,内容が良くても参加率が伸び悩む…という経験は誰しもあると思います.今回は参加率を飛躍的に向上させた3つの事例を発表していただきました.それぞれの舞台裏を知る方から種明かし的な追加コメントをいただくという方法での進行です.

 まず,齊藤華子氏(新浦安虎の門クリニック)から,協会けんぽ千葉支部と共同で,施設での特定保健指導の初回面談実施率100%を目指した取り組みを発表していただきました.こちらの施設では17名もの管理栄養士が保健指導のみならず多くの健診業務で活躍しています.面談や継続支援の方法を見直し,それを可能にするための定期ミーティング開催などの業務改善を行うことで,2016年から2017年にかけて初回支援実施率を約7倍,支援完了率は約9倍に爆発的に増加させました.一見,地味な業務改善なのですが,この定期ミーティングこそが参加率向上の起爆剤でした.ミーティングは対象者を送り出す側の協会けんぽ千葉支部の保健師と共に行われ,他施設の良好実践の情報提供など,どうしたらもっと保健指導を受けやすくなるかについて外部コンサルタントのように関わりました.この一部始終を,保健師の白田千佳子氏(元協会けんぽ千葉支部)より語っていただきました.最後に,葛西美彩氏(新浦安虎の門クリニック)が登壇され,当時なぜこのような業務改善が可能になったかを振り返ってもらいました.

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 第二次世界大戦前夜のオーストリア.山あいの小さな村,ザンクト・ラーデグントで農業を営む主人公フランツ(アウグスト・ディール)は,一目ぼれしたファニ(ヴァレリー・パフナー)と結婚し,子どもにも恵まれて幸せな生活を送っていました.1938年,ナチスドイツによるオーストリア併合が国民投票によって承認されます.敬虔なカトリック教徒であったフランツはヒトラーに反キリスト的な思想を感じて不安になりますが,村長はじめ村人の多くは併合に賛成の様子です.

 映画の冒頭で,ナチスドイツでは,徴兵された者はヒトラーへの忠誠を宣誓することが義務付けられていることが紹介されますが,フランツはヒトラーへの忠誠を誓うことが,神の意志に違うのではないかと悩みます.1939年にドイツ軍がポーランドに侵攻し,第二次世界大戦が始まります.

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書評

次号予告

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 わが国のがん検診は多種多様な実施主体によって,また,福利厚生目的など,さまざまな理由で実施されているので,その実態が分かっていない状況にあります.また,がん検診は臓器によって検診方法が異なり,診断技術には専門性が高く,また予防啓発,検診・精検,治療,評価を一貫して実施される必要があります.

 大阪府は1959年に全国に先駆けて大阪府立成人病センター(現大阪国際がんセンター)を創設し,調査部(がん登録),集団検診部(がん検診)を置いて,がん対策の手法開発と評価に取り組んできました.また,府保健所に検診機器を整備し,保健所を重装備することも検討していました.しかし,保健所の強化は難しく,大阪成人病予防協会にがん検診車を配車する方式となりました.しかし,1980年代からの全国的な地域保健や地方自治体制度改革の潮流によって府の事業として進める法的根拠がなくなり,構想は頓挫してしまいました.

基本情報

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公衆衛生
84巻3号 (2020年3月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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