公衆衛生 84巻2号 (2020年2月)

特集 保健医療サービスの経済評価—費用対効果評価の応用

「公衆衛生」編集委員会
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 近年,保健医療に関連する事業や活動に関して,その効率性が問われるようになってきました.特に保健医療の経済評価は,限られた資源を効率的に配分するために欠かせないものとなりつつあります.

 経済評価の応用として,最近,中央社会保険医療協議会による医薬品や医療機器に関する費用対効果の検証が始まりました.これは2016年度に試行的に導入され,その結果を踏まえて,2019年度から本格実施されているものです.また,医療以外にも,ワクチンやがん検診,さらには,禁煙治療を含むたばこ対策などにも経済評価が応用されるようになってきました.

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【ポイント】

◆保健医療財政が限られている中で,保健医療の費用対効果の評価が重要となっている.

◆経済評価を応用する場面としては,医薬品などを用いる保険診療の他,予防などの保健事業も想定される.

◆日本では約10年の議論を経て,2019年度に中央社会保険医療協議会(中医協)において医薬品・医療機器の費用対効果評価が制度化された.

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【ポイント】

◆2019年度に,医薬品と医療機器を対象にした費用対効果評価の本格導入が始まった.

◆その目的の一つとして,費用対効果の観点から保険収載価格の妥当性を検証することも挙げられている.

◆費用対効果評価の結果に基づいて,引き上げや維持,引き下げなどの価格調整が行われる.

保健医療経済評価の手法 白岩 健
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【ポイント】

◆医療経済評価の対象となる医療技術には,医薬品や医療機器のみならず,保健医療サービスに該当するようなさまざまな対象が含まれる.

◆費用対効果の結果は,増分費用を増分効果で割った,増分費用効果比(ICER)で表されるのが一般的である.

◆ICERを算出する際のアウトカム指標としては,生存年をQOL値で重み付けした質調整生存年(QALY)を用いることが一般的である.

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【ポイント】

◆イングランドの国立医療技術評価機構(NICE)は医薬品,医療機器や高額設備に加え,公衆衛生,医療の質指標,社会的介護などの横断的分野の意思決定に活用されている代表的機関である.

◆NICEの役割は国民へ情報を伝えることである.医薬品などの臨床的有効性および費用対効果に関する意思決定内容のレポートやガイダンスを作成する役割を有している.

◆NICEが費用対効果分析を用いる理由は,既存治療薬と比べてどの程度優れた効果があるのかということを総合的に評価し,一貫して公平な比較評価を行うためである.

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【ポイント】

◆日本では2019年4月に医薬品・医療機器の費用対効果評価の医療制度への活用が開始された.医療経済評価に関する高度な知見を有する実務家あるいは研究者などの育成が不可欠である.

◆これまで,日本では体系的かつ専門的な教育を行う医療経済評価専門家の育成プログラムは限られていた.

◆医療経済評価を保健医療政策に取り入れている代表的な国である英国では育成プログラムが発展している.日本でも今後,人材育成プログラムを充実させることが期待される.

ワクチンの医療経済評価 池田 俊也
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【ポイント】

◆ワクチンの医療経済評価は多くの国々において予防接種・ワクチンの導入の判断に利用されている.

◆わが国においても,ワクチンの定期接種化を見据えて費用対効果に関する検討が行われている.

◆社会の立場からの分析を実施する際には,本人や家族などの「生産性損失」の評価法を確立する必要がある.

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【ポイント】

◆医療プログラムの経済性・費用対効果を評価する際には,単なる費用の増減でなく,健康アウトカムへの影響も同時に見積もる必要がある.

◆たばこ対策は喫煙関連疾患の医療費を削減できると同時に,生存年数やQALYの改善も見込める点で,予防介入の中でも極めて費用対効果に優れる介入である.

◆2015年の喫煙に伴う超過コストは医療費1兆6,900億円,その他の費用3,600億円,合計で2兆500億円と推計される.

がん検診の医療経済評価 此村 恵子
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【ポイント】

◆がん検診の費用対効果を評価する際には,その有効性・安全性の科学的根拠が明らかになっていることが重要である.

◆がん検診の費用対効果を評価する際には,比較する相手を設定することが重要である.

◆標準化された手法でがん検診の費用対効果の分析を実施していくべきである.

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はじめに

 私は社会学の立場から日本の若者支援について研究しています1).これまで,日本の公的な若者支援機関である「地域若者サポートステーション」(以下,サポステ),そして英国の公的な若者支援機関である「コネクションズサービス」について調査・研究を行ってきました.若者支援というと,いわゆる就労支援がイメージされることが多いのですが,実際にはより多様な専門性が求められています.

 本稿では,私が行ってきた研究の中で見えてきた,若者支援における保健医療の専門職の方々との連携の実情,そして重要性について述べます.

連載 衛生行政キーワード・135

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はじめに

 わが国では,国民皆保険の下,有効性・安全性が確認された医療であって必要かつ適切なものは,薬価制度,材料価格制度に基づいて保険適用することを基本としている.しかしながら,急速な高齢化に加え,近年の高額な医薬品・医療機器の登場などによる医療保険財政への影響が懸念されている.今後も革新的で高額な医療技術の保険適用は増加すると考えられており,医療保険財政との両立をどのようにしていくかが課題となっている.

 医薬品・医療機器に対する費用対効果評価制度1)〜3)については,2012年5月に中央社会保険医療協議会(中医協)に費用対効果評価専門部会が設置され,検討が開始された.その後,2016年の試行的導入4)5)を経て,2019年4月より制度運用が開始となった(図1)6).費用対効果評価制度を円滑に導入するため,薬価・材料価格制度との整合性を取りつつ制度設計が行われた.

 本稿では,わが国における費用対効果評価制度の特徴および今後の展望について記載する.

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はじめに

新宿二丁目にあるコミュニティセンターaktaから

 私たちが活動の拠点とするコミュニティセンターakta(アクタ.特定非営利活動法人)1)は日本最大規模のゲイタウンである新宿二丁目にある(図1).現在,日本のHIVの主な感染経路であるMSM(men who have sex with men.男性とセックスをする男性)の対策の拠点として,2003年に創設されたものである.私たちはここを基点に,東京都および首都圏を活動の範囲として,MSMを対象にした性の健康の増進の取り組みを行っている.

 MSMの性の健康の増進という点で,現在でも最も重要な性感染症はHIV(human immunodeficiency virus)/後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS.エイズ)である.国際連合エイズ合同計画(UNAIDS)2)や世界保健機関(WHO)3)は2030年までに「公衆衛生上の脅威としてのエイズの終結」を目指すとしている.また,そのビジョンは,HIV陽性者が長く,健康な人生を生きることができる世界の中で,①エイズ発症を「ゼロ」とする,②エイズに関連する死亡も「ゼロ」とする,そして③エイズに関連する差別を「ゼロ」とすることの実現である3)

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 2019年9月8(日)に第27回さんぽ会夏季セミナー2019「健康経営に役立つプレゼンの秘訣」が,TKP東京駅大手町カンファレンスセンターで開催されました.多職種産業保健の研究会であるさんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)の活動の中で,月例会では時間的に扱えないテーマを年に1回じっくりと議論するのが目的です.最近,「健康経営」という言葉が定着し始め,健康に関する取り組みを行う企業や団体が増えてきています.その一方で,経営層や社員に健康情報や健康施策の重要性がうまく伝わらない…と歯がゆい思いをしている方もいると思います.今回はそれらの悩みを解消すべく,「伝わるプレゼンテーション」についてさまざまな角度から学ぶことにしました.

 第Ⅰ部は「プレゼンの達人に学ぶ」.達人はちょっと言い過ぎですが,工夫してきた5人の先輩の経験から学ぼうという趣旨です.トップバッターは私から「テクノロジーで振り返る福田のプレゼン史」と題して,小学生時代の福田新聞から最近の動画配信までを振り返りました.続いて江口泰正氏(産業医科大学)に「ヘルスリテラシーを高めるプレゼン」と題して,ヘルスリテラシーを高める資料作成の方法について支援者側の心得の解説をしていただきました.金森悟氏(東京女子医科大学)は「文献から学ぶ健康経営のためのプレゼンテーション」と題して,社員向けと上司・経営層向けのプレゼンの目的の違いをおさえつつ,プレゼンで参考になる図書の紹介をたくさんされました.海野賀央氏(株式会社CSIソリューションズ)には,人事の立場から主に上司や経営者などに対して社内決済を取るまでのプロセスについて解説いただきました.日頃の根回し・コミュニケーションがいかに重要かを語られました.最後に小林宏明氏(住友商事株式会社)が,予防歯科を推進する歯科医の立場で,正しいことを言っても動いてくれない社員の「感情にアプローチ」するプレゼン技法のコツについて述べられました.

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 第二次大戦下のドイツ,10歳の少年「ジョジョ」はアドルフ・ヒトラーを救国の英雄と信じて疑わず,ナチスに憧れています.しかし,実は気の弱い少年のようで,ヒトラーユーゲントの合宿に参加する日も,自分には無理かもしれないと不安になります.そんなジョジョを励ますのが,彼の空想上の友人「アドルフ・ヒトラー」です.

 立派な兵士になるために一生懸命,訓練に励むものの,ユーゲントの先輩からのウサギを殺せという残酷な命令を実行できなかったことから,「ジョジョ・ラビット」と呼ばれてしまいます.名誉挽回とばかりに手りゅう弾を投げる訓練に参加しますが,失敗し大けがを負って家に戻ります.

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次号予告

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 本号の特集は,①保健医療の経済評価の歴史と概要・意義,方法論,②この分野の先進国である英国の取り組みや人材育成の課題など,③本年度から中医協で本格実施された医薬品・医療機器の「費用対効果評価」を中心に,保健医療の経済評価の主要な部分を網羅した前半と,現在,活発な議論が行われている①ワクチン,②たばこ対策・禁煙治療,③がん検診の経済評価の具体的な内容を解説した後半から成っています.

 複数の著者が指摘していることですが,「保健医療の経済評価の結果のみで,ある政策の実施を進めるべきか否かを決めるべきではない」というのは,大変重要なメッセージだと思います.医薬品・医療機器であれば,まずその有効性や安全性に関する臨床的エビデンスがあることが前提であり,保健事業においては,社会・文化的条件や国民の安心・安全な生活につながるという公衆衛生上のメリットなど,さまざまな要素を総合的に勘案して判断することが求められます.その中においてこそ,科学的に適切な方法で実施された経済評価が,政策的判断の重要なエビデンスとして生きてくるのではないでしょうか.

基本情報

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公衆衛生
84巻2号 (2020年2月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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