公衆衛生 84巻1号 (2020年1月)

特集 データヘルスの活用—公衆衛生活動に生かす

古井 祐司
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 「データヘルス」という言葉が初めて世の中に登場したのは2013年です.超高齢社会・日本において国民の健康寿命の延伸のための予防・健康管理を進める新たな仕組みとして,同年に政府が打ち出した「日本再興戦略」で掲げられました.医療保険者がその主体となっていることから,公衆衛生活動とは別の物と思われがちですが,加入者(国民)の健康と生活の質向上を目指すアクションは公衆衛生活動の推進そのものです.また,データヘルスの制度設計では,全ての国民を対象とすることが強く意識されている点も公衆衛生活動の理念と親和性があります.

 データヘルスの最大の特長の一つは,データに基づく健康課題の可視化です.全国の地域や職場の健康課題を共有し,課題解決に有効な取り組みのノウハウを蓄積することが可能です.多様化する健康課題に対応するには,部署を横断する取り組みや地域資源の共創が不可欠になっていますが,データヘルスの枠組みに乗ることで,公衆衛生従事者それぞれが持っている暗黙知が明文化され,皆で共有し活用できるようになります.また,レセプトや健診データに基づく形式知が専門職の活動の効果や問題点を明確にし,公衆衛生活動の進化につながります.

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【ポイント】

◆「日本再興戦略」において,健康寿命延伸のための予防・健康管理の新たな仕組みとしてデータヘルスが掲げられた

◆データヘルスが導入された背景および特長と公衆衛生活動に活用する際のポイントを述べる.

◆公衆衛生従事者のスキルアップや地域資源の共創にデータヘルスが活用されている全国の事例を紹介する.

地域の健康医療行政におけるデータヘルスの活用

静岡県の取り組み 土屋 厚子
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【ポイント】

◆静岡県では,市町村および医療保険者などの健康づくりに力を入れている.データ分析を積極的に行い,効果的に行政施策の展開に活用している.

◆今後の地域包括ケアシステムの構築を考えていく上では,地域診断をして,健康課題を含めた「地域づくり」を行うことが必須である.

◆市町村および関係機関との共創のこつは,何度も足を運びコミュニケーションを取り,積極的な情報発信を行うことである.

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【ポイント】

◆福島県内約9万の中小事業所に所属する,自身の健康づくりが二の次になりがちな働き盛り世代への行政からのアプローチが課題となっている.

◆福島県の健康増進を進めるという観点から,2017年に「元気で働く職場」応援事業を立ち上げた.

◆行政と企業,大学などとの協働による,事業所への健康増進活動を支援する仕組みづくりの取り組みを行っている.

職域におけるデータヘルスを活用した健康事業の取り組み事例

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【ポイント】

◆花王株式会社の健康経営は,健康宣言を実現するための組織とデータ分析,それに基づく健康づくりの着実な実践にある.

◆健康施策を現場で浸透させるため健康実務責任者を設置し,産業医,看護職とともに健康経営に取り組んでいる.

◆データに基づく課題抽出と施策実行をし,それを振り返って改善することで健康経営を進化させている.

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【ポイント】

◆国民健康保険と全国健康保険協会(協会けんぽ)が保有する健診・医療データの共同分析によって,青壮年期から前期高齢者までのデータがそろい,地域の健康課題が明確になり,連携する目的を共有できる.

◆協会けんぽ加入者の健康リスクは地域間差と業種間差が大きい.社会環境の整備のために事業主や自治体との連携が欠かせない.

◆自治体との連携により,事業主が自主的に健康づくりに取り組む場合の選択肢が増え,加入者が特定健診・保健指導,重症化予防に参加しやすい体制をつくることができる.

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【ポイント】

◆学童期の子どもを対象にして,静岡県と東京大学との共創の下,データヘルスを活用した生活習慣病予防教育を試行した.

◆特定健診データなどを活用した生活習慣病予防教育プログラムによる意識・行動変容や家族への波及効果がうかがえた.

◆子どもの健診情報などに関しては,関係省庁の連携の下で一元的活用が検討されている.

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【ポイント】

◆外部委託事業者を上手に活用することで,データヘルスに着手するハードルを下げ,クオリティーを向上できる.

◆健康データの活用は,分析も重要であるが,データ整備やデータ活用ルールの策定などの準備も同様である.

◆健康データ分析は,シンプルな集計でもデータの切り口や比較などの工夫次第で十分に有効である.

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【ポイント】

◆国民のライフスタイルなどの変化に対応するためには,幅広い関係者が連携し,地域一丸となって多面的にアプローチを行うことが重要である.

◆地域保健と職域保健の間では「データ」や「リソース」の相互共有や効果的な活用が重要である.

◆データ分析は目的ではなく手段であることを意識し,既存データなどを活用しつつ「まず,やれること」から取り組んでいくという視点が重要である.

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今,公衆衛生の背景を知る

 2019年2月に,兵庫県神戸市内の雑居ビルで飲み水のノロウイルス汚染事故があった.事件の後,若手の保健所担当者は,こう話した.

 「ビルの躯体を利用した地下型受水槽を見るのは初めてでした.経験を積んだ環境衛生監視員は定年していなくなり,経験が少ない残った者でやっています」

連載 世界に届け! Boshi-Techo・3

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はじめに

 情報のデジタル化が進んだことによって近年.グローバルヘルスの領域でもさまざまな変革が起きている.2018年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,持続可能な開発目標(sustainable development goals:SDGs)のうち,健康に関連する指標を向上させる技術として「デジタルヘルス」の活用を宣言した1).また,2019年には,デジタルヘルスによって人々が質の高い保健医療サービスへ垣根なくアクセスできるようになること,そして,その結果としてSDGsが達成されることを国際社会全体で目指し,「Global Strategy on Digital Health」を発表している2)

 デジタルヘルスとは,携帯電話,タブレット,インターネットなどを介したヘルスケアを指し,遠隔診断や人口知能(artificial intelligence:AI)による予後予測などもこの概念に含まれる3).中でもスマートフォンなどを利用したモバイルヘルス(mobile health:mHealth)と呼ばれる分野は,アクセシビリティ,費用対効果,有効性の観点から,世界でその意義を認識されつつある4)

 国際連合パレスチナ難民救済事業機関(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East:UNRWA.ウンルワ)は上記のような近年のトレンドに乗り,パレスチナ難民の医療データのデジタル化,そしてmHealthの導入に取り組んできた.本稿では,UNRWAの母子手帳と,そのモバイルアプリケーションへの変遷を紹介する.

連載 リレー連載・列島ランナー・130

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はじめに

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を目前にして,訪日外国人の数は増加の一途をたどっている.関西でも2025年に日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催されることが決定しており,それに伴って訪日外国人対策が注目され,議論が行われるようになってきている.

 りんくう総合医療センター(以下,当院)には2006年に国際診療科の前身である「国際外来」が開設され,10年以上が経過した.筆者(図1)は2007年からスペイン語通訳ボランティアとして活動しており,現在は外来の副看護師長として職務する傍ら,国際診療科(2012年11月に開設)の業務を兼任している.日々,外国人患者への対応を行っているが,世間では「国際診療」や「外国人診療」が特別なもののように騒がれているように感じている.特に言語や習慣に特化して考えられ,外国人患者は「社会的弱者」として語られていることが多い.

 当院の国際診療科は,病院内スタッフが外国人診療を行う上で,かゆいところに手が届くようなサービスを提供するための潤滑油の役割を行っている.そうすることで,病院スタッフたちがそれぞれの持つ責務を遂行することに専念でき,医療チームとしてのアウトカムをより良いものとできる.医療スタッフの中には,あらゆるコミュニケーション方法を駆使して外国人患者への対応を行う者もおり,その真摯で実直な姿勢が,より良いアウトカムの一助にもつながっている.しかし,筆者は,国際診療科の一番の成功要因は,外国人患者のセルフマネジメント能力の高さではないかと感じている.外国人患者の持つセルフマネジメント能力から,今の日本国民の健康管理のあり方への大きなヒントを得られるのではないかと思っている.

予防と臨床のはざまで

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 前回に続いて,日記風に今年の夏の活動を振り返ります.2019年7月16日,ハンガリーの医学部3年の実習生を総合診療科に受け入れました.最近は,海外の医学部に留学し,卒業後に帰国して日本の医師国家試験を受験する日本の学生が増えているそうです.私はクルズス(ミニ講義)を担当し,総合診療と予防医療,日本の産業医学の現状について話をしました.一方で,現地の英語で行われる授業の話や進級の難易度,卒業後のキャリアをEUと日本のどちらで築きたいかなど,彼らの話に興味深く耳を傾けました.

 同日夕方,半蔵門のTOKYO FMに移動して,住吉美紀さんのラジオ番組「Blue Ocean」の収録.協会けんぽがスポンサーとなっているコーナー「Blue Ocean Professional」で「働き方改革と健康」「健康リテラシー」をテーマにお話しました.テレビの収録と比べると緊張は低めでしたが,医師の働き方改革について逆に聞かれて,ドキッとする場面もありました.最後に,健康の秘訣は「情報力」とお話して無事,収録は終了しました.

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 第一次世界大戦の終戦から1世紀が経過し,2018年にパリで各国首脳が集まって,終戦100周年記念式典が開かれました.わが国は第一次世界大戦では戦場になることはなく,あまり関心を集めませんでしたが,主な戦場となった欧州では,かつてないほどの多くの犠牲者が出ました.戦後処理が第二次世界大戦の遠因となったとも考えられ,後世に大きな影響を与えた戦争と捉えられて,現在でも大戦(Great War)と言うと第一次世界大戦を指すことが多いようです.100年を迎えて,第一次世界大戦を描いた映画もいくつか製作されました.83巻7号で「田園の守り人たち」を紹介しましたが,今月ご紹介する「再開の夏」も第一次世界大戦後のフランスを舞台にした作品です.

 1919年,第一次世界大戦が終わった翌年の夏.田舎町の広場の木の下に,ドーベルマンでしょうか,強そうな一匹の犬がいます.猛暑の中で犬が熱射病にならないかと心配ですが,犬は,ある建物に向かって吠え続けています.軍用犬にもなるほどの大型のドーベルマンですから,吠え声も大きく,建物から出てきた男は吠えるのをやめさせようと石を投げつけますが,あまり効果はありません.

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目次

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次号予告

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 データヘルスは,ICTインフラを作り変え,健康・医療・介護情報を一体的に活用することにより,官民一体となって質の高いヘルスケアサービスの提供を目指す取り組みです.

 古井祐司先生には,上記のことに加え,データヘルス導入の狙いや公衆衛生活動への活用の展望を解説していただきました.土屋厚子先生,味戸智子先生には,地域の取り組みを紹介していただきました.

基本情報

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公衆衛生
84巻1号 (2020年1月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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