公衆衛生 80巻5号 (2016年5月)

特集 専門医制度の確立と地域医療

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 わが国は,1874(明治7)年に医制を発布し,戦前はイギリス,ドイツ,戦後はアメリカを中心に留学者を多く派遣するなどして,欧米の医学,制度を学んできました.今や世界的に評価される医療体制が整っています.しかし,医療サービスや人材の質の保証や標準化については,まだ道半ばの状況にあります.また地域医療システムについては,地域の医療者が主体となって地域医療構想を進めることが求められています.さらに医師,薬剤師,看護師などの医療専門職の質を確保することと,その教育の国際的な標準化を図ることが現在の課題として残されています.その中で医師の教育・研修制度改革は先行して進められています.市中の病院を巻き込み,地域社会の中で医師を育てる制度とされてきています.

 また,医学や医療技術の進歩により狭い分野の専門医が増えるだけで,高齢社会の医療ニーズに応えられなくなっています.そのため地域において人間を総合的,全人的にみる医師を教育,訓練して配置することが必要とされています.わが国でも漸く総合診療専門医を育成がはじまることになりました.しかし,公衆衛生医師の育成,訓練,供給する仕組みはまだ未確立な状況にあります.本特集では,専門医制度の進捗状況と,注目の総合診療専門医とはどのようなのか医師なのかについてご解説をいただきます.また,公衆衛生の専門医の育成や認定の現状について,議論にかかわっている有識者の方々からご教示をいただくことにします.

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 新しい専門医制度が2017年4月から開始される.専門医を目指す医師は「自信を持って医療を担当できる一人前の医師になりたい.そのために充実した研修を受けたい」と考えており,一方,患者さんは「標準的で安全な治療を受けたい.医療の地域間格差を小さくして欲しい」と常に願っている.専門医を目指す医師や患者のこれらの願いに応えられるようプロフェッショナルオートノミーを基本に新専門医制度の構築に取り組んできた.

 医学・医療にも国際化の流れが押し寄せてきている.国際標準の認証を持つ医学部での教育を受けた医師のみが米国で臨床医として働くことができるという仕組みが導入されているが,卒後専門医教育も国際化の流れが明らかになりつつあり,海外にも通じる新専門医制度を構築する必要も生じてきている.新たな専門医制度を確立する意義は非常に大きい.

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 厚生労働省による「専門医の在り方に関する検討会」の報告書(2013年4月)を受けて,新たに「総合診療専門医」が創設され,これが基本専門医資格の一つに位置づけられることとなった.この他,報告書には,専門医資格の取得を2段階制とし,最初にいずれかの基本領域の専門医資格を取得した後に,より細分化したサブスペシャルティ領域の専門医資格を取得すること,全ての医師がいずれかの基本領域の専門医資格を取得することを基本とすること,などが盛り込まれている.

 すでに,2014年5月に,新たな中立的第三者機関としての「日本専門医機構(以下,機構という)」が設立され,基本19領域(内科,外科などに加え,新たな総合診療専門医を含む)については,機構が示した「専門医制度整備指針」に則って,領域別の「専門研修プログラム整備基準」「モデルプログラム」の策定が完了し,2017年度からの新たな専門医制度による研修開始に向けて,全国の研修予定施設から「研修プログラム」の申請がなされ,機構によるプログラムの認定作業が進みつつある.今年(2016年度)の初期臨床研修2年目の医師は,いよいよ,来年度には,いずれかの専門医研修プログラムにエントリーし,専門研修が始まることとなる.

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 読者がこの原稿を目にするのは,本年5月号と聞いている.その時期であれば,既に,全ての領域の専攻医研修プログラムの申請は締め切られ,承認作業にも着手され,卒後2年目の研修医は,進みたい診療科の選択やその診療科を募集している全国の専攻医研修プログラムの中からどれを希望しようかといったことに専ら関心が注がれ,それぞれ情報収集に努めている時期だと思う(そういう状況になっていることを信じている).

 しかしながら,私が本稿を執筆しているのは2016年1月下旬の某日.未だに,システムとして具体的な部分でわからないことはもちろん,どういう研修医療機関群でどのように展開されるのか? について吟味し,考察する材料はこの段階では小生の手元にはほとんど何もない状況であることを,まず説明(釈明)しておかなければならない.

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公衆衛生行政医師は少数派

 2014年の厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によると日本の医師数は31万1205人で,そのうち臨床(老人保健施設など介護職場は臨床に含める)以外の職場に勤務する医師数は3%弱の8576人である.このうち行政機関に勤務する医師は1661人,産業医994人,保健衛生分野には922人となっている.この数字はあくまで医師の自己申告に基づいた調査結果である.

 一方2013年度の厚生労働省の「地域保健・健康増進事業報告」による保健所及び市区町村で働く行政医師は981人となっている.これは都道府県保健所や特別区・保健所設置市保健所(本庁も含む)で働く医師数であり,都道府県の本庁で働く医師は含まれていない.

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 社会医学系の専門医の制度の確立に向けて,関連学会・団体(表1)が共同で動き出した.この一連の動きは,使命感,倫理性,誇りと公共への責任をもって医療・公衆衛生の向上に貢献し,国民に信頼される専門医の制度,専門医の質を保証し向上させる制度を,着実に確立することを目指すものである.並行して,社会医学,公衆衛生に関する全職種において,当該領域の専門家制度の一層の充実が目指されることになろう.

 この努力は,社会医学系におけるキャリアパスを明確にし,専門的活動の内容と意義を関係者および国民に見えやすくし,その研修プログラムを体系化して一層の向上を進めていくものである.これを共通の基盤とし,さらなる各専門領域の専門医(サブスペシャルティ)が構築されていくことになる.以下に,社会医学系専門医協議会を立ち上げるまでの議論やその後の議論や成果(共同提言や研修プログラムを含む)を踏まえ,現状を報告する.

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 今,領域・分野を問わず,高等教育の質保証が問われている.

 高等教育機関では社会に役立つ人材を育成し,研究活動によって叡智を高め,もって国民から信頼されなければならない.とりわけ専門性が高い医師の育成においては,国民の健康を守り,増進するのに寄与できる人材の輩出が強く求められる.この目的を達するには,医学部における教育の質保証が重要になる.さらに,グローバル化が進められる中,国際的見地で医療に貢献できる医師を育成することも欠かせない.

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 イギリスは,歴史の中で医師,看護職などの資格,認定,登録の制度を発展させてきた.専門職団体に権限を委譲した背景には,ローマ・カソリック支配から離脱を図る必要性があったことがある.教育,医療,福祉,救済などの多くがローマ・カソリックの聖職者に握られていた1)のを,16世紀にイギリス国王は医師の資格認定をローマ・カソリックから切り離し,医師の専門職団体に委ねた.以後,専門職団体が基本的に自己統治する形態は引き継がれてきている.以下にイギリスにおける医師の資格認定の歴史と公衆衛生専門家制度の現状について記す.

視点

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 タバコの害の話と言うと,今さらと思われるかもしれませんが,実はこの分野の研究も日進月歩で,専門の月刊誌も海外で複数刊行されており,次々と新たな研究成果が報告されています.

連載 衛生行政キーワード・106

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 医師の臨床研修は,「医師が,医師としての人格をかん養し,将来専門とする分野にかかわらず,医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ,一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう,基本的な診療能力を身に付けることのできるものでなければならない」を基本理念とし,2004年4月から,診療に従事しようとする全ての医師に対し,その履修が必修となった.現在の臨床研修制度が設立されるまでの変遷を振り返り,臨床研修必修化からの約10年間の歩みと,今後の課題等について概観してみたい.

連載 いま,世界では!? 公衆衛生の新しい流れ

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 グローバル人材の養成が注目を浴びているがその意味するところは必ずしも明確ではない.文部科学省の「経済社会の発展を牽引(けんいん)するグローバル人材育成支援事業」1)においては,「グローバルな舞台に積極的に挑戦し世界に飛躍できる人材」とされ,「学生のグローバル対応力を徹底的に強化し推進する組織的な教育体制整備の支援を行うこと」が謳われている1).また,この事業の上位概念である「スーパーグローバル大学等事業」においては,「高等教育の国際競争力の向上及びグローバル人材の育成」が目指されており,このような取り組みによって世界の主要100の研究大学を目指すタイプA型と,わが国社会のグローバル化を牽引する大学を目指すタイプB型の指定が2014年に行われ,現在,それぞれ13校と24校において取り組みがなされている2).しかしながら,公衆衛生関連領域では,このような人材のグローバル化の大合唱に違和感を覚える向きが多いのではなかろうか.

 なぜなら,大部分の地域保健医療サービスはいわば「地産地消」の最たるものであるし,途上国の医療問題に取り組む保健医療関係者や国際学会で活躍する邦人研究者・実務家もおられるが,このような人材はむしろ少数派であることを知っているからである.そこで,なぜ“いま”国際保健人材を論議しなければならないのか,新しい国際保健人材のパラダイムは何か,について述べ,最後に,実現のために何ができるかを論じてみたい.

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 昔からサッカーが好きで,チームが勝つために自分が頑張ることは苦ではなかった.チームで勝つためにそれぞれが役割を最大限発揮することの意義を肌で感じていたし,多くのポジションで役割を意識しながらプレーしていた.医学部生だった頃から,どんな形であれ医療に関わって世の中を良くすることができるのであれば,自分一人ぐらい臨床現場から離れても,現場で頑張る仲間がもっと活き活き働くことができる環境を作れればそれでよいと考えていた.

 そして今,高知県の医療行政というフィールドに身を置いている.現職でもうすぐ2年が経とうとしている.これまでの学びを振り返ってみた.

連載 [講座]子どもを取り巻く環境と健康・15

児の精神神経発達と環境化学物質(2)

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 ダイオキシン類やPCBなどの内分泌かく乱化学物質の次世代影響の1つとして,児の神経発達への影響が指摘されている.低濃度汚染地域(日常生活レベル)については,ダイオキシン類による児の神経発達との関連を縦断的に調査した研究は,海外ではオランダとドイツ,日本ではわれわれの札幌コーホートに限られる.これらの研究は,曝露濃度を測定する生体サンプルの種類,曝露指標(PCBかダイオキシンか等),神経発達の評価指標と測定時期が研究ごとに異なっているため,結果を直ちに比較することができないといった問題がある.しかし乳幼児期にはダイオキシン類による児の神経発達への影響が見られるが,学齢期には適切な家庭環境による知的な刺激等により改善するため,成長とともに影響が検出されづらくなるという報告が多い.ADHD(注意欠如・多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)については十分なデータがない.また,ダイオキシン類の性ホルモン作用との関係で男女により影響が異なる.引き続き検討が必要と思われる.

予防と臨床のはざまで

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 2016年2月21日,東京大学において,日本健康教育学会主催ワークショップ「NCD予防に向けたヘルスプロモーションアプローチのためのアドボカシー(政策提言)スキル向上セミナー:エビデンスから影響力へ」が開催されました(http://nkkg.eiyo.ac.jp/privacy/pg371.html).今回の企画は,学術委員会委員長である春山康夫先生(獨協医学大学公衆衛生学講座)と国際交流委員会委員長である私の協同企画です.昨年1月に行われた学会主催セミナー「研究・実践からアドボカシー(政策提言)へ」では,階層別(グローバルレベル,国レベル,自治体レベル,組織レベル)のアドボカシーを中心に,私は職域のヘルシーカンパニー・健康経営へのアドボカシーの実例とヒントを示しました.

 今回のセミナーはその続編とも言えるもので,オーストラリアからトレバー・シルトン教授(オーストラリア国立心臓財団)を招聘し,アドボカシーの基本的な手法の習得を目指すワークショップを企画しました.トレバー教授は,健康教育分野の国際学会であるIUHPE(国際ヘルスプロモーション健康教育学会)のアドボカシー担当理事で,今まで世界10カ国以上で,今回のようなアドボカシーのワークショップをされています.英語による講義の聴講はもちろん,アドボカシーについてのグループワーク後に英語での発表もあるため,語学的にはかなりハードルを感じさせるセミナーになるのではと心配しましたが,聴講生含め65人もの方の参加となりました.

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 アカデミー賞の発表がありました.今月ご紹介する『スポットライト 世紀のスクープ』は6部門にノミネートされていましたが,作品賞と脚本賞に輝きました.

 本誌2012年5月号でご紹介した『オレンジと太陽』では,第2次世界大戦後に,イギリスからオーストラリアへ移住させられた子供たちのことが描かれていました.この映画のなかでも触れられていましたが,オーストラリアの養護施設に入所した子供たちに,施設内での虐待,なかには性的暴行を伴うものもあったかもしれないという疑惑でした.養護施設のなかには,カトリック教会の運営する施設もあったでしょうし,施設で働いていた司祭や修道士もいました.聖職者であっても,人間ですから,間違いを犯すことも皆無ではないでしょう.『スポットライト 世紀のスクープ』は,聖職にある人々が犯した過ちを告発しようとするボストン・グローブ紙の記者たちの奮闘を描いています.

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 わが国が「少子高齢社会」であることは周知の事実である.しかし,その様相は地域によって異なることはあまり認識されていない.

 本書によると,例えば北九州市の場合,2000〜2010年までは若年層の人口流出が相当あったが,今後その影響は小さくなり,高齢者層の死亡数の増加により人口が徐々に減少していく.その結果,2030年には後期高齢者(特に女性)の数が増大する.傷病別入院受療率に基づく推計によると,2040年に肺炎が40%,骨折と脳血管障害が30%強増加することが予測される(p.2).そのかなりの割合で認知症が併存する.既に要支援・要介護状態にある高齢者の急性期のイベントにどのように対応するかが今後の課題となる.

お知らせ

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 脳のはたらきや構造を調べることができるようになったが,それでも脳には,わかっていないことがまだまだたくさんある.知れば知るほどおもしろい,脳のふしぎを見ていく本.豊富な写真や図で,子どもも大人も面白く読めるシリーズである.

 全3巻のタイトルは下記のとおり.

「1 脳研究の歴史」

「2 目で見る脳のはたらき」

「3 脳科学の最前線」

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次号予告

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 医学部に入った頃に,大学病院に青医連という組織がありました.卒業するほぼ全医師が加入していたようです.医局・講座と交渉して,特定の医局の人事に縛られずローテーション方式で医師研修を受けられる体制としていました.現在の医師の初期研修制度に近いものです.また医学部の中に教育企画調整室がつくられ,学生と教官が協働して医学教育カリキュラムをつくる作業も行われていました.

 私自身は公衆衛生の道を選択したため,地方自治体の公衆衛生の現場で勉強することからはじめ,大阪府立成人病センター調査部,大阪府立羽曳野病院を経て,2カ所の保健所で保健予防課長として勤務しました.大阪府には7年余りお世話になりました.その後,大阪大学で20年余り医学生の公衆衛生教育を担当してきました.

基本情報

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公衆衛生
80巻5号 (2016年5月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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