公衆衛生 61巻4号 (1997年4月)

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スクリーニング検査とは

 スクリーニング検査とは,試験,検査,その他の方法で,本人が自覚していない疾病または異常を識別することである.スクリーニング検査により,放置し自覚症状が顕れてから医療機関を受診する場合よりも病期の早い段階で発見できるため,それだけ早い段階での疾病の発症予防や合併症予防の対処が可能となる.しかしながら,疾患によって自然経過が異なり,スクリーニングの種類によって精度が異なることから,スクリーニング検査を実施する前にその検査を実施することの妥当性と合理性が評価されなければならない.個別の検(健)診の評価については各論に譲ることとし,ここではスクリーニング検査の評価方法およびスクリーニングを実施する上で必要な条件について解説および考察する.

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 神奈川県では,昭和48年より地域での総合的腎疾患対策の一翼を担う学校検尿事後措置対策が開始された.幸いにも,98%の検尿検体が一検査センターで処理されており,検査データのばらつきのない点が事後管理をする上に大きく寄与した.また,県内児童生徒の約70%が検尿後各地域での学校検尿判定委員会によって事後対策が講じられており,対象児童生徒は年ごとに適正に管理がされるようになった.

 診断よりも管理のあり方に目が向けられた学校検尿事後対策は,学童のpositive healthの面で大きく寄与したが,時代の流れはそれだけで済ますことを許さなかった.つまり,診断技術の高度化,腎疾患治療のレベルアップは従来の早期発見,早期適正管理をさらに一歩前進させ,早期診断,早期治療の方向へと進ませた.

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 乳幼児健診はこれまで母子保健対策の重要な保健事業として実施されているが,それに期待される意義は時代とともに変化してきているといわれている.

 母子保健法が昭和40年に制定された当時,その背景として妊産婦死亡率,乳児死亡率が高いことや,母子保健水準の地域格差が大きいことなどがあった.これらの改善のためには,従来の福祉施策を重視した児童福祉法による対策以外に,さらに保健施策を重視した法律が必要であった.このころの健康診査は疾病の早期発見・早期治療が行政の最重要の課題であったと思われる.

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 Bickelがフェニルアラニン(phe)摂取量を制限すればフェニルケトン尿症(PKU)の発症を予防できると報告したのと,Guthrieが乾燥血液濾紙を用いて血中phe濃度を測定する手法を考案したのを契機として,PKUの新生児マススクリーニングが世界的規模で普及することになった.その後,他の疾患も加わりマススクリーニング定着の要因となった.新生児マススクリーニングは早期発見,早期(予防)治療を目指したもので成人病の集団検診と類似の発想と解されたが,始めてみるといろいろと問題が出てきた.第1は対象疾患のいくつかが遺伝病であるため,genetic screeningとしての性格をもつことで,それへの対応,例えば遺伝カウンセリングの必要性,遺伝子解析によるスクリーニングの可能性などが問題として浮かんできた.もう1つはbiomedical ethics(医学生物倫理)としての側面で,これについては今後も詰めなければならない多くの問題がある1〜4)

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 人間だれもが長寿を願っている.また,医学医療が寿命の延長を目指して努力を重ねてきたのも当然のことと理解できるだろう.

 しかし,成果は今一つはっきりと日に見えてこない.検診に関しても有効性を科学的に明らかにした研究は少ない.日本においては皆無である.にもかかわらず,全国いたるところで検診車が走り回っている.なぜだろうか.

癌検診の有用性の評価 大島 明
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 わが国では多くの部位の癌検診が地域や職域において熱心に実施されている.「癌予防の決め手は早期発見・早期治療」との考えが,公衆衛生や医療の現場の関係者だけでなく,一般の人々にも定着しているといえる.このような状況の中で,「がん検診,百害あって一利なし」とか「それでもがん検診うけますか」,「患者よ,がんと闘うな」とする一連の近藤誠氏の主張は極めて重要な問題提起である.単にこれを異端の発言として無視したり,感情的,情緒的に反応して「近藤たたき」を行いさえすれば,それでこれまでの癌検診一辺倒路線の正当性が保証されるということには,決してならない.

 わが国において広く実施されている癌検診が所期の,癌死亡率減少の成果をあげているか否かには,理想的な条件の下での癌検診の有効性,すなわち効能(efficacy)と,癌検診の受診率,スクリーニングテストの診断精度,精検受診率などの要因が影響を及ぼす.本論文では,これらの要因の中で最も重要な癌検診の効能を中心に,癌検診の有効性の評価についての国内外の研究成果を簡単にレビューして,わが国の癌検診の問題点を検討する.

視点

公衆衛生の理念 多田羅 浩三
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 地域保健法の本格実施,また新しい介護保険制度の発足,医療保険制度の抜本的な見直しなど,めまぐるしく続く改革の嵐の中で公衆衛生は厳しい試練に直面している.そのような中では,改めて公衆衛生の基本理念について確認しておくことが不可欠になっているように思われるので,若干の愚見を述べさせていただきたいと思う.

連載 暮らしに潜む環境問題

放射線と健康 桜井 醇児
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1.放射線被爆の物理化学的効果

 放射線被曝によって体の分子レベルで起きる物理化学的効果,被曝によって体に現れる急性障害と晩発性障害,被曝による癌死亡リスク値,胎児被曝の大きな危険性,自然放射線の影響,食品の放射線処理の影響などについて今までに判明していることを説明し,また,これらの問題の評価の難しさ,異なる評価などについて述べてみたい.われわれの健康の視点から放射線被曝を考えるための参考にしていただければ幸いである.

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 日高 さらに今度は地域保健法という法律ができて,地域の方たちの1次的なサービスは市町村が責任を持ってしなさいねというふうになるわけですね.いろいろな計画もつくって,また都城市はウエルネスというのを常に1つの大きな柱にして活動を進めているわけですが,これからの新しい保健活動ということではどのような構想といいますか,あるいは実際にこんなふうにしたいなということがありますか.新しい構想ということでは…….

連載 福祉部門で働く医師からの手紙

入浴へのこだわり 牧上 久仁子
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 最近いつも明るい保健婦のHさんが元気がありません.眉間に縦皺を寄せ沈んだ様子です.「何かあったの?」と尋ねると,訪問看護制度の利用者の方と入浴介護のことで行き違いがありトラブっているとのことです.

 「お風呂のことはむずかしいよねー」というのがうちの職場の保健婦・看護婦・ヘルパーなどの各職種に一致する意見です.

連載 利用者のホンネ・タテマエ

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在宅ケアサービスを受けるまで

 夫が脳腫瘍と診断されたのが,平成3年1月22日.私たちは,大阪市に住んでいました.

 検査入院1週間,転院,再び検査,そして,平成3年2月8日,手術.私たちは,この日を「手術記念日」と呼んでいます.

連載 精神保健福祉—意欲を事業に反映するために

障害者計画を立てる視点 野中 猛
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 精神保健福祉領域に焦点をあてて障害者計画を立てる視点を整理する.われわれが当面の課題としている障害者プラン策定の作業は,新ゴールドプラン,エンゼルプランと並んで,地域社会がより自立的に体制を作ることができる機会である.誇張すれば,近代日本の歴史の中で,地方分権が形をなす始めてのことではなかろうか.地域の独自性が認められることは,一方で地域間格差が生じることであり,実際に高齢者プランのでき具合いによって,すでに住民の転居が始まっている.これらの作業は今後の市民社会を形成するうえで重要な契機となることを認識して論を進めたい.

 具体的な手順に従って,意義論,戦略論,方法論,内容論,モデル論の順に注目すべき視点を整理する.実際的には,総理府障害者施策推進本部による平成7年5月の「市町村障害者計画策定指針」と12月の「障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略〜」にそって実務を進め,それを補完するものとして参考にしていただければ幸いである.

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 大越町では,「着々と進む高齢化に住民の力を生かして共に支え合える地域にしていきたい」という保健婦の願いから,平成5年度に国の地域保健特別推進事業を取り入れ,健康な町づくりがスタートした.

 モデル地区となった白山区では,町プロジェクトチームとともに白山区すこやかな地域づくり推進委員会(以下,推進委員会)を発足し,「だれもが安心していきがいをもって暮らせる地域をつくろう」と,自分たちがめざす地域を話し合うことから始めた.その中から「区に住む人が高齢になっても,障害をもってもいきいきと生活できる」地域の健康な暮らしの姿を描き,そのための条件を話し合ってきた.そして,この話し合いの中から様々な活動(講師を招いての学習会,区民先進地視察,高齢化の進んだ町村との交流会,2回の調査,会報「いきいき白山」)も生まれた.以上,これまでの経過については前回までに報告した.

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 平成5年の「末期医療に関する国民の意識調査等検討会」の報告書1)でも明らかなように,末期医療に対する国民の関心は高く,苦痛の緩和や穏やかな死を望む声が少なくない.人権意識の高まりとともに,インフォームドコンセントや癌の告知に関しても論議が盛んになっている.一方,医療側からの論議は,日本医師会の第3次生命倫理懇談会の「末期医療に臨む医師の在り方」2),「がん末期医療に関するケアのマニュアル」3)などがある.しかしこれらはあるべき姿を論じたもので,医療の実態や医師を対象とした調査4〜6)は始まったばかりであり,とくに保健の領域での報告はほとんどみあたらない.

 福岡市では平成4年から,市内の7つの保健所すべてに総合相談窓口と在宅介護支援センターの機能を備えた「在宅ケア・ホットライン事業」を開設し,施設間ネットワークを形成しながら相談と訪問など,ケアマネジメントを積極的に行っている.相談件数は年々増加し,平成7年末までに7保健所あわせて,実数が7,354件,延べ数が18,638件に達した.しかし事例のなかには,医療拒否,尊厳死,痴呆老人の人権問題などの観点から,処遇に迷う例もみられ,われわれ保健従事者もこれらの問題に直面せざるをえなくなってきた.

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 国民栄養調査成績(以下,調査成績とする)によると,わが国の食塩摂取量は調査開始以来一貫して減少し,1987年には全国平均1人1日当たり11.7gとなったが,その後は増加に転じ,1993年には12.8gとなり1980年ころのレベルに戻った1).食塩摂取量が減少過程にあった1984年から1987年の調査成績2〜5)に世帯の食塩摂取量の度数分布表が公表されたので,さき6)にこれを用いて正規確率紙上で食塩摂取量の年次別および地域別の比較を行い報告した.その後,1988年から1990年調査成績7〜9)には度数分布表が公表されなかったが,1991年から1993年調査成績1,10,11)に再び公表された.

 本稿では食塩摂取量が減少過程にあった1985年から1987年と増加に転じた1991年から1993年の度数分布表を用いて,わが国の食塩摂取量増加の地域的特徴を検討した.

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 平成6年度の地域保健法の成立から平成9年度の完全施行と,保健行政環境は着実に保健所法の時代から地域保健法の時代へと移り変わっている.この流れの中で,保健衛生行政組織の機能は当然新しいものに変わっていくわけであるが,保健所の数は地域保健法のもとでおおよそ半減し,その機能は集約化することから保健所の機能強化という面がクローズアップされている1).筆者は,平成7年度の(財)日本公衆衛生協会主催の地域保健法関連研修において政令市・特別ブロックの保健所機能強化職員研修に参画したが,そのなかで担当した「本庁・保健所・保健センター機能分担のあり方」をべースに,ここでは政令市の保健所の機能強化について機能分担と事業評価の側面から検討報告する.

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 近年,医療の進歩にともなって臓器移植が可能になり,多くの疾患に対する治療として注目されている.しかし臓器移植は単に医療分野における問題ではなく,広く社会的問題となっている.それは背景に移植そのものの倫理的問題に加えて,移植される臓器の確保に関する問題が存在し,またそれは死の定義,すなわち脳死を死と認めるかどうかということと深いかかわりを持っているからである.

 諸外国では脳死を死と認めることについてある程度国民的合意が得られており,多くの国で臓器移植を行っている1).しかしわが国では文化的背景の違いもあって,一定の見解が得られていないのが実情である2)

基本情報

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公衆衛生
61巻4号 (1997年4月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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