公衆衛生 46巻11号 (1982年11月)

特集 期待される保健所活動

座談会

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 長崎 本日はお忙しい中をお集まりいただきまして誠にありがとうございます.「期待される保健所活動」というテーマで,忌憚のないご意見をちょうだいしたいと思います.

 今日,日本では世界に誇る保健所法というものが確立されておりまして,全国で855の保健所があります.都道府県立が651,政令市立が151,東京都23区の特別区の設置が53ということで,都道府県立での活動パターンと,政令市とか特別区でのパターンは,目的は同じでも対応の仕方に差があると思います.この差は地域の実情に合った活動ということで当然あってしかるべきものですから,将来の保健所像を論ずるについても,それぞれのパターンがあっていいのではないかと思います.

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■管内概要

 県東部瀬戸内海の離島に立地する因島保健所は,1島1市の因島だけを管轄し,面積40km2,人口3万9千強のR5型ミニ保健所で,定員17名中,保健婦は精神衛生相談員を兼務し,婦長を含めて3名である.

 因島市は気候温暖,風光明媚を背景に,最近までは,島内交通を中央山地に阻害されていたが,狭い海岸平地に連なる旧9ヵ町村を30年前に合併して,市政を布き今日に至った.

大津市の障害児対策 武元 勲
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 大津市は,滋賀県の県都であり,人口約22万人,面積約304平方キロメートル,琵琶湖の南部を抱えこむような形状で,背面に比叡,比良の山系がある静かな,また風光明媚な街である.この街は,古くから開け,歴史と湖と緑に恵まれた街であるとともに,昭和39年には「健康都市大津」の都市宣言をするなど,住民の健康とくらしをまもる施策においてもいくつかの特徴ある施策を実行している都市でもある.

 障害乳幼児対策大津方式と呼ばれる一連のシステムもその1つである.

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 老人保健法でいうところの機能回復訓練をどう解釈するかは別として,心身の機能になんらかの障害をもって生活している人に対して,それ以下に機能が落ちないように,また少しでも自立度の高い生活ができるよう援助することは,健康老人に対するウエル・エージングのための援助をすることよりはるかに重要である.

 ウエル・エージングを身体面について考えると,図1のようにライフサイクルの上でそれを支える要因と悪影響を与えるであろう要因が数多くあることが想像される.一たび,脳卒中のような,生涯にわたる後遺症をもつ疾患に罹患すると,心身の不活動はたちまち廃用的な合併症を引き起こし,ねたきりへの道をたどってしまう.ねたきり老人が増えることが,本人や家族の苦しみもさることながら社会的にも経済的にも大きな問題であることから,これに対する積極的な施策が必要なことは当然である.いわゆる健康老人も加齢と不活動が原因でその危険がないとはいえないが,運動障害をもった老人の不活動はより危険である.運動障害の原因は何らかの疾患によることが普通であるから,その対策には医学的要素が多く個別的色彩が強くなる.生活の現場でこれらの諸々の問題を解釈するには,現状では医療・福祉環境があまりにも悪い.しかし手をこまねいているわけにもいかないというのも実情である.

遺伝相談 矢橋 弘嗣
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 ここ数十年でわが国の病気は激変した.急性伝染病や結核の減少,ガン,脳卒中,心筋梗塞など成人病の増加,老人患者の激増などがそれである.

 これら疾病構造の変化は,医学の進歩,生活環境の変化,経済水準の向上などによるものではあるが,こうした変化はまた一方,医学や医療の考え方に,さらには公衆衛生行政の進むべき方向にも大きな変化をもたらしている.

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■はじめに

 1)第1の幕あけは,蚊,はえ,蚤,虱の駆除から,急性感染症の防疫対策によって,健康を守ったが,一部は後日,自然環境の汚染となって公害問題を残し,健康阻害の一因となった.

 2)続いて慢性感染症,殊に肺結核が主役の座についた(表1).

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〈社会疫学〉への志向

 人間労働にかかわる理化学的・生物学的因子に関する究明は,もちろん,ますます深く追求されねばならない.それとともに,労働者の健康問題は,単なる生物現象ではなく,その本質として,すぐれて社会現象であり,労働条件,雇用事情,生産関係,社会経済的・政治的諸関係によって規定されているという事実に対する認識を欠いてはならない.

 もともと資本性社会における労働による健康被害は,その本質として,人間労働の労働力・商品化による人間疎外の所産である.資本の論理として〈最大限利潤追求の原則〉は不変充用上の節約から安全衛生投資抑制と労働強化を招き〈合理化〉を必然とする.これらの社会機構的要因こそが,労働災害,職業病を続発させ,さらには広く企業公害や有害商品を生んでいる.加えて低賃金,失業,社会資本抑制,医療保障・社会保障の立ち遅れなども関係して,労働者階級の健康と生活に階層分化を生みだしている.

発言あり

医師過剰時代 y , x , u , w , v
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平均値という物差しでものをいうと……

 国の医師養成対策は目標の昭和60年前にも達せられることが明らかになったという.ただこれは全国各地の諸事情を勘案しない,例の平均値という物差しでものを測るという視点での話である.

 確かに自由主義経済下で,都会指向性の強い医師の多いことが都会地では医師過剰をおこすであろう.しかし全国的には地域間のアンバランスはひどく,人口増加地域や過疎地域では医師不足が日常生活に大きな不安を与えている.2つ目には,医師の専攻科目には時代背景を反映した流行もあってアンバランスが生じている.3つ目には,医師の養成された時期の問題がある.例えば戦時中の軍医養成の医専,女医専等の乱造があった.このため50代後半から60代前半の医師数が比較的多い.近年はまた1県1医科大学を合い言葉に医大を増設し,医学生が無闇と増え,これが医師増に繋る要因となっている.このような次第で医師の年齢構成上にアンバランスが生じている.人口に占める医師の割合が目標を充たしたからと,直ちに歯止めをかけると高齢医師の死亡数が多くなった時期に,その反動として医師数が急激に落ち込むだろう.

研究

へき地医療の現状と課題 井口 恒男
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 「いつでも,どこでも,誰もが」診療を受けられる体制づくりとして,救急医療対策,へき地医療対策,医療保険制度や医療扶助制度等が行政上も強化されつつあり,さらに,高度医療の確保をめざし救命救急センターをはじめとする特殊医療施設の整備も各地域に進みつつある.このうち,「いつでも,どこでも」の医療体制を常に欠き易く,また改善の遅れているのが,へき地であることは論を俟たない.しかしながら,物的人的に限られた医療資源の中で,広大な面積のへき地住民の医療需要を満たすためには,へき地医療を担当する医療施設やその従事者がその機能を効率的に発揮できるよう体系化され,条件整備されることが現実的な対応と考えられる.

 へき地ないし医療過疎地域を考える場合,交通の途絶えやすい離島から道路網の整備されつつある陸地での過疎地等地理的な差違についての考慮も必要であり,また,医師の在不在,医療設備の状況など医療の質的な差違についても考慮する必要があろう.そこで,へき地医療の今後の施策の検討に資するため,岐阜県での現状と課題について紹介したい.

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 わが国では脳卒中が昭和26年以来死亡率の第1位を占めてきたが,その死亡率が近年著しく減少傾向を呈したことにより,悪性新生物が最も高い死亡率を示す時代に至った.悪性新生物はかなり長期にわたる前ガン状態の後に進行し,症状を呈するようになること,発ガン物質による暴露から発症までの潜伏期間が10〜30年に及ぶ例があることなど,非常に長い,しかも症状のない時期を経過して発症することが特微である.疾病の如何を問わずあてはまることであるが,流行病に対してはまず罹患者を治療することであり,最も有効な治療法が駆使される.未罹患者に対しては予防対策を講じるために原因の解明が3つの研究方法,すなわち臨床データの分析,実験的研究そして疫学的研究によりおこなわれる.しかし,悪性新生物の疫学的研究では,前述した悪性新生物の発症に至る経緯の特異性などから,記述疫学による疾病の流行把握を発生率によっておこなうことはきわめて困難である.

 わが国では現在13の道府県でガンの登録事業がおこなわれており,悪性新生物の流行把握に関して重要な情報が提供されている1).この事業を全国に普及することは,悪性新生物の疫学的研究のみならず医療サービスの分析と調整の面からも焦眉の急であるが,一方ではこのような悪性新生物のヒト集団における流行研究を,個々の病気の登録による把握から,患者ごとに病気をリンケージさせての把握へと進めることもきわめて重要である.

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 東京都目黒区目黒保健所では昭和46年4月からアルコール依存者を対象に,当時としては公的に珍しい断酒学級を開設して以来,昭和56年3月で満10年を経た訳である.これは年5コース,1コース4日として,50コース,延べ200日の開催をみたことになる.10年ひと昔というが,当時暗中模索,試行錯誤を繰り返しつつ歩んで来た道程をふり返るとき,今日,国はもちろん地方自治体に至るまでアルコール中毒対策に取り組もうとする姿勢をみると,感無量の思いがある.

 当時の経緯については,私が本誌に2回にわたり発表1,2)したので,重複しない範囲で,ここには10ヵ年のデータを中心に総括してみる.

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 昭和47年10月,厚生省に医療情報システム検討会が設置され,ひとつの柱として僻地医療における情報システム化が進められ,その実用化と遠隔診療システムが導入された1).このシステムによって,医師不在のいわゆる「無医地区」にも医療の供給が可能となったが,経費の負担,法制上の問題2),さらには直接医師の診療をうけるわけではないことに対する住民の心理的充足感の欠如,不安感といった問題も見逃しえない.

 新潟県の粟島ではファクシミリを用いた遠隔診療システムが導入されている.風土,気候,そして交通によって生活が大きく左右されるこの島の医療の状況を,遠隔診療システムの効果と残存する問題点から明らかにすることを目的として調査した.

日本列島

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 岐阜県では県内衛生行政従事者の研修の一環として毎年9月公衆衛生研修会を実施しているが,57年の同会では25題の研究発表と,厚生省地域保健課長古市圭治氏の特別講演が催された.

 特別講演は「今後の地域保健の動向」と題するものであり,前職の老人保健課長として老人保健法制定に尽力された氏の講演として含蓄のあるものであった.今後の保健医療面での確実な動向として,①人口の高齢化と健康な老人の重要性,②緊縮財政と医療費昂騰の抑制,③行政機構の縮小,④保健医療技術の進歩を指摘された.人口の高齢化として40年後は65歳以上人口が21%となり,そのうち75歳以上の11%程度が地域での助けのいる人で,それ以下の老人はヤングオールドとして健康で生産活動に従事する人達となるべきだと説かれ,シルバーエイドシステムを提唱された.それは,自助(self aid),互助(mutual aid),公的扶助(official aid)であり,自助や地域での互助が重要でありながら,現状では非常に不足していることが注目されるべきであろう.また,今後の保健所と市町村での業務の中で,学校保健や職域の保健との連携の重要性,ねたきり老人や痴呆老人の対策,医療相談の強化,精神衛生活動の強化を強調され,医療や福祉の施設や中間施設の機能も含めた総合的なcommunity careの必要性を指摘された.

基本情報

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公衆衛生
46巻11号 (1982年11月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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