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この本には独自性がある.特に,手術の理解に必要なイラストが手順を追ってたくさん描かれていることに驚嘆する.イラストレーターと著者の綿密な打ち合わせなしにはできないことであろう.また,Memo,Tips,Troubleshootingなどのコラムも実践的で役に立つ.特に目をひかれるのは,総論の森田明夫先生の「良性腫瘍の手術適応と取り方」で,これは頭蓋底腫瘍だけでなく,良性腫瘍一般に使える技術である.「どうしたら神経や血管を傷つけずに腫瘍を取れるか?」という微妙な技術を絵で表している.これは,熟練した術者の奥義とも言うべきもので,今までの本にはほとんど記載されたことがないと思う.また,総論では血管解剖やモニタリングの図もわかりやすい.各論で目をひかれるのは,「頭蓋底悪性腫瘍」と「頭蓋底手術の修復」の項目である.頭頚科の角田篤信先生と形成外科の清川兼輔先生の参加で,今までの頭蓋底外科の本ではなかった知識と技術が披露されているのも大いに評価される.頭蓋底外科が両科の参加で成り立っていることをあらためて認識されよう.
一方,改良すべき点もある.経鼻内視鏡手術は各論の2と7にあるが,手術法には現在いろいろなバリエーションがある.しかし,その方法,適応や手術道具が図に紹介されていない.現在,最も興味をひかれている分野なので,総論に別項目としてこれらを図とともに記載したほうがよかったのではないだろうか.もう1つ改良すべきは,各論の髄膜腫であろう.これは,頭蓋底手術の最も重要な部分で,部位によって手術法のバリエーションも多い.長谷川光広先生の担当範囲は頭蓋底全体とあまりに広く,執筆に大変苦慮されたことと思われる.5つの副項目に分類されているが,それぞれの内容が多いので,図や症例を挙げてこれらをすべて1人が執筆することは困難であろう.できれば,寺坂俊介先生の題目のように,これらの項目を別々の著者に依頼したほうが手術法の詳細や症例提示をより詳しくできたのではないだろうか.
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