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Ⅰ.はじめに
厚生労働省がとりまとめている2018年の人口動態統計によれば,わが国における脳血管疾患による死亡率は全体の7.9%に上り,108,165人である4).これらの統計をさらに詳しく年次推移でみてみると,脳血管疾患は1970年をピークに減少し始め,1985年以降は死因の第2位から第3位となり,現在は,悪性新生物,心疾患,老衰に次いで第4位となっている.一方,わが国は超高齢社会を迎えており,その影響は老衰および肺炎による死亡率の増加として統計にも表れている.肺炎の原因としていくつか挙げられるが,大きな要因としては,脳卒中後の嚥下機能の低下による誤嚥性肺炎がみられる8).このように,脳血管疾患による死亡者数および死亡率は減少しているが,その一方で,肺炎などのように間接的に影響を与えている.
脳血管疾患は,脳梗塞あるいは脳内出血やくも膜下出血などのように,血管が詰まったり,破れたりすることで,脳内の血流に異常が生じて発症する.脳血管疾患や心疾患などの循環器系疾患において,疾患の発生や進行,ひいては動脈瘤の破裂などの病状悪化には,血液の流れが密接に関与していることが知られている1,5,7,13).このようなメカニズムの解明には,血液の流れを把握することが必要となる.CTやMRIなどの医用画像診断装置により,疾患の形態を非侵襲で発見し,把握することはできる.また,体内の血流の状態は,phase contrast(PC)-MRIや超音波などにより得ることができる.特に最近では,4D-Flowにより血流とともに,壁面せん断応力などの血行動態を算出することも可能となってきている.しかし,時間・時間解像に限界があることから,詳細な情報を得ることは困難である.
そこで,医用画像と血液の流れの数値流体力学(computational fluid dynamics:CFD)を組み合わせたpatient-specific simulationにより,患者個別の詳細な血流・血行動態の情報を得ることが可能となる9,10,12,14,15).循環器系のCFDは血流を扱っていることから“computational hemodynamics”とも呼ばれており,さまざまなCFD手法および医用データの同化手法の開発および改善により,patient-specific simulationは2000年以降,目覚ましい発展を遂げている.現段階のpatient-specific simulationは実験と比較して,見えづらい現象を可視化することができるとともに,血流の状況を精度よく再現することが可能となってきている.
最近の動向としては,臨床現場への応用に向けて,心疾患を対象としたHeartFlow®にみられるように,高価な診断をシミュレーションに置き換え,医療費の削減に向けて新しい試みがなされている2).実際に,HeartFlow®は診断用プログラムとして,米国,欧州,そしてわが国でも認可を受け,臨床の現場で用いられるようになってきている.
本稿では,脳血流を対象として血流の流体力学的な特徴をまとめるとともに,CFDの基礎を解説する.また,具体的なpatient-specific simulationの例を交えて,脳神経外科分野におけるCFDの可能性についてまとめる.
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