細胞工学 35巻3号 (2016年2月)

特集 分野別・必読論文選考対談:次世代に語り継ぐ論文はどれか?

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曽我 長い間,発がんの根本的な原因は遺伝子変異で,あくまで代謝物はその結果だと考えられていたように思います.ところが近年,代謝物が発がんに関わっていることが新たにわかってきました.1は,2-HG(2-hydroxyglutarate)が発がんに寄与する代謝物であることを見いだし,オンコメタボライトという新たな概念をもたらした論文です.ミトコンドリアのTCA回路にはイソクエン酸からα- ケトグルタル酸( α-KG)に変換するイソクエン酸脱水素酵素IDH-1/2(isocitrate dehydrogenase-1/2)という酵素がありますが,IDH-1/2の変異があると,α -KGではなく2-HGが産生され,α -KG依存性のHIF-1(hypoxia-inducible factor-1)水酸化酵素(PHDs)やTETs(DNA脱メチル化酵素),ヒストンリジン脱メチル化酵素(KDMs)などが阻害されます.その結果,HIF-1の安定化やDNA・ヒストンのメチル化が亢進されて発がんに至ることがわかりました.また,IDH1/2の変異は急性骨髄性白血病(AML)や神経膠腫(グリオーマ)で高頻度に見られることから,新たな創薬標的としてもIDH-1/2,2-HGが注目されています.

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岡野 オバマ大統領が「Brain Activity Map Project」を立ち上げたように,世界中で脳内のすべての神経回路を明らかにする研究が進められていますが,それに欠かせないのがオプトジェネティクスです.その技術を初めて神経系に導入し,神経回路機能を光依存的に制御できることを示したEdwardBoyden博士とKarl Deisseroth博士のNat Neurosci の論文1は重要ですね.2014 年慶應医学賞はKarl Deisseroth博士に授与されましたが,授賞理由の1つにもなった論文です.

器官形成 武田 洋幸 , 高橋 淑子
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高橋 器官形成研究には5つのKey Wordがあります.それは「cell lineage( 細胞系譜)」,「potencial( 分化能)」,「migration(細胞移動)」,「tissue interaction(組織間相互作用)」,「mechanical force(物理的な力)」で,これらのKeyWordに沿って重要論文を挙げました.まず,cell lineage(以下,lineage)に関する論文が1です.脊椎動物の初期発生で神経堤から上皮間葉転換(EMT)して遊走する神経堤細胞と呼ばれる細胞群は,移動しながら様々な細胞種に分化します.その1つに色素細胞がありますが,長年,神経堤細胞は背外側に移動しながら色素細胞に分化するものだとばかり思われていました.ところがErnforsらは,神経堤細胞がじつは腹側に潜水艦のようにいったん潜ってシュワン前駆細胞に分化して,今度はニューロンの上を這いながら表皮のほうに浮いてきて色素細胞になることを見つけたわけです.これまでの通説を見事に覆したビックリ仰天論文でした.

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水島 論文を選ぶにあたって,『確固たるコンセンサスが得られていて,分野外の人も知っておくべき論文』,あるいは『ここ数年以内のブレイクスルーで,今後の飛躍が期待される論文』,どちらを選考基準とするかを考えて,前者を選ぶことにしたので,少し古い論文になってしまいました.福田 テーマが『細胞内分解とオルガネラ』と非常に広いのでまず『オートファジー』,『ミトコンドリア』など,いくつかのトピックに分けてその中から探しました.水島 じつは当初,福田先生はここ最近の新しい論文もリストアップしてくださっていました.

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田中 この10年でプロテオミクスの技術が大幅に進展しましたが,それをいち早くユビキチン研究に導入して網羅的解析を可能にしたのが1のGygiさんのグループです.共著者のHarperのグループのバイオロジーをサポートしていたようですね.当然ながら,どのタンパク質がユビキチン化されるのかは誰しも興味を持っていました.そこで様々なユビキチン抗体が作製されましたが,免疫沈降では濃縮がうまくできなかった.そんなとき1のdiGly抗体[ユビキチン鎖結合タンパク質をトリプシン消化したときに生じる,2つのグリシン(diGly)がリジン(Lys)残基に結合した部分を認識する抗体]が登場し,スペシフィックにユビキチン化タンパク質を濃縮できるようになったわけです.ただ,ユビキチン化酵素群をコードする遺伝子が全ゲノムの3〜 4%を占めることからもわかるように,ポリユビキチン鎖の種類と機能は非常に様々です.2004年にAaronCiechanover,Avram Hershko,Irwin Rose博士がノーベル化学賞を受賞したことでユビキチン研究は一大ブームとなりましたが,やはり1つ1つのユビキチン化タンパク質を追いかけるのはとても大変でした.しかし1は,網羅的な解析を可能にし,技術的な1 つの突破口を示してくれました.ただ実際にそれで新しい現象の発見につながったかというと…….

細胞分裂制御 登田 隆 , 大矢 禎一
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大矢 「細胞分裂制御」研究に関する十数年以内の重要論文を,京大の柳田充弘先生の研究室のご出身で,米国CSH研究所のMichael Wigler 博士のラボで酵母のRasの研究をされた後,その後長い間Cancer Research UKでいくつもすばらしい仕事をされ,2015年の秋に広島大学に戻ってこられた登田 隆先生に選んでいただきました.登田 1980年代のPaul Nurse,Leland Hartwell,TimothyHunt 博士らの細胞周期の制御分子の同定,1990年代に入って94年の平野達也さんのコンデンシン,97年のKimNasmyth博士のコヒーシンの発見に続いて,2000年代の1に挙げた渡邊嘉典さんのシュゴシン(セントロメアのコヒーシンを保護する因子)の一連の仕事につながっていきます.この分野では複数のグループからの論文がside-by-sideで,また同一グループからも連続で発表されることが多いため,TOPICSごとにリストアップしました.

糖鎖免疫 入村 達郎 , 鍔田 武志
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鍔田 バクテリアや原虫といった微生物と哺乳動物で,タンパク質を構成するアミノ酸は基本的に同じですが,糖鎖の形や構成成分は異なります.そのため,免疫系が微生物と自己を区別する際に糖鎖は非常に良い標的となるわけです.また,微生物・哺乳動物どちらも糖鎖は細胞表層に出ているので,互いの最初の接点にもなる.このため,貪食,感染レセプター,細胞接着といった点で重要になります.今回はその糖鎖について,「糖鎖に対する免疫応答(自然抗体,微生物糖鎖抗原への応答)」,「貪食」,「細胞接着」という観点で過去の重要論文を見ていきたいと思います.

基本情報

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細胞工学
35巻3号 (2016年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-3796 学研メディカル秀潤社

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