助産婦雑誌 50巻6号 (1996年6月)

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はじめに

 日頃,母乳育児ケアを行なっていて,母乳育児の第一歩を順調にふみ出すことができるかどうかが,断乳までの経過に大きく影響があることを感じている。

 したがって産褥早期(入院中)に生じやすい問題とその原因(成因)を知ることが大切で,それにより母乳育児に取り組む母親の個別のニードが明確となり,適切なケアを実践することができる。

母乳分泌過多への対応 田中 美知子
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 分娩後の乳汁分泌は徐々に増加し,産後7〜8日目では500ml/日前後の乳汁分泌がある(図1)。しかし,この時期以後,母乳分泌が過剰となり,母乳育児に困難をきたす場合がある。その原因として考えられることには,高エネルギー食,催乳剤の乱用,大量の輸液,過激な乳房マッサージによる乳房への刺激,等がある。特にⅡb型・Ⅲ型(橋口精範氏による分類より)等の乳房では,これらの影響を特に受けやすい。

 その他,特殊例ではあるが,筆者が指導援助をした高プロラクチン血症の褥婦さんで乳汁分泌過多の人がいた。

乳腺炎症状への対応 田中 美知子
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乳腺炎症状の原因

 一般に,乳汁分泌が悪い乳房では乳腺炎はほとんどない。乳腺炎症状は機能が旺盛であるが,管理の悪さ,不摂生などが原因となって,乳汁うっ滞が起こったときに発生しやすい。桶谷式では,乳腺炎の引き金となる因子として,次の4項目をあげている。

 ①授乳間隔の延長,夜間の長寝

 ②高カロリー食のとりすぎ

 ③児の吸啜不良(舌小帯短縮症,舌小帯先方付着,乳輪乳頭の腫脹硬結など)

 ④母親が癒着体質(既往疾患,生活態度,環境などが,乳房基底部を癒着させやすい場合)

母乳分泌不足への対応 伊藤 順子
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はじめに

 助産婦桶谷そとみ姉は,旧満州在住時に,母乳不足のため,しかもミルクが手に入らずに死亡していく児とその母親の悲しみを見かねて,また,「母乳は必ず出せる」との強い信念のもとで,独自の乳房マッサージ法を考案しました。試行錯誤を経て「桶谷式乳房治療手技」(桶谷式の場合は乳房マッサージではなく,手技と称しているので以下そのように記載します)を完成し,多数の母児の母乳育児を成功させてきました。そして桶谷式の体験者の母親の要望に応えて,手技を柱とした乳房管理法を私たち助産婦に伝授して下さいました。最初に私たち桶谷式乳房管理法認定者がこのことに深く感謝していることを知っていただきたいと思います。

陥没・偏平乳頭への対応 朝隈 聖子
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 母乳トラブルで相談にくる母親のうち,陥没・偏平乳頭のため,直接授乳ができないという悩みを持つ人はおよそ2割を占めている。その場合,ほとんどのケースが哺乳ビンでミルクや搾母乳を授乳しているため,乳汁分泌不足を招き,乳房全体の機能が低下している。また陥没・偏平乳頭の人は乳量が多い傾向にあり,乳房緊満,乳腺炎を併発しているケースも多い。直接授乳が可能になっても,ゆがめつぶし飲みで乳頭亀裂や乳腺炎などのトラブルを繰り返すため,時間をかけ根気よく援助しなければならない。私たちの労力のいるところである。母親にとっては児が吸いついてくれないあせりや搾乳による疲労で,精神的にも身体的にも母体の健康を害し,母子関係にも大きく影響をもたらす大変深刻なトラブルである。

 しかし援助の甲斐あって直接授乳が可能になると,幸いなことに催乳徴候が回復しやすいため,母親はすべての問題から解放されたかのように全身が安楽に爽快になり,大きな喜びを私たちまで共有できる。ぜひ,諦めることなく援助したいものである。

乳頭トラブルへの対応 鮎澤 幸枝
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 乳頭トラブルというと,かつては「原因は児の吸い付きが強いためによる擦過傷であり,痛くても我慢して吸わせていれば治るもの」の一言で押し切られていた。しかしトラブルにも一つ一つの顔があり,プロセスがある。最近は直接母乳(以下直母)が絶対条件のように述べられ,指導されることが多いが,「乳首は吸わせるもの」として,問題があるにもかかわらず,ごり押しすることは,トラブルの悪化を招き,二次的トラブルを併発させ,時に母親の授乳意欲を削ぐ結果を招く。また,時としてはトラブルのため,やむを得ず断乳に至ってしまうこともある。

 母親たちに無益な負担を負わせないためにも,母親の訴えに耳を傾け,必ず訴えのある所にはトラブルがあるものと考え,乳房特に乳頭の観察を忘れてはならない。すなわち,「聴く耳と,診る目」を忘れてはならないのである。その上で,適切な診断,そして治療へと移っていくのである。

乳口炎への対応 鮎澤 幸枝
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 乳口炎は乳頭トラブルの中で慢性化すると最も難治な疾患で,時には乳腺炎なども合併させてしまう性質を持っている。そのため,私たちも治療法の確立にあたっては,試行錯誤を繰り返してきた。そしてようやく早期治癒に向けての治療法が確立したので,ここにまとめて報告する。

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舌小帯短縮症は舌癒着症の一つである

 舌小帯短縮症とは舌小帯による舌と口腔底の異常な付着のみを問題とした疾患名であり,これに起因する舌の運動制限が問題とされていた。しかしながら舌小帯短縮症は,舌のみならず喉頭・喉頭蓋をはじめとする上気道の偏位を伴っていることが明らかとなった。現在では舌・喉頭蓋・喉頭偏位症(以下,舌癒着症)症候群として,呼吸障害を主症状とする症候群であることが明らかとなってきた1)

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はじめに

 乳管の開通が悪いと,乳汁の流出が悪く,母親はうつ乳を起こして苦しみ,新生児は哺乳が困難になりやすい。乳管閉塞や流通不全は,乳管洞から乳頭にかけての乳管に起こりやすい。用手乳管開通操作(乳管開通法)で,乳管の開通を促し,乳頭を飲みやすい形に整えておく。乳管開通法からっなげて,搾母乳もスムーズにできるよう指導しておくことが母乳育児指導には大切である。

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 母乳育児を成功させるためには,直接授乳ができるだけスムーズに行なえるよう援助することがポイントである。すなわち妊婦自身の母乳育児に対する意識を高めて積極的に取り組む姿勢を養うことが大切である。それには妊娠中からの乳房ケアが必要となる。母親が前向きに取り組む気持ちを持つことができれば,新生児の吸啜困難のハードルも乗り越えていかれるのである。

 新生児の吸啜困難の原因としては母親の乳頭不良と,哺乳瓶の使用による乳頭混乱,口唇・口蓋裂などの器質的異常によるものが考えられる。それぞれについて述べてみたい。

低出生体重児と搾乳 鮎澤 幸枝
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 最近は早期直接授乳の大切さについて強調されるようになってきた。しかし,早産のため極小未熟児であったり,正期産であっても低体重児だったりと,必ずしも早期直接授乳が可能なケースばかりではない。もし,直接授乳ができなければ母乳分泌量を維持することは不可能なのであろうか。否,そのようなことはない。

 乳汁分泌に関する条件をまとめてみると,表1に示す,アクセルとブレーキという考え方にたどり着く。この中のアクセルのa,b,cのうち,cの直接授乳(以下,直母)が絶対条件のように考えられやすい。しかし,児が保育器に収容されていたり,乳頭トラブルなどのため直母禁にされていたりする場合でも,私たちの施設では搾乳のみで十分乳汁分泌を維持できている。

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はじめに

 妊産婦はだれでもわが子を母乳で育てたいと考え,母乳が十分に出ることを望むが,実際には母乳が出過ぎる人から全く出ない人までさまざまである。私たちはすべての褥婦が母乳哺育に必要かつ十分な母乳分泌量を得ることができないものかと効果的な方法を考え,模索してきた。

 母乳分泌には射乳反射の影響を考慮する必要があり,基本的な乳汁分泌の開始および維持には,乳汁産生に関与するプロラクチンと,射乳を促進するオキシトシンの分泌を調節する視床下部—下垂体系が正常であることが不可欠である。母乳分泌量の個人的な格差は,これらの生理機序を前提として,下垂体から乳頭まで達している,血管,神経,リンパ管の3つの調節経路の障害の程度に原因があるのではないかと考えられる。この3つの調節経路の障害は「肩こり」という症状で現れる。

断乳指導と乳房ケア 浦崎 貞子
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はじめに

 私は桶谷式乳房管理法による母乳相談室(助産院)を開いて8年目を迎えました。それ以前は,公立の病院,保健所,看護学校,その他に17年余り勤務していましたが,そもそも現在の道に導いてくれたのが,「桶谷式の断乳方式」でした。

 桶谷式の断乳の実際を目にしたとき,1歳数か月も母乳を飲んでいた児が信じられないほど,あまりにあっさりと聞き分けたのには驚いてしまいました。「あれ!なんで」と狐に騙されたような不思議な感じさえしました。当時の私は,まだ乳幼児の理解力,認識力,忍耐力などを過小にしか考えてない,今にして思えば誤った見方をしていたのではないかと思っています。

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医師中心から女性中心のマタニティケアへ

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特別寄稿 アメリカ取材シリーズ・1

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 アメリカの母乳事情は,人工栄養大国の時代から見れば大きく巻き返し,好転している。日本と違い多様な民族や階層を呑み込んでいる国なので,道は険しい。が,母乳に対する努力は決して小さくはなく,国の公衆衛生局医務長官は,西暦2000年までに出産直後の母乳率を75%に,生後5〜6か月の母乳率を50%にまで高めるという目標を提言している。

 母乳指導者の新たな資格認定制度も,80年代にいくつか登場している。その中でも権威を持ち,国際的な広がりをみせ,つい最近日本でも受験可能となったものに「国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC International Board Certified Lactation Consultant,以下,ラクテーション・コンサルタントと略す)」という資格がある。この資格認定試験は,1985年,IBLCE(The International Board of Lactation Consultant Examinersラクテーション・コンサルタント資格試験国際評議会)によって開始された。アメリカ連邦政府の資格認定機構委員会(National Commission for Certifying Agencies:NCCA)から認可を受けており,病院でも評価されつつある。

クローズ・アップ

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 助産婦の仕事ほど全世界で共通する職業はないだろう.妊産婦と母子をケアするという,人々に普遍的に必要な役割を担う助産婦は,国境を越えて自分たちの能力を高めるために努力し合っている.

 近代助産婦の歴史はヨーロッパに基礎を置くが,そうした助産先進国の一つ,イギリスから世界の助産婦のリーダーの一人,レズリー・ページ・テームズバレー大学教授が徳島大学の招聘で3月半ば来日,西日本を中心に精力的に講演活動を行なった.

連載 おニューな地球人・50

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 南インドで,のんびり川下りの旅をしていたとき。エンジンの調子が悪く,船は川の真ん中で何度も止まった。船頭はその度に,エンジンを綿の紐で縛って応急、処置をする。目的地に着いたときには,とっぷりと日は暮れていた。

 そんなことは,かの地ではしょっちゅうなことなのだけれど,ヨーロッパの観光客は,2時間も船が遅れたことに腹をたて「乗り継ぎバスに乗る時間がなくなった」と,船頭にかみつく。すると船頭は「かわいそうなお客さん,どこに時間を落としてきてしまったんですかい」

連載 とらうべ

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 わたくしの属している健康科学・看護学科母子保健学教室は,大学院重点化に当たり,国際保健専攻発達医科学となります.母子のみでなく,生涯にわたる発達を取り扱うことを意味します.

 教室は職員,大学院生,研究生,客員研究員から構成され,専門分野も医師,助産婦,看護婦,保健および理学等々さまざまです.

連載 りれー随筆・142

自分を見つめ直して 岡本 雅弥
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生涯の仕事

 この2年間,39年生きてきた中で最高に喜怒哀楽を経験したように思う。

 私が15歳のとき,両親が離婚し,私は母と二人暮しになった。看護婦をしていた母は,「これからの女性は,技術を身につけることが大切。何があっても自分や家族の生活が守れるように将来を考えること」。これが,母の口ぐせだった。将来に向けて確固たる夢を持たなかった私に,耳にたこができるほど言い続けてくれたおかげで,私は助産婦の道を歩み,しあわせな家庭,平和な世の中を作るのは助産婦なのだとまで思うまでになり,そのやりがいを見いだした。そして,15年間病院で多くの経験を得ることはできたが,多くの助産婦が感じるジレンマに私も落ち込んだ。任務中心の業務で助産婦の思うとおりの業務ができないこと,医者との正常産に対する考え方が違うなどの理由により満足感を感じなくなったのである。自分の理想を追えば追うほど仕事をするのが苦痛になり,心身共に疲労し,感受性までなくなってしまう状態になった。

ニュース・プラス・ワン

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就労意欲はあっても

 東京都が新宿駅西口の地下通路からホームレスの強制的排除に踏み切ったのは,1月24日の早朝のことだった。「ただ今より,道路環境整備を行います。寝泊まりしている人は立ち退いて下さい」という都職員のアナウンスを合図に,約2時間以上にわたる警察と支援者,そして当事者であるホームレスとの攻防が始まった。

 JRの新宿駅西口の地下通路への出入り口は封鎖され,一般通行人は地上へと追い出されて何が行われているのかは分からない。シュプレヒコールや警察官,ホームレスたちの罵声が聞こえてくるだけだった。

基本情報

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助産婦雑誌
50巻6号 (1996年6月)
電子版ISSN:2188-6180 印刷版ISSN:0047-1836 医学書院

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