看護研究 51巻4号 (2018年7月)

増刊号特集 看護の未来を創造する アクションリサーチ─人々とともに,人々のために

筒井 真優美
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 看護学の向かう先は,どこにあるのでしょうか?

 看護学の研究における成果は,何をめざしているのでしょうか?

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 1999年,ハンガリーのブダペストにおいて国連教育科学文化機関(UNESCO)と国際科学会議(ISCU)共催による世界科学会議が開かれ,「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」,いわゆるブダペスト宣言が発表された。この宣言は,21世紀における科学の責務(コミットメント)として,これまでの「知識のための科学(science for knowledge)」に加え,「平和のための科学(science for peace)」「開発のための科学(science for development)」,そして「社会における,社会のための科学(science in society, science for society)」という4つの柱から,科学が人類全体に奉仕すべきものであることを提起した。

 アクションリサーチは,まさに「社会のための研究」であり,「人々の健康・安寧に貢献する」という看護学の目的の実現をめざすものである。

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その研究課題はアクションリサーチに適しているのか

 自分の研究課題を明らかにするためには,どの研究手法が適しているのかを吟味することが必要となる。もしそれがアクションリサーチの場合,アクションリサーチで行なう研究には明確な特徴がある。本稿ではその特徴と,アクションリサーチの具体的な方法について述べることとする。

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緒言

 社会心理学者であるK. Lewin(1890-1947)が1946年にアクションリサーチ(Action Research)という言葉を初めて使用して以降,アクションリサーチは教育や地域政策,ヘルスケア分野へと広がり,発展してきた。看護におけるアクションリサーチは1980年代前後になって欧米で始まり,1989〜1994年まで年間2〜5件であった海外の看護研究論文は1995年以降に一挙に増加している(嶺岸,遠藤,2001)。近年,国内の看護分野においてもアクションリサーチは広がりをみせている。そこで,本稿では2008年以降に焦点を当て,看護におけるアクションリサーチについて最新の研究動向を検討する。

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 アクションリサーチの魅力の1つに,それによって現場が変化することが挙げられる。医療現場において看護師は熱心に業務改善を行ない,ケアの工夫を練り,ケアの効果も生み出しており,常に変化が生じているといわれるかもしれない。しかし,その変化が患者のみならず,ケアを提供する当事者にも現われるとしたらどうだろう。変化を生み出すことが一層魅力的になるのではないだろうか。

 筆者は共同研究者としてアクションリサーチに携わり,医療現場にヒューマン・ケアリングな癒しの環境がつくられるプロセスに立ち会う機会を得た。そこには看護師がケア(癒し)されるプロセスがあり,アクションリサーチを行なった成果があると考えている。

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Science (Western Medical)

…science is not the same in all paradigms in terms of (ethics) ontology, epistemology, methodology (and praxis).

〔Lather(2007). Getting Lost. NY: State university of New York Press, p. 164.〕 (parenthesis - author added)

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科学(西洋医学)とは

…科学は(倫理的な)存在論,認識論,方法論(および実践)の面からみて,すべてのパラダイムにおいて同一のものではない.

〔Lather(2007). Getting Lost. NY : State University of New York Press, p.164.(カッコ内は筆者が加えた)〕

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 アクションリサーチには,第2次大戦後からの長い歴史がある。多様な学問のもとでそれぞれの方法を用いて行なわれてきており,それが看護の領域にも導入され,今日注目を浴びている。筆者らの一人はおよそ20年前に,全体論に準拠するMargaret Newman(1994;2008)の「拡張する意識としての健康(health as expanding consciousness)」の理論(以下Newman理論)に基づいたミューチュアル・アクションリサーチ(mutual action research,以下MAR)の理論と方法を発表し(遠藤,新田,2001a;2001b),以来,この方法を用いたアクションリサーチに力を注いできた。本特集でその研究事例を紹介するように求められたことは大変うれしいことである。本稿では,筆者らと同僚とで実施し,すでに出版された事例を含めていくつかを経時的に紹介し,看護研究におけるMARの意義についても触れたい。

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なぜ,研究方法としてアクションリサーチを選択したのか

アクションリサーチがもつ力

 アクションリサーチは,「研究者が人々に対して(on)研究するのではなく,対象の人たちとともに(with),その人たちのために(for),その人たちによって(by)」作業するという特徴をもった参加型の研究形態である。活動(action)に焦点を当てている点では,他の参加型研究とは異なる(Meyer, 2006/矢部訳,2008,p.111)」。そして,実際の現場における問題を明確にし,可能な解決策を探るために行なう協働的介入であり,実践改善の意図をもって始まる研究方法である(Morton-Cooper, 2000/岡本,関戸,鳩野訳,2005)。さらに,自分たちに共通する問題を解決していくプロセスにおいて活発に活動すれば,自らの行為の結果を理解できる考え方や行動の仕方を学習し,よりよい結果を探求するプロセスを継続できる(Kiefer, 2006/木下訳,2010)という特徴をもっている。

 つまり,課題を解決するための変化を生み出す力と変化を起こす可能性を有し,この変化は個々人だけでなく,関係する周囲にも波及する。そして,自分たちの問題を自分たちの力で,自分たちが望んだよい方向へと変化させていく過程や成果を実感できたとき,そのプロセスを継続させたり,他の問題にも活用したりすることができるのである。

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目的

 本稿の目的は,コミュニティにおけるアクションリサーチの現状と課題を明らかにすることである。コミュニティとは,きわめて曖昧な概念であり,使う人によって,さまざまに異なる。一定の地域内に暮らす人びとを指す場合もあれば,価値観や理念を共通にする人びとの集まりを指す場合もあり,その範囲は小さな集落から社会全体,時には地球全体をカバーすることもある。ここでは,共通の言語,文化,伝統をもち,一定の地域内に暮らす人びとを指し,一般に地域コミュニティという用語で示される概念に限定したい。

 筆者の専門である社会学の研究動向を振り返ると,アクションリサーチに近い研究はみられるが,明確にアクションリサーチの手法を用いた研究は皆無に近い。その萌芽的研究としては,1960年代,70年代前半の高度経済成長期に盛んであった産業社会学,および経済成長がもたらすマイナスの影響である水俣病をはじめとする公害研究を行なった1970年代,80年代初頭の環境社会学を挙げることができる。前者では,生産性の向上を狙いとして,企業の経営組織の合理化近代化や従業員の労働意欲を高めるための方策が求められた。その過程においては,従業員に対する聞き取り調査による課題の発見や話し合いによる解決策の模索が行なわれたが,従業員はあくまでも調査対象であり,研究者と対等の関係に立つことはほとんどありえなかった。後者の環境社会学においては,公害に苦しむ患者に寄り添い,ともにその解決策を求める研究者もいたが,公害に苦しむ地域社会はあくまで研究対象であり,患者との協働作業を通じてその解決に向かうという姿勢はほとんどみられなかった。

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ナラティヴ(narrative,もの語り)とは

 ナラティヴ(narrative,もの語り)とは,広義のことばによってもの語る行為ともの語られたものを指す。ナラティヴは,日本語の「物語」よりも広い意味で,「経験の組織化」「意味生成の行為」といってもよいだろう(Bruner, 1990/岡本,中渡,吉村訳,1999)。

 私たちは,日々の生活の中でさまざまなことを経験しながら暮らしている。しかし,起こった出来事を逐一すべて記憶して語るわけではない。例えば,「昨日あったことを話してください」と問われたときに,あなたは,「昨日は,朝にベッドから起き上がって,ふとんを直し,それから洗面所へ行き…」と語るだろうか。「昨日,職場で患者さんが亡くなったのですが…」と語るとき,私たちは,種々雑多な出来事の中から,その場や文脈に応じて「意味あること」を編集している。このようにして,私たちは,経験をもの語りによって編集し,組織化し,意味づけながら日々生きているのである。

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基本情報

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看護研究
51巻4号 (2018年7月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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