増刊号特集 看護の未来を創造する アクションリサーチ─人々とともに,人々のために
コミュニティにおけるアクションリサーチ
袖井 孝子
1,2
1お茶の水女子大学
2東京家政学院大学
pp.375-381
発行日 2018年7月15日
Published Date 2018/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201531
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目的
本稿の目的は,コミュニティにおけるアクションリサーチの現状と課題を明らかにすることである。コミュニティとは,きわめて曖昧な概念であり,使う人によって,さまざまに異なる。一定の地域内に暮らす人びとを指す場合もあれば,価値観や理念を共通にする人びとの集まりを指す場合もあり,その範囲は小さな集落から社会全体,時には地球全体をカバーすることもある。ここでは,共通の言語,文化,伝統をもち,一定の地域内に暮らす人びとを指し,一般に地域コミュニティという用語で示される概念に限定したい。
筆者の専門である社会学の研究動向を振り返ると,アクションリサーチに近い研究はみられるが,明確にアクションリサーチの手法を用いた研究は皆無に近い。その萌芽的研究としては,1960年代,70年代前半の高度経済成長期に盛んであった産業社会学,および経済成長がもたらすマイナスの影響である水俣病をはじめとする公害研究を行なった1970年代,80年代初頭の環境社会学を挙げることができる。前者では,生産性の向上を狙いとして,企業の経営組織の合理化近代化や従業員の労働意欲を高めるための方策が求められた。その過程においては,従業員に対する聞き取り調査による課題の発見や話し合いによる解決策の模索が行なわれたが,従業員はあくまでも調査対象であり,研究者と対等の関係に立つことはほとんどありえなかった。後者の環境社会学においては,公害に苦しむ患者に寄り添い,ともにその解決策を求める研究者もいたが,公害に苦しむ地域社会はあくまで研究対象であり,患者との協働作業を通じてその解決に向かうという姿勢はほとんどみられなかった。
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