Brain and Nerve 脳と神経 58巻12号 (2006年12月)

特集 グリオーマ―最近の治療―

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はじめに

 脳実質内腫瘍を選択的かつ確実に摘除することは脳腫瘍手術の基本理念である。しかし,境界不明瞭な腫瘍の場合にはどの範囲までを切除したらよいのかの判断に困る。特に,グリオーマなど浸潤性格を持った腫瘍においては,色調の違いだけでは正常脳組織と腫瘍組織の識別はかならずしも容易ではない。グリオーマ腫瘍塊の全摘出が生存率向上につながることは周知の事実であり19),腫瘍の存在範囲をいかに的確に捉えるかが患者の予後を決定するといえる。

 この問題を克服するための方法として術中蛍光診断(光線力学的診断:Photodynamic Diagnosis:PDD)が知られている。20世紀はじめから光線力学療法(Photodynamic Therapy:PDT)とともに研究が進められてきたが,悪性腫瘍の検出目的には1948年Figgeら9)の報告をはじめ,さまざまな試みがされてきている。近年,光感受性物質の開発や光源,検出機器の改良などでわれわれの臨床の場での実用性が高くなってきている。ことに,非常に使いやすい5-Aminolevulinic acid (5-ALA)の登場で術中蛍光診断を日常診療で用いる施設が増えてきている。

 ここではグリオーマに対する5-ALA蛍光ガイド下腫瘍摘出術についての基礎,有効性と手術の実際を紹介する。

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はじめに

 現在世界レベルで注目されているグリオーマに対する新しい化学療法といえば分子標的薬であろう。しかしわが国においては一部の薬剤について治験が始まった段階にすぎず,残念ながらいまだ馴染みがない。本稿では,わが国における新しい化学療法であるテモゾロミドについて概説したい。

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はじめに

 20世紀の医療は,feedback controlled management型の医療である。時々刻々変わる手術環境・状況において適切に対処するために,直感的な感や手術経験が生き,神の手とも形容される職人芸の世界が最高でありファインプレーが賞賛される世界でもあった。

 21世紀の医療は,feedfoward controlled management型で,医療の安全性と確実性,治療の質を優先し,リスクを管理すると同時に,リスクを評価しながら実行する先行予測制御型医療である。提供される手術は,客観的な情報に基づくデジタル手術である。当然,戦術的には神の手に代表される治療技術や微細操作技術(マニピュレータ手術・ロボット手術),標的治療技術,精密治療技術が必須であることはいうまでもない。戦略的には手術に必要な医療情報は画像情報とともに統合可視化されて,手術チームに提供され,手術スタッフ間で共有されるのである。事実を先入観もしくは経験で判断する医療から,原子力の世界でよく使われている確率論的安全性評価(PSA:probabilistic safety assessment)の手法に代表される,知識(科学・根拠・データベース)に基づき決断し,実行する(知識があればリスクのある決断も取れる)医療への転換である。

 医療の工程管理を考えると医療ディペンダビリティ(dependability)が重要である。ディペンダビリティとは,対象とするシステムやデバイスの提供するものが,正確で信頼でき安心して利用できることである。手術における術中モニタリングは,ただ術中の環境をモニタリングすれば良いということにはならない。ディペンダブルなモニタリングシステムを構築するには,使用環境が厳密に定義された閉じたシステムではなく,手術環境の変動に対応できる開いたシステムの構築が求められる。

 センシング技術とモデリング技術に関しては,「手術環境」が新たな情報処理対象と要素技術(センシング技術,モデリング(シミュレーション)技術,支援技術)を統合することで,手術環境でセンシングし,モデリングし,支援するという1つのループを完結する。さらに,このようなループを回転させ続けることで,診断と治療の一体化を支えるための技術や知識を医療環境の中で持続的に発展させることか可能になる(表 1)。

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はじめに

 悪性神経膠腫,特に神経膠芽腫は治療抵抗性を示すきわめて予後不良の原発性脳腫瘍である。その平均生存期間は約1年とされ,過去20年間生存率に大きな改善はみられていない。その原因として血液脳関門や薬剤耐性機構の存在などが指摘されているが,最も大きな原因は腫瘍の浸潤性性格にあるといえる。悪性神経膠腫の辺縁は明瞭ではなく,細胞レベルでは画像上の造影域を越え,最低でも周囲脳2cmまでは腫瘍細胞が存在するとされる。そのため腫瘍の造影域を開頭手術により全摘出を行い得ても再発必至であり,放射線・化学療法を組み合わせる必要がある。

 悪性神経膠腫に対する術後放射線治療は,前述のような理由から通常の外照射による分割照射が広く一般的に行われており,照射によって1,2年後の生存率は約2倍になるとされる。放射線を用いた新しい展望として,ガンマナイフやリニアックによる定位的放射線照射,陽子線,重粒子線および中性子捕捉療法などが現在期待されている。定位的照射に代表される局所高線量照射は,あくまで手術摘出困難な部位における残存腫瘍塊に対して,手術の補助的役割を担う治療法であり,いかに正確にかつ均一に線量を局所に集中させたとしても,浸潤性性格の強い悪性神経膠腫に対して治癒は望めない。これらの線量計画は,画像診断を基に治療医が行うもので,開頭手術における術者が摘出範囲を決定するのと同様,辺縁部からの再発は免れない。

 放射線治療の中で中性子捕捉療法は,局所高線量という性格を有しながら,腫瘍を細胞レベルで標的とし,正常脳に浸潤した腫瘍細胞をも選択的に治療できるという“細胞選択的粒子線治療”であり,他の放射線治療とは異なる概念を有する画期的な治療法として注目される。本稿では,現在までにわれわれが行ってきた悪性神経膠腫に対するホウ素中性子捕捉療法 (boron neutron capture therapy:BNCT)を紹介し,その現状と展望について述べる。

総説

ブレインバンク 村山 繁雄 , 齊藤 祐子
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I.なぜブレインバンクが必要なのか?

 脳はヒト進化の最終段階にある臓器であり,いかなる動物実験の結果も,最終的な確認はヒト脳を用いる必要がある。解剖学的に,ヒトに最も近いチンパンジーを用いても,解剖学的構造はいうに及ばず,言語機能をはじめ,ヒト特有の機能は共有できない。

例えば,動物実験で最も用いられる機会の多いマウスにおいては,嗅脳が最も発達しているが,ヒトの相同構造は嗅球であり,ヒト脳全体の中では僅少な部分である。嗅脳には神経幹細胞が存在するとして現在脚光を浴びており,基礎科学者より嗅球を希望する共同研究計画が寄せられている。しかし果たしてヒトの場合,齧歯類のデータがどの程度回帰できるのか,疑問といわざるを得ない。

総説 神経疾患の新DPC―問題点と対応―

1.内科疾患 黒岩 義之
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はじめに

 経済効率と病院との関係であるが,経済効率という言葉がかなり前から医療界に根を下ろし,病院は良質の医療をしていれば,それだけでよいという時はすでに過ぎたといえる。今や,病院は“事業” としての側面を否応なく,担わざるをえない状況である。しかし,医療施設は 当然のことながら企業とは異なり,単なる需要と供給との関係に立つ“事業” ではなく,いかなる場合も実際の患者診療を妨げるものであってはならない1)。 そのような背景の中で,「包括医療」と呼ばれる手順(約束事),すなわち診断群分類に基づいた包括的支払方法が厚生労働省によって提起された。

 言葉の定義についてふれるが,DPC(diagnosis procedure combination)とは,日本独自の診断群分類で病名を優先させた分類であり,これに基づいて急性期入院医療の診断群分類に基づく1日当たりの包括評価制度が2003年に導入された2)。米国ではDRG(diagnosis related group)が採用されているが,これはどんな医療行為をしたのかという処置を優先させた分類である。

 MDC(major diagnostic category) とは,診療科[疾患分野]ごとに分類された主要診断群を意味する。ちなみに,MDC 1=神経系疾患,MDC 2=眼科系疾患,MDC 3=耳鼻咽喉科系疾患,MDC 4=呼吸器系疾患,MDC 5=循環器系疾患,MDC 6=消化器系疾患,MDC 7=筋骨格系疾患,MDC 8=皮膚・皮下組織の疾患,MDC 9=乳房の疾患,MDC 10=内分泌・栄養・代謝に関する疾患,MDC 11=腎尿路系疾患,MDC 12=女性生殖器系疾患,MDC 13=血液・造血器・免疫臓器の疾患,MDC 14=新生児疾患,MDC 15=小児疾患,MDC 16=外傷・熱傷・中毒・異物,その他の疾患と,16のカテゴリーに分類されている。

 筆者は数年前から,厚生労働省政策医療診断群分類研究班・班長(MDC 1領域),厚生労働省保険局医療課の神経内科専門委員,日本神経学会の診療向上委員会・委員,日本神経治療学会の医療対策委員会・委員,日本臨床神経生理学会の保険点数正常化委員会・委員長などの立場で,神経疾患の新DPCに関わってきた3-8)。本稿では,神経疾患の新DPC,特にその問題点と対応について,総論的に解説する。

2.外科疾患 神服 尚之 , 片山 容一
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はじめに

 2003年度より,DPC(diagnosis procedure combination)という診断群分類に基づいた診療報酬の包括評価制度が,82の特定機能病院を中心に導入された。その後,DPCは,試行的適用施設あるいは調査協力施設の形で民間病院に拡大している。今後,これが急性期医療全体に本格的に導入されることが予想され,医療現場に大きな改革をもたらすと思われる。初期のDPCは,医療現場の声が十分に反映されず,実際の臨床において多くの問題点を抱えていた。日本脳神経外科学会は,保険委員を中心にMDC(Major Diagnostic Category)01(神経系疾患)班会議を開き,主に脳神経外科領域のDPCの問題点について,厚生労働省と協議を重ね,改善するよう働きかけてきた。その結果,現行DPCは,初期のものに比べ,多くの点で改善が行われている。しかし,依然として修復すべき点も残されており,早期に改善することが望まれる。本稿では,班会議の内容を参考にしながら,現行DPCの問題点を浮き彫りにし,将来の本格的なDPC普及に向けた対策を検討したい。

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症 例 61歳,男性

主 訴 緩徐進行する右下肢のやせと筋力低下

既往歴 16歳虫垂炎

現病歴 1993年(52歳)と1998年(57歳)に自動車事故で頭部打撲した。2回目の事故の数カ月後から右下肢全体のやせと筋力低下が出現し,つまずきやすくなり,つま先がひっかかるようになった。2002年初頭まで筋力低下は緩徐進行した。精査目的で2002年3月25日当科入院。右下肢に筋萎縮を認めた(大腿周囲径右45 cm,左47 cm,下腿周囲径右24.5 cm,左27.5 cm)。右優位両下肢に痙縮を認めた。徒手筋力試験では右下肢近位筋が5-,遠位筋が1レベルに低下していた。右下肢の腱反射が亢進していた。病的反射はみられなかった。脳神経系は異常なし,両側上肢の筋力低下なし,感覚障害なし,小脳失調もなく,右下肢の純粋運動性単麻痺(pure motor monoparesis:PMM)であった。右下肢の末梢神経伝導検査,針筋電図は異常なかった。

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症例呈示

 主治医 症例は73歳の男性,当院への入院目的はパーキンソニズムのコントロールです。特記すべき既往歴はなく,関連事項は現病歴でお話しいたします。家族歴は,同胞にパーキンソニズムがございます。

 家族構成を図示します(図1)。矢印の男性が今回の症例で,症例2については後述されます。このように,男女ともに兄弟内で発症しています。

 遺伝性,家族歴のあるパーキンソニズムですから両親の血縁関係が問題になりますが,従兄弟,はとこなどの血縁関係はありません。

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
58巻12号 (2006年12月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

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