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はじめに
悪性神経膠腫,特に神経膠芽腫は治療抵抗性を示すきわめて予後不良の原発性脳腫瘍である。その平均生存期間は約1年とされ,過去20年間生存率に大きな改善はみられていない。その原因として血液脳関門や薬剤耐性機構の存在などが指摘されているが,最も大きな原因は腫瘍の浸潤性性格にあるといえる。悪性神経膠腫の辺縁は明瞭ではなく,細胞レベルでは画像上の造影域を越え,最低でも周囲脳2cmまでは腫瘍細胞が存在するとされる。そのため腫瘍の造影域を開頭手術により全摘出を行い得ても再発必至であり,放射線・化学療法を組み合わせる必要がある。
悪性神経膠腫に対する術後放射線治療は,前述のような理由から通常の外照射による分割照射が広く一般的に行われており,照射によって1,2年後の生存率は約2倍になるとされる。放射線を用いた新しい展望として,ガンマナイフやリニアックによる定位的放射線照射,陽子線,重粒子線および中性子捕捉療法などが現在期待されている。定位的照射に代表される局所高線量照射は,あくまで手術摘出困難な部位における残存腫瘍塊に対して,手術の補助的役割を担う治療法であり,いかに正確にかつ均一に線量を局所に集中させたとしても,浸潤性性格の強い悪性神経膠腫に対して治癒は望めない。これらの線量計画は,画像診断を基に治療医が行うもので,開頭手術における術者が摘出範囲を決定するのと同様,辺縁部からの再発は免れない。
放射線治療の中で中性子捕捉療法は,局所高線量という性格を有しながら,腫瘍を細胞レベルで標的とし,正常脳に浸潤した腫瘍細胞をも選択的に治療できるという“細胞選択的粒子線治療”であり,他の放射線治療とは異なる概念を有する画期的な治療法として注目される。本稿では,現在までにわれわれが行ってきた悪性神経膠腫に対するホウ素中性子捕捉療法 (boron neutron capture therapy:BNCT)を紹介し,その現状と展望について述べる。
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