Brain and Nerve 脳と神経 55巻4号 (2003年4月)

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はじめに

 脊髄小脳変性症6型(spinocerebellar ataxia type 6,以下SCA 6,online mendelian inheritance in man:OMIM #183086)は,第19染色体短腕19p13.1に位置する電位依存性P/Q型カルシウム チャンネルα1Aサブユニット遺伝子(CACNA1A;OMIM #601011)の3'-側翻訳領域内CAGリピートの軽度の異常伸長に起因する優性遺伝性皮質性小脳萎縮症である57)。SCA 6は本邦に多い疾患であり,異なる地域からの報告を総合すると優性遺伝性脊髄小脳変性症の30~60%がSCA 6であろうと推定される17,18,32,33,40,49)

 SCA 6の主要な臨床像は緩徐進行性の小脳性運動失調である。しかし,子細に検討すると運動失調のみで経過する群がある一方で,‘めまい'などの付帯症状が目立つ一群のあることが知られている13,14,26,49,50,57)。この付帯症状は他の脊髄小脳変性症では稀であるにもかかわらず,その病態がよく理解されていないこともあり,現在まで十分な関心を持たれていない。そこで,本稿ではこの付帯症状を中心にSCA 6の臨床像を再考し,その発症機序について考察を試みた。

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はじめに

 下オリーブ核複合体は,発生学的に古い背側および内側オリーブ核と,大脳半球とともに霊長類,特にヒトにおいて非常に発達した主オリーブ核からなる。多くの皺壁を持ち腹側に隆起した,延髄において肉眼的に最も目立つ特徴的な構造物である。対側小脳歯状核より同側赤核,中心被蓋路を経て下オリーブ核に終止するオリーブ求心路と,下オリーブ核から下小脳脚を経て小脳皮質と小脳深部核全域に終止するオリーブ遠心路は,いわゆるGuillain-Mollaretの三角という閉鎖型の神経回路を形成し19,30),この三角の二辺でもあるオリーブ求心路の障害の結果生ずる下オリーブ核の肥大性変化は,古くから諸家の注目を集めてきた14,29,46,49)。また,この回路の障害により,臨床的には,軟口蓋ミオクローヌス-現在は軟口蓋振戦と呼称(palatal tremor,以下PT)-が生じるため,myoclonic triangleと称されることもある。下オリーブ核肥大(olivary hypertropy,以下OH)およびPTは,病理学的にも臨床的にも特異的な所見であり多くの議論がなされてきた神経学上の問題点であるが,両者の関連をはじめ,未だ解明されていない点も多い。本稿では,それぞれの研究の歴史と最近の知見,現在の問題点についてPTの発生機序を中心に概説する。

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要旨 目的:日本版日常記憶チェックリスト(EMC)の信頼性と妥当性を検討した。対象・方法:健忘を有する脳損傷患者393例については本人と介護者に,健常者132名については本人にEMCを用いて日常記憶を評価し比較した。結果:患者149例について行ったEMCの検査-再検査信頼性の検討によって介護者評価スコア,自己評価スコアともに信頼性は十分高いことが確認された。介護者による患者評価は同年代の健常者の自己評価よりも有意に高く,かつ記憶検査の成績と有意に相関した。しかし,患者の自己評価は介護者による評価よりも有意に低く,同年代の健常者の自己評価と比べても同等かまたはそれよりも低かった。さらに患者の自己評価スコアと記憶検査の成績との間には有意な相関を認めなかった。結語:EMCは介護者が患者を評価した場合には日常記憶の尺度として有用であるが,患者が自己評価した場合には妥当性に問題があった。

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要旨 「物忘れ」を主訴に外来受診した患者18名に対し,MRI,Mini-Mental State Examination(MMSE),仮名ひろいテストを行い,それぞれの結果の二群間比較を脳血流SPECT検査のthree-dimensional stereotactic surface projections(3D-SSP)解析で検討した。MRI所見では脳萎縮のある群において後帯状回,側頭葉内側部,側頭頭頂連合野に著明な血流低下を示し,アルツハイマー型痴呆に類似する血流低下パターンを示した。MMSEが正常であるにもかかわらず仮名ひろいテストが異常を示す群では,後帯状回から帯状回頭頂葉移行部に血流の低下を認め,さらに仮名ひろいテストとMMSEがともに異常な群になると側頭頭頂連合野,側頭葉および側頭葉内側面に血流低下が加わった。3D-SSP解析を用いることにより,アルツハイマー型痴呆の極く初期変化の血流低下パターンを捉えられる可能性が示唆された。

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要旨 目的:パーキンソン病(PD)において加齢がworking memory(WM)に及ぼす影響を検討した。方法:PD老年群,若年群各11例,健常老年群,若年群各11例でWM課題として暗算,逆唱,短期記憶課題として数唱,visual memory spanを施行した。結果:両群とも数唱,visual memory spanでは,加齢の影響はみられなかった。PD群では,若年より暗算,逆唱の低下が認められ,加齢により暗算のみに有意な低下がみられた。対照的に健常群では,暗算よりも難易度の高い逆唱に加齢による有意な低下が認められた。結語:PDと健常群では中央実行系の加齢による機能低下に異なる傾向がみられた。健常群では,中央実行系の機能低下により課題の難易度に応じたWMの低下がみられたが,PD群では疾患要因の関与により中央実行系の機能低下が,課題の難易度よりも情報処理過程と関連していることが示唆された。

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要旨 亜急性の一側性の多発性脳神経麻痺を呈した56歳の男性を経験した。左側顔面のしびれおよび左側咽頭麻痺による嚥下障害で発症し,経過中に左側の前庭神経麻痺,眼球運動障害,右側眼球内転障害および軽度の意識障害の出現をみた。血液,髄液,頭部MRIなどの諸検査はすべて正常であった。ステロイドパルス療法およびガンマグロブリン大量療法は奏効しなかったが,約3カ月の経過で自然軽快した。意識障害が認められた点やblink reflexの所見から,古典的Bickerstaff型脳幹脳炎を疑ったが,Garcin症候群類似の一側性多発神経麻痺を呈した経過は特異であり,その病態には液性免疫以外の機序も関与している可能性が考えられた。

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要旨 症例は75歳の男性。成人発症の非進行性の振戦様運動とてんかんを家族性に有し,電気生理学的に皮質性ミオクローヌスが明らかにされたことから,familial essential myoclonus and epilepsy(FEME)と診断された。患者は,緊張時や予期しない身体への感覚刺激などで,突然に全身の無動・硬直状態に陥る発作を反復していた。発作時,意識は保たれており,脳波上てんかん波も認められなかった。ミオクローヌスおよびこの無動・硬直発作に対してバルプロ酸が奏効した。患者の第二子にもFEME症状とともに同様の無動・硬直発作が認められた。FEMEは症候群であるが,このような全身の無動・硬直発作を反復した症例の報告はなく,新たな表現形である可能性が考えられた。

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要旨 プレセニリン1(PS 1)遺伝子異常を伴う家族性アルツハイマー病の1家系について,6名中3名(II-1,III-1,2)の臨床経過,画像所見,PS 1とアポリポプロテインE(ApoE)遺伝子検索の結果を示した。臨床経過は3名に共通し,記憶障害,失見当識,健忘失語,人格変化,保続が病初期に,ゲルストマン症候群,ミオクローヌス,全身けいれんが進行期にみられた。頭部CTと脳SPECTは,病初期に側頭葉の軽度の萎縮と前頭・側頭葉の血流低下,進行期に前頭・側頭葉優位のびまん性萎縮と前頭・側頭葉と頭頂・後頭葉の血流低下を示した。6名の発症年齢は,53~55歳(II-1,他)と46~48歳(III-1,2)の2群に分かれた。その理由として,ApoE遺伝子は,II-1(母親)がε3/ε3,III-1,2(子供)がε3/ε4であり,ε4により発症年齢が若年化するgene dose effectの可能性も考えられた。

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要旨 血管解離に起因する後頸部痛4日後に,くも膜下出血(SAH)をきたした解離性椎骨動脈瘤の1例を報告した。症例は46歳男性で,突発する後頸部痛のため他院にてMRIを施行された。明らかな異常は指摘されず経過観察されたが,その4日後に再度,突発する後頸部痛をきたし当院へ搬送された。頭部CTではSAHを認め,脳血管撮影にて解離性右椎骨動脈瘤と診断し,血管内治療による再出血防止を行った。前医にて撮影されたMRIでは,右椎骨動脈に壁内血腫を伴う動脈瘤様拡張を認めたことより,当初の後頸部痛は解離痛であった可能性が強く示唆された。文献では,解離痛のみで発症する解離性椎骨動脈瘤の頻度は7%と報告されている。しかし,その後にSAHを併発する症例の予後は致死的であることより,解離痛のみで発症する非出血型解離性動脈瘤の存在を念頭に置いた頭痛・後頸部痛の原因検索が重要である。

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要旨 頭部外傷後に発症したcranial fasciitisの小児例を経験し,手術摘出により良好な経過を得たので報告する。Cranial fasciitisは1980年,Lauerらにより報告された炎症性頭蓋病変であり,四肢体幹に好発するnodular fasciitisと似た病理組織像を呈する。われわれが検索し得た限りではこれまでに40例が報告されており,小児に好発,骨破壊を伴い,急速に増大するため,fibrosarcomaなどの悪性腫瘍との鑑別がしばしば問題となるが,経過は良好とされ外科的全摘出で再発をみた報告はない。本症例の発生原因は不明とされているが,これまでに報告された40例に自験例を含めて発生原因について検討したところ9例(22.5%)が頭部外傷と関係しており,発症原因の一つとして頭部外傷の関与が示唆された。

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 要旨 鼻出血にて発症した外傷性仮性内頸動脈瘤の1治療例を報告した。症例は53歳男性。交通事故にて搬送され,出血性ショックと左眼失明を伴っていた。輸血などにてショック状態を改善後,MRIにて外傷性仮性内頸動脈瘤の診断のもとに,脳血管写をしたところ,親血管閉塞試験にて陽性所見が得られた。受傷後6日目,Guglielmi detachable coil(GDC)による瘤内塞栓術を施行した。

 脳血管写,MRIにて6カ月間経過観察しているが,脳動脈瘤の増大はなく経過良好である。外傷性仮性内頸動脈瘤は早期診断が大切であり,MRIも有用である。治療は頸部内頸動脈結紮やtrapping,血管内治療による損傷部位の閉塞が基本であるが,親血管閉塞試験にて脳血流の低下や神経脱落症状の出現などの陽性所見が得られた場合,仮性動脈瘤の発生部位によっては瘤内塞栓術が可能な場合がある。

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 症 例 36歳,男性

 主 訴 左顔面の麻痺

 既往歴 特記すべきことなし。

 現病歴 平成13年2月中旬,比較的急速に左眼瞼が垂れ下がり,左口角から水がこぼれやすくなった。麻痺は数日かけて増悪(症状は数日で完成)したため某院を受診した。同院では頭部MRIが施行されたが,明らかな異常所見なしと判断され,臨床的にも急性発症の末梢性顔面神経麻痺であったためBell麻痺と診断された。ステロイド剤内服により治療開始され,顔面のリハビリテーションなどが施行されたが麻痺の程度は全く改善せず,同年11月精査・加療目的で当院に紹介受診となった。

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 患 者 28歳,女子銀行員

 主 訴 前頭部痛,計算間違い頻発

 家族歴・既往歴 特記すべきものなし。

 現病歴 1年前より前額から前頭部にかけての痛みを自覚し始め,徐々にその程度,頻度ともに増してきた。半年前からは職場で,それまでは一度もなかった金額計算の誤りを度々指摘されるようになり,病院受診を進められた。

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
55巻4号 (2003年4月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

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