特集 アディクション支援のフロントライン
マッピングを用いた依存症治療
橋本 望
1
,
兼信 宏恵
2
1独立行政法人 岡山県精神科医療センター
2独立行政法人 岡山県精神科医療センター
pp.46-53
発行日 2025年6月5日
Published Date 2025/6/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt51070046
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Ⅰ はじめに
人は物事を単純化し,少ない労力で問題を解決しようとする認知的倹約家である(Moss et al.,2010)。依存症治療に携わる治療者も例外ではなく,患者が短時間で最大の成果を得ることを期待しがちである。例えば,過去に自助グループへの参加によって治療がうまくいった経験を持つ治療者は,まだ準備が整っていない患者に対しても,自助グループへの参加が唯一の治療法であると考えてしまうかもしれない。しかし,問題解決の際に治療者がヒューリスティクスを用いて直感的に対応したとしても,それが必ずしも成功するとは限らない。人の行動は,直感的な判断以上に多くの要因によって影響を受ける。「○○をやめさえすれば」といった依存行動そのもののみに焦点を当てる治療は,「木を見て森を見ず」の状態に陥る危険を伴う。
本稿では,マッピングを用いた依存症治療について解説する。単純すぎるようにみえるこの手法が秘める力は極めて大きい。特に,関わりを容易にし,広範な生活領域において「見立て」と「手だて」の両方を発見する手助けとなることが最大の利点である。

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