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胸壁上の広い領域に設けた多数の誘導部位から心電図を記録する方法が,心電図(ECG)のマッピングである.心臓の電気現象を体表面上から記録し,心疾患の診断を行う手段としては,現在標準12誘導心電図およびベクトル心電図(特にFrank誘導)が,理論的にも臨床応用の面からも確立され,一般に普及している.しかし一方では,これらの方法の限界も指摘されている.標準12誘導心電図は胸壁上の誘導点が6か所と少ないことに問題があり,ベクトル心電図は心臓の電気現象を空間的に歪みなく表現できるような配慮がなされているが,心起電力を固定した単一双極子であるとする仮定自体にその限界がある.マッピングでは多数の誘導点(35〜400)があり,心臓の電気現象に関するより多くの情報を得ることができ,またWilsonの中心電極を不関電極とする単極誘導心電図から構成されるため,心筋の局所的電位の把握に優れているという特長を持つ.
データの解析法として従来から用いられてきた方法は,等電位図(isopotential map)表現である.これは,ある瞬時における各誘導点の電位をもとにして,等しい電位の点を結び等電位線を作成したものである.一心周期に関し,等電位図を経時的に観察することにより,心臓の興奮伝播,消退過程を推定し得る.マッピングが心疾患の新しい診断法として注目されるようになったのは,Taccardiら(1962,1963)の報告からである.彼らは人体およびイヌにおいて用手的に等電位図を作成し,QRSのある時期に複数の極大および極小電位を認めた.これらの複数の極大,極小は,心臓内の複数の独立した双極子成分が体表面上の対応する領域に影響を及ぼして(proximity potentials)出現したと考えられる.したがって,彼らは,等電位図は心起電力を固定した単一双極子とみなすベクトル心電図や誘導点の少ない標準12誘導心電図では,得難い情報を有することを強調した.
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