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Ⅰ はじめに
筆者は2001年にアルコール依存症臨床を始めた。当時,飲酒問題の当事者が自ら相談・受診に来たがらず,家族が困って相談に来ることが多かった。アルコール依存症治療を始めて経験が浅い筆者にはそういった家族にこたえられる力はなかったが,家族の苦労だけはひしひしと伝わってきた。当院に家族支援として提供できるものは何もなかったので,アルコール依存症について理解を深める機会がまず必要だと考え,2005年から『アルコール家族勉強会』を毎月開催するようになった。当時アルコール以外の依存症の相談がほとんどなかったためにこの名称になったのだが,2009年からはギャンブル問題の相談が増え始め,この勉強会にもその家族が参加するようになり,2011年に『依存症家族勉強会』と名称を改めた。その後はさまざまな依存症の問題に悩む家族が参加するようになった。この勉強会の内容の柱は「依存症について深く理解すること」と「依存症の問題を抱えた当事者に適切に対応するにはどうすればいいか」である。この2つは依存症家族支援に不可欠の課題であり,研究を続けてきた。
その中でも治療に抵抗している当事者に家族はどうすればいいのか? が最大の難問だった。飲酒問題に悩む家族が相談に来ると「本人を連れてこなければどうしようもない」「本人がその気にならないとどうしようもない」と言うか,自助グループを紹介するかしかアイデアがなかった。おそらく当院だけでなく全国的にそうだったのではないかと思う。「無理やりやめさせようとするのはかえってよくない」「小言・説教・世話焼き・後始末はやめましょう」と言われた家族は,では一体どうすればいいのかと途方に暮れていたに違いないが,そういうことを家族相談の中で家族の口からはなかなか言えない。そういう家族支援の内実であった。
家族支援プログラムとしてのCRAFT(Community Reinforcement and Family Training:コミュニティ強化と家族トレーニング)を知ったのが2005年の日本アルコール関連問題学会東京大会であったが,これを学ぶ機会が日本にはなかった。2004年に発行されたロバート・メイヤーズとブレンダ・ウォルフ共著の“Get Your Loved One Sober”を2010年に手に入れて読み始め,本格的にCRAFTを学び始めた(この本は2013年に松本俊彦先生と筆者の監訳で『CRAFT依存症者家族のための対応ハンドブック』として発行された)。2013年にメイヤーズ先生が来日され,徳島でCRAFTの2日半のフルワークショップを開催し,CRAFT開発者から直接研修を受けることができた。2013年から当院でCRAFTプログラムを家族に提供するようになった。実践を重ねながらどうすれば相談に訪れた家族に効果的な支援が提供できるか,日本という環境に合うやり方は何か,試行錯誤してきた。その中でたどり着いたCRAFTの考えを応用した依存症家族支援について説明する。

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