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Ⅰ はじめに
最近10年あまりでアディクション臨床がカバーする領域は急激に広がった。かねてより臨床実践のレベルでは,嗜癖行動に対する取り組みはなされてきたが,それはあくまでも属人的活動にとどまり,標準的な治療・相談体制とはほど遠かった。ところが,DSM-5(2013)やICD-11(2018)において,ギャンブル行動症などの嗜癖行動が,物質依存症(使用症)と同じアディクションカテゴリーにリストされたのを機に,俄然,この分野が注目されだした。なかでも活況を呈しているのはゲーム行動症だ。コロナ禍において感染リスクのないコミュニティとしてオンラインゲームの需要が高まるにつれて,ゲーム行動症の病態や治療に対する関心も高まっているようだ。
しかしその反面で,アディクション概念の安易な拡大を憂慮する声もある。特に,そうした声は,規制科学(依存性物質の依存性や神経毒性を明らかにし,薬物規制の根拠となる科学的知見を明らかにする)の研究者からちらほら聞こえてくる。なるほど,同じ依存対象でありながら,一方はその使用や所持が犯罪となり,もう一方は社会的に許容されている娯楽が,同じアディクションという病態で並列されるのは,確かにさまざまな不整合を生じる可能性は否めないだろう。
今でも覚えているのは,学会におけるある規制科学研究者の発言だ。曰く,「物質と行為を一緒の次元で論じてはいけない。依存性物質はそれ自体が依存性を持ち,一定期間使用していれば10人中7~8人はアディクションの状態に陥る。一方,ギャンブルやゲームなどの行為はそうではなく,一部の人だけがアディクションになり,個人の素因や脆弱性による影響が強い」,さらに,「物質には耐性を形成しながら使用様態をエスカレートさせる性質があり,その結果,使用中断時には手が震えたり,発汗したりといった離脱を引き起こす。しかし,行為にはそのような離脱がない。その意味では,行為のアディクションは凝り性や没頭が行き過ぎた状態として,物質依存症とは峻別すべきだ」と。
しかし,本当にそうなのだろうか?
本稿では,アディクションの領域には存在するさまざまな神話や迷信を取り上げ,今日において妥当なアディクションの捉え方について私見を述べたい。なお,本稿では,依存症とアディクションという用語を,ほぼ同義のものとして扱っていることをお断りしておく。

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