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狭義の炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は,慢性または再燃と寛解を繰り返す特発性炎症性腸疾患である,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)とクローン病(Crohn’s disease:CD)の両疾患を指す。わが国におけるIBD患者数は,特に1990年代から増加の一途を辿り続けている。1958年に日本内科学会宿題報告として当科初代教授,故 松永藤雄名誉教授らにより,わが国におけるUC 259例の報告がなされている1)。その頃から,わが国においても,きわめて稀な疾患から必ずしも稀でない疾患となり,現在では20万例を超えるきわめて重要な難治性疾患の1つとなった。CDについては,1976年に日本消化器病学会クローン病検討委員会で診断基準が定められた。その基準に基づき厚生省特定疾患クローン病調査研究班と炎症性腸管障害調査研究班における2回の集計をまとめ,1983年に当科第2代教授,吉田 豊名誉教授らによりCD 498例の報告2)がなされて以降,患者数が増え続けている。それから約40年経過し,CDは現在7万例近くまで増加している。IBD発症の原因はいまだ解明されていないが,最近の研究結果からは,疾患感受性遺伝子を代表とする遺伝的要因,食事や衛生などの環境要因,腸管粘膜免疫応答が相互的に作用して発症することが最も有力と考えられている3)。遺伝的要因については,人種における差異も重要であり,たとえば欧米で報告された最も有力な疾患感受性遺伝子であるNOD2の変異は,わが国のCD患者では認められない4)。また,比較的均一な人種である日本人の遺伝背景を考えると,遺伝的要因では現状のIBD患者の増加は説明できない。逆に,わが国でのIBD患者数増加の原因となる環境因子が見つかれば,IBD発症のキーとなる要因が解明できると考えられる。一方,近年数多くの研究の成果により,IBD患者における腸内細菌叢が健常人と異なっていることが明らかとなった5)。腸内細菌叢の構成の乱れや偏り(dysbiosis)が,宿主の免疫反応に大きな影響を与えることによって,免疫異常による粘膜障害が引き起こされる。細菌の認識や粘膜バリア機能を司る一定の疾患感受性遺伝子を背景として,食事や生活習慣などの環境要因が加わり,IBD発症に関連する腸内細菌叢dysbiosisが起こる(図1)。腸内細菌叢は,IBD発症における遺伝的要因と環境要因を結びつけるキープレイヤーであることがわかる。では,どのような環境要因がIBD発症の過程に関与しているのだろうか。免疫担当細胞に直接影響を与える因子(喫煙,経口避妊薬,食事,衛生),腸管粘膜バリア機能に影響する因子(母乳,食事),腸内細菌叢dysbiosisに影響する因子(母乳,抗菌薬,衛生,食事)に分類し,考えてみる。「KEY WORDS」環境因子,免疫担当細胞,腸管バリア機能,腸内細菌叢
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