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20年ほど前,「医学モデル」と「生活モデル」の違いが研修会で盛んに取り上げられた時期があった.「医学」と「生活」を対比して,場合によっては「医学モデル」を批判しながら語られる内容に,筆者自身はとても違和感を覚えていた.ご本人の立場から考えるとどちらも必要で「生活・医学統合モデル」が当然なのに,なぜそう対比されるのか,どうしても納得がいかなかった.しかし,ここにきてその分離や対比もやむなし,と感じることがある.それは在宅医療が盛んに推進されてきて,ご本人の「生活」を「医学」の知見を主として指示したり,支援したりする弊害が散見されるようになってきたからだ.「医学」は「生活」に対しては極めて限定的な知見しか見いだせていないということに対する謙虚さが足りないような気がしている.もちろん,「医学」の知見の深化は不可欠でとても大切なものであるが,まだまだ発展途上である.少なくともOTは「生活モデル」を基盤に,医療職として「医学」の知見を「生活」に活かす職種であってほしい.今さらながらそう思いなおしている.
今回の特集で取り上げた「高次脳機能障害」は,日ごろの臨床現場でとても悩ましい言葉のひとつだ.行政用語として日本で使い始められたが,言葉が独り歩きし,今ではあたかも「病名」のように使われることも少なくない.精神科分野でいうと「心神喪失」も同様だ.認知症で使われる「MCI」も決して病名ではない.今回の特集では「後天性脳損傷による高次脳機能の障害」と明示していただき,ライフステージに沿うという難しいテーマを丁寧にまとめてくださっているが,現場に持ち帰る時には,今一度,言葉の定義を確認してほしい.最近では,「発達障害」までも高次脳機能障害と根本的には同じと捉えている研修会に参加したことがあった.脳科学を半可な理解で「生活」に持ち込むことはとてもリスクが高いことだという認識が必要だと強く思う.あくまで「生活」が主たるものであることはゆるぎない.
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