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先日,映画『オレンジ・ランプ』を,主人公のモデルになった丹野智文くんと一緒に鑑賞し,その後,対談させていただいた.彼からは事前に「一切,脚色はなしですから」と聞いていた.私は30年間,同じ地域で,精神科医として多くの認知症の方に出会い続け,診断のあり方,伝え方,医療のあり方,介護サービスのあり方を考えてきた.生活をどこまで支えられるか,その基盤となる地域づくり等,決して妥協せずに,また,常に見直しながら,精いっぱい取り組んできたつもりであるが,映画を観ながらやはり力が及んでないことを痛感させられ,涙がどうしてもとまらなかった.対談では,彼の発する一つひとつの言葉をしっかり受け止めることばかり意識したが,やはり及ばなかった.対談後も数時間は彼を独占して話を聴いた.39歳で若年性認知症と診断され,現在50歳.「当事者を一人でも多く笑顔にしたい」と,懸命に活動し続ける彼の思いに,医療は,福祉は,社会は,どれほど応えられているだろうかとあらためて考えさせられた.大きな覚悟をもって表舞台に立つ彼に寄せられる医療関係者からの声は,決して,賞賛や応援だけではないとのこと.その点においても,医療のあり方を強く問われている気がした.
医療専門職としての作業療法士のあり方の確立は,喫緊の切迫した課題である.今回は医療の専門性を軸に置いた特集となった.臨床においても,老健事業としても,膨大な時間とエネルギーを費やしてきた成果を情報提供いただいた.一人でも多くの作業療法士に,また,他職種や当事者,市民へも情報が届くことを願っている.相互に対話しながら,より,成熟していくことが不可欠だと感じている.医学,認知症の診断治療のアップデートも併せて学びながら考え続けたい.

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