シリーズ ポストコロナ社会を考える—変わるもの,変わらないもの
グローバル保健ガバナンスの問題点をいかに克服するか
詫摩 佳代
1
Kayo Takuma
1
1東京都立大学法学部
pp.368-369
発行日 2021年4月15日
Published Date 2021/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202471
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はじめに
近年のパンデミックに対しては,国際的なリーダーシップや連帯がみられてきた.エイズに関しては2000年以降,2回にわたり,国連安全保障理事会で「蔓延を放置すれば国際社会の平和と安全の脅威になる」と謳った安保理決議が採択された.2014年の西アフリカでのエボラ出血熱の流行に際しては,当時のオバマ米大統領のイニシアティブのもと,国連でサミットが開催され,世界規模の危機に対応するための話し合いが行われた.その後,国連エボラ緊急対応ミッションが設立され,リベリアで展開されていた国連平和維持活動と協力しながら対応に当たった.未曾有の危機といわれ,多くの人命が失われ,経済的損失を伴った危機であったが,米国のリーダーシップ,世界保健機関(WHO)と国連,国連平和維持活動(PKO),世界銀行等,多様なアクターの連携が収束に大きく貢献した.
以上の前例とは対照的に,新型コロナを巡っては米中の対立が対応を巡る協力そのものを困難にしてきた.グローバルな脅威としてのパンデミックには,HIV/AIDSやエボラのように国連安保理決議を通して連帯の基盤を形成することが望ましいが,その安保理も現在では米中,米露の対立により,機能不全に陥っている.
そもそも新型コロナを巡っては協調より対立が顕在化してきた.その背景としては,米中対立,米国のリーダーシップの欠如といった国際政治要因に加え,グローバル保健ガバナンスの構造的問題点も関係している.本稿では,その点に焦点を当てて,どのように改善されるべきかを考えてみたい.
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