連載 作業療法を深める・第54回
グローバル保健ガバナンスの変容と世界保健機関(WHO)
詫摩 佳代
1
Kayo Takuma
1
1東京都立大学法学部
pp.576-580
発行日 2021年6月15日
Published Date 2021/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202539
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
保健医療分野のグローバル・ガバナンス(保健ガバナンス)とは,国家のみならず,国際機関や製薬会社等の非国家アクター(主体)も含み,健康に関するグローバルな課題に,公式・非公式さまざまな方法を用いて取り組む協力体系のことを指す.もともとこの分野の協力体系は,国家間の公式の手続きに依拠していたので,「国際保健(international health)」という呼称が一般的であったが,多様なアクターによって構成される複雑なアリーナと化すにつれ,「グローバル・ヘルス(global health)」という呼称にとって代わられてきた.その保健ガバナンスにおいて戦後,牽引役を担ってきたのが世界保健機関(World Health Organization:WHO)である.
WHOは1948年に設立された国際連合(以下,国連)の専門機関であり,世界中すべての人が,可能なかぎり最高水準の健康を享受できることを目的として,幅広い保健課題に取り組んでいる.しかし,戦後70年の間にWHOを取り巻く環境は大きく変化した.設立当初の重要課題であったコレラやチフスといった課題は,非感染症対策や地球規模のパンデミック対応にとって代わられた.また,保健問題と安全保障,開発,人権等,他分野との境界が不明瞭になるにつれ,世界銀行や国連児童基金(ユニセフ),非政府組織(NGOs)等,保健ガバナンスに関与するアクターは際限なく広がりをみせている.本稿では保健ガバナンスを取り巻く環境の変化に焦点を当てつつ,WHOの役割と課題を俯瞰してみたい.
Copyright © 2021, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.