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はじめに
わが国では,これまで国民皆保険制度とフリーアクセスのもとで,国民が必要な医療を受けることができるよう,整備が進められてきた。その結果,世界最高水準の平均寿命や高い保健医療水準を実現し,国民の健康を守るための基盤整備がなされてきた。こういった水準を維持しているにもかかわらず,2006(平成18)年のデータによると日本の1人あたりの医療費は約30万円でOECD(経済協力開発機構)諸国の19番目であり,さらに医療費の対GDP(国内総生産)比は8.0%と,OECD30か国中22番目1)となっており,いわゆる先進国のなかにおいては最下位となっている。このように日本の医療費は,諸外国に比較すれば決して高いとはいえない。
しかも2000(平成12)年には,WHO(世界保健機関)から,日本の医療保険制度は,191の加盟国のなかで最も優れていると認定された2)。この際に用いられた指標は,①健康到達度,②健康配分,③人権尊重と利用者への配慮到達度,④人権尊重と利用者への健康配分,⑤費用負担の公正さであった。
国際的には,こうした評価を受けているのにもかかわらず,日本の医療は,諸外国に比較して高齢者における社会的な入院による平均在院日数の長さなど,一般的には,マクロ的な効率には優れているものの,資源の投入に比しての生産物の多寡を示すミクロ的効率は劣っているといわれている。
本稿では,ミクロ的な効率最大化行動は,必ずしもマクロ的な効率最大化につながらないことを前提としながらも,個々の病院におけるミクロ的な効率化について言及していくことにする。すでに日本は,マクロ的な効率化については,前述およびWHOの評価が示しているように,一定の評価を得ている。また,昨今の厚生労働省の施策は,ミクロ的な効率化を推進していると考えられる。
そこで,これからのわが国の医療のあるべき姿として,2008(平成20)年に示された社会保障国民会議が示した医療保障制度のあるべき姿と財源問題を含む今後の改革の方向について,概観する。その際には,1人あたりの医療費6401ドル,医療費の対GDP比15.3%で,いずれも世界トップの米国の医療の現状と比較する。
さらに,あるべき姿の医療を達成するためには,現行の病院におけるガバナンスのあり方をどのように変革すべきかについて述べ,今日の病院のガバナンスにとって,とくに重要な看護師長の役割について論じたい。
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