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Key Questions
Q1:認知症の人の生活障害の現れ方は?
Q2:老健で支援する必要のある課題の見極め方は?
Q3:生活支援における老健の強みとは?
はじめに
わが国における認知症の人の数は2018年(平成30年)には500万人を超え,65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症と見込まれている1).このような状況の中,政府は内閣官房長官を議長,健康・医療戦略担当大臣および厚生労働大臣を副議長とし,その他13大臣を構成員とする「認知症施策推進関係閣僚会議」を2018年12月に設置した.この会議では,認知症にかかわる諸課題について,関係行政機関の緊密な連携の下,政府一体となって総合的な対策を推進することを目的とし,2019年(令和元年)6月に「認知症施策推進大綱」を取りまとめた.この基本的な考え方として,「認知症の発症を遅らせ,認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し,認知症の人や家族の視点を重視しながら,『共生』と『予防』を車の両輪として施策を推進していく」方針を打ち出している.ここでいう予防とは,認知症にならないという意味ではなく,認知症になるのを遅らせる,認知症になっても進行を緩やかにするという意味である1).この大綱で示された共生と予防という2つの課題に対して,介護老人保健施設(以下,老健)としては何を行っていけばよいのであろうか.
老健は,1999年(平成11年)の省令の基本方針で在宅復帰施設と定義されていたが,2017年(平成29年)6月改正の介護保険法では,第8条に,在宅支援施設と明記された.なお,在宅支援機能とは,入所サービス,ショートステイ,デイケア,訪問リハビリテーション機能であり,老健には総合的な在宅支援機能を有する“大規模多機能施設”であることが求められている2).全国老人保健施設協会の調査3)では,老健入所者の認知症高齢者の日常生活自立度4)(表 1)別人数では,Ⅲaと判定された方が29.4%と最も多く,次いでⅡbが21.4%となっている(表 2).これに対して,三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が通所リハに関して行った調査5)では,通所リハの開設主体は老健以外にも病院または診療所が含まれているが,利用登録者の33.2%が自立と最も多く,次いでⅠが27.4%となっている(表 2).これらの結果から考えると,認知症に起因する生活の支障に対しては,通所リハでは約4割の人に対して手段的日常生活活動(instrumental activities of daily living:IADL)を中心とした支援が,入所では約9割の人に日常生活活動(activities of daily living:ADL)を中心とした支援が必要になることが考えられる.もちろん,認知症ケアを最も困難にする要因の一つである,認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptom of dementia:BPSD)を改善するための支援も必須となる.
本稿では,ADLより複雑な工程から構成されるIADLに関する課題や支援のポイントを考えていきたい.まず認知症疾患のうち最も多いアルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)の人について,症状の進行に伴って,どのような生活行為の支障が生じるのかを述べたうえで,多機能を有する老健としてどのような支援を行うことができるのか,その中でOTがどのような役割を果たすことができるのかを考えていきたい.
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