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多発外傷の集中治療管理の向上により死亡率は減少したものの,院内感染の発生率は逆に増加してきている。頭部外傷患者の死因では,頭部外傷そのものを除けば感染症によるものが第1位である。外傷患者の感染をきたす危険因子として,外傷の重症度,在院日数,感染侵入の門戸となり得る侵襲的かつ診断的な処置などが一般的に挙げられる。液性免疫,細胞性免疫が外傷の重症度によって低下すると言われている1~3)。
ある三次救急単施設の外傷患者563人における院内感染発症率をみた前向き観察研究2)では,人工呼吸器管理,複数回の手術,複数単位の輸血,脊髄損傷が多因子解析で危険因子として列挙されている。また,24時間以内の手術が感染症発生率を低下させる因子であることが判明している。抗菌薬の予防投与は感染症を低下させる因子となっていない〔オッズ比1.31, 95%信頼区間(CI)0.90~1.91〕2)。後述の予防的抗菌薬投与に詳細するが,不適切な抗菌薬投与は慎むべきである。外傷患者では外傷そのものによる免疫機能の低下,大量の鎮痛薬・鎮静薬の使用,長期のベッド臥床,長期の人工呼吸器装着により,pulmonary toiletingなどの生体防御機構が十分機能せず,各種感染を引き起こす危険度が高くなる2)。
注意すべき外傷後感染症として,開放創や汚染創後のガス産生菌(Clostridium属など)による壊死性菌膜炎,ガス壊疽がある。感染を疑った場合は迅速なデブリドマンやガス産生菌をターゲットにした抗菌薬の投与が必要である。腹腔内膿瘍の好発部位は横隔膜下,骨盤腔,肝周囲であり,臓器・体腔手術部位感染(特に穿通性の腹腔内外傷による汚染による)として起こることが多い。そのほかに一般ICU患者と同様の下気道感染,尿路感染,ライン感染などがある。
感染症対策の基本は感染源コントロールが一番であり,外傷であっても同様に常に感染源の検索がなされるべきである。外傷にprimary survey,secondary survey,tertiary surveyがあるように,抗菌薬にて感染徴候が改善しない場合は常に感染のフォーカスを探す必要がある。本稿では外傷による予防的抗菌薬投与を中心に述べる。
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