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British Journal of Anaesthesia
Correspondence:
Mizobe T. The halothane hepatitis that was not. Br J Anaesth 2020;124:e2-3. doi:10.1016/j.bja.2019.09.018.
■ハロタン肝炎とは?
ハロゲン化麻酔薬による臓器障害というと,メトキシフルランやセボフルラン,エンフルランの代謝で産生される無機フッ素による腎障害,セボフルランとソーダライムの反応でできるコンパウンドAによる腎障害,そしてハロタンによるハロタン肝炎が頭に浮かぶのではないだろうか。セボフルランの腎障害作用は現在,臨床的には問題にならないとされている。さらに,腎障害を引き起こすのは血漿フッ素濃度の高さではなく,腎内で産生されるフッ素イオンではないかと考えられている。
ハロタンは1955年に臨床的に使用されるようになった。その後,ハロタン投与後に,肝壊死を起こし死亡に至るハロタン肝炎の症例が報告された。それを受けて大規模な多施設臨床研究であるNational Halothane Studyが米国で実施された。1959〜1962年に全身麻酔が実施された85万6千例を対象に,麻酔後6週間以内に発症した致死的肝壊死について調査した。致死的な原因不明の肝壊死が起きたのは82例であった。同研究の主要評価項目である各麻酔薬間の比較では,ハロタンによる麻酔とエーテルやシクロプロパン,亜酸化窒素による麻酔との間で肝壊死の発生率には差がなかった。肝壊死は,心臓手術や開頭手術,開腹手術での発生率が高いことや,ハロタンを2か月以内に複数回投与された場合に発生率が高いことが示された。
ハロタン肝炎については,その後も多くの研究が行われたが,その発生率は成人では5千〜3万5千例に1例,小児では8万〜20万例に1例と報告されている。その機序として,ハロタン代謝産物であるtrifluoroacetyl chlorideと肝臓のタンパク質との過敏反応や,抗体産生による免疫反応などが示唆されている。しかし,ハロタン肝炎の機序が免疫反応によるというエビデンスは存在しない。劇症型肝壊死はハロタンだけでなく,イソフルラン,エンフルラン,デスフルランでも,頻度は低いものの発生することが報告されている。
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