症例検討 薬をめぐるトラブル<後編>
巻頭言
稲田 英一
1
1順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座
pp.253
発行日 2016年3月1日
Published Date 2016/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101200523
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- 文献概要
麻酔に使用される薬物は多い。麻酔薬や鎮静薬,筋弛緩薬,オピオイドなどの鎮痛薬など,基本的な薬物は比較的限られているものの,重症例や侵襲の大きな手術となれば,心血管系作動薬,抗不整脈薬,気管支拡張薬,利尿薬,子宮収縮に関係する薬物,血液凝固に関係する薬物など,多くの薬物を使いこなす必要がある。そのいずれもが,強力な作用をもち,使用法を誤れば重大な後遺症を残したり死をもたらす危険がある。投与法も,ボーラス静注のほか,持続静注,経直腸投与,脊髄くも膜下腔や硬膜外腔への投与など,さまざまである。同じ薬物であっても,投与ルートにより,その作用発現は大きく異なる。麻酔中に使用する薬物と術前からの服用薬との相互作用にも注意する必要がある。周術期において薬物投与に関する偶発症例報告の割合が多いのは,これだけの複雑さ故であろう。
薬物をめぐるトラブルを防ぐためには,個人の注意だけではなく,安全性を担保するためのシステムが必要である。麻酔科医交代時のシステマティックなハンドオーバー,口頭指示の回避など,確実なコミュニケーションやダブルチェックは必須である。カラーコード,シリンジへの薬物名・濃度などの記入はその助けとなろう。しかし,十分なシステムを構築し,十分に注意しても,薬をめぐるトラブルは起こり得る。それは,薬は薬物であると同時に毒物であることの宿命である。
本症例検討では,術前の投与薬物,投与量の誤り,誤った薬物の投与などの症例を取り上げ,その対処法とともに予防法についても解説する。
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