症例検討 術中の低酸素血症2
巻頭言
稲田 英一
1
1順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座
pp.27
発行日 2014年1月1日
Published Date 2014/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101102019
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- 文献概要
酸素は生体にとって必要不可欠な物質であり,常に供給されている必要がある。その一方で,酸素は物質の酸化をもたらし,活性酸素を産生するなど,生体にとって有害な物質でもある。そのため,酸素は生命維持に極めて重要な物質でありながら,生体内の備蓄量は極めて少ない。術中,何らかの原因で酸素供給が不十分になれば,ほんの短時間のうちに低酸素血症が生じる。低酸素血症による脳や心臓など重要臓器への酸素供給不足は臓器機能不全をまねき,組織への酸素供給はさらに悪化する。
高度の呼吸器疾患,肥満,脳外傷に伴う神経原性肺水腫など,術前から酸素化が障害されている患者が存在する。胸水を除去した後に再膨張性肺水腫が起きたり,心タンポナーデ解除後に肺水腫が起きたりなど,治療により酸素化が悪化する場合もある。一側肺換気では必然的に酸素化効率は悪化する。中心静脈カニュレーション,陽圧呼吸によるブラ破裂,気管切開や頸部郭清,腎臓摘出術など,麻酔や手術手技に伴う合併症として気胸が起こる場合もある。体位変換や気腹などにより気管チューブがずれて片肺挿管となる場合もある。肺塞栓症や心原性肺水腫,気管支喘息発作,アナフィラキシーなども低酸素血症を引き起こす。このように,術中に起きた低酸素血症の鑑別診断は多様である。
術中の低酸素血症に対処するためには,低酸素血症が起こるリスクを把握し,早期に診断を行い,治療を鑑別診断や緊急度に応じて系統的に行っていく必要がある。本症例検討を通して,自分なりの低酸素血症の診断と治療のアルゴリズムを作成していただきたい。
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