症例検討 肺高血圧症患者の麻酔
巻頭言
稲田 英一
1
1順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座
pp.459
発行日 2014年5月1日
Published Date 2014/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101102124
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- 文献概要
肺高血圧症には,原因不明の肺動脈性肺高血圧症(過去には原発性肺高血圧症と呼ばれていた)のほか,僧帽弁狭窄症や逆流症など弁膜症に伴うもの,心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などの先天性心疾患に伴うもの,慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患に伴うもの,血栓などに伴うものなど,多彩な原因がある。肺動脈圧の上昇により,右心負荷が増加し,右心不全が起こり,さらに両心不全も起こり得る。
肺高血圧症患者の麻酔管理においては,肺動脈圧上昇を避けなければならない。そのため,血行動態管理に加え,輸液管理,呼吸管理も重要である。周術期に肺動脈圧が上昇したら,その原因除去を行うとともに,肺動脈を低下させるために,ニトログリセリンやホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害薬,一酸化窒素(NO)などの薬物療法が必要になる場合もある。肺動脈性肺高血圧症治療には,プロスタグランジン(PG)I2,プロスタグランジン誘導体や,エンドセリン受容体拮抗薬,PDE5阻害薬などが用いられている。麻酔管理には,このような術前管理の知識も必要である。
今回の特集に当たって思い出すのは,留学中に経験した,原発性肺高血圧症診断のためにほんの30分ほどの肺生検を行った後,数日で死亡した患者のことである。ほんのわずかな手術侵襲であっても,致死的になり得るという教訓であった。
肺高血圧症患者の治療における綿密な術前評価と麻酔管理,慎重な術後管理の重要さを理解していただきたい。
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