書評
多様な事例の中に自己を見つける─省察的実践者としての教員の学びを援助する1冊
前川 幸子
1
1甲南女子大学看護リハビリテーション学部
pp.69
発行日 2016年2月15日
Published Date 2016/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201227
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近年,看護系大学が急増し,それに伴う教育の質をどのように担保していくのかが課題となっている。そのためのFaculty Developmentの重要性は周知のとおりであるが,中でも重視したいのは,看護学実習教育である。なぜなら,看護の本質を学生と共に考えるアクチュアルな教育現場が,看護学実習だからである。本書は,この看護学実習におけるパラダイム転換を試みた1冊といえる。それは技術的合理性に基づく医学モデルからの脱却であり,学生が自らの看護実践の経験を通して看護の意味を形成していくことを重視した,「経験型実習教育」なのである。
編者であり著者の安酸は,自らの学生時代の看護学実習経験をもとに,教育・研究者として学生と向き合いながら,一貫して「経験型実習」の必要性を著書や論文を通して唱えてきた。学生の経験を基盤とする教育を推奨するのは,本書が「経験から学んでいく力」を「学力」と位置づけることに起因する。進化し続ける医療界に身を置く看護師が,生涯学習者となっていくためにこの力量は欠くことはできない。つまり,新たな知識の習得だけで看護はできず,「これは看護であるか否か」という看護哲学のもと,患者を中心に据えた倫理的判断に基づく実践こそが看護なのである。そのためには,自らの経験を振り返ることで看護とは何かを学ぶ学習者を育むための「経験型実習教育」が必要なのである。
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