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はじめに
Evidence based medicineやEvidence based nursingは,1990年代の初め頃から提唱され始めた(山川,2013)。現在では専門領域を問わず,Evidence based practice(以下,EBP)の表記が一般的に用いられ,その重要性は広く認識されている(松岡,2010)。私が看護学生で初めてベッドメイキングを学んだときから,看護技術には根拠があり,その根拠に基づいて実施することの重要性を学んだ。そして,看護師として臨床現場で根拠に基づく看護を実践してきたつもりである。しかし,ここでいう「根拠」とは一体何を指すのであろうか。看護技術の教科書に記載されている根拠の中には,研究結果を根拠として挙げている例も存在する。しかし,おそらく個人の経験則もしくは,その技術の手順の目的と思われる記載を見かけることも少なくない。このような個人の経験則などを根拠としてみなしてよいのだろうか。本当の意味でのEvidence,そしてそれに基づいたEBPとは,どのような実践を指すのだろうか。
このような興味をもっていたところに,The Japan Centre for Evidence Based Practice(JCEBP)の翻訳ボランティアという形で,The Joanna Briggs Institute(以下,JBI)のSystematic review(以下,SR)との出会いがあった。翻訳ボランティアでは,SRを臨床家が活用しやすいように,その内容を集約したエビデンスサマリーを翻訳した〔エビデンスサマリーの詳細は,前稿植木(2015)を参照〕。その翻訳活動を始めた当初は,SRに何が記載されているのか,またSRとEBPとの関係性はわからない状態であった。しかし,いくつかのエビデンスサマリーを翻訳する中で,本当の意味でのEvidenceやEBP,そしてSRとEBPとの関係性に気づいた。Evidenceとは複数の研究結果が蓄積され,その内容を臨床家が判断することにより構築される。そして,そのEvidenceに基づいた実践がEBPである。それらの知見を生み出し,世界で共有するツールがSRである。つまり,SRは入手可能で最良かつ最新のEvidenceを導き出すことができ,EBPを実践していく上で必要不可欠なのである。私が看護師として働いていた当時,研究結果が臨床現場でうまく活用されていないこと,そして臨床現場での疑問が研究として取り組まれにくいということから,研究と臨床現場にギャップを感じていた。しかし,SRでは臨床現場での疑問をReview questionとし,複数の研究結果を統合することで,臨床現場での実践への示唆を得る。SRはまさに,研究と臨床現場をつなぐ架け橋であると感じた。
近年,看護分野でも盛んにSRに取り組まれるようになってきた。しかし,厳密な意味でのSRになっていないReviewがSRとして発表されていることが,時折見受けられる(山川,2011)。SRは,単に研究を集めてまとめたものではない。SRの質を保証するために,SRとして統合するだけの臨床的意義のあるReview questionを設定し,訓練を受けた上でSRのプロトコールを厳守することが,SRに取り組む上で求められている。私は,臨床現場での課題を解決できる研究を行なうことを目標にSRセミナーを受講し,SRの方法や厳密性を学ぶ機会を得た。そして現在,かつて臨床現場で抱いた疑問をReview questionとし,量的研究のSRに取り組んでいる。本稿では,その第一段階であるプロトコールの作成方法や,SRに取り組む中で生じた疑問に関して,私なりの考えを述べたい。
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