連載 NIPTと優生思想をめぐって・6
小児外科医師の立場からNIPTを考える—Narrative-based medicineとNIPT
窪田 昭男
pp.792-798
発行日 2019年9月25日
Published Date 2019/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665201361
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多様性について
台湾・高雄郊外に,蒋介石が中国の杭州にある西湖に似せて造らせた澄清湖という湖がある。湖畔には訪れる観光客もない海洋奇珍園という水族館がある。蒋介石が米軍に原子爆弾を落とされることを想定して造らせた核シェルター跡を利用した小さな水族館で,種類は少ないが,大阪の海遊館でも見たことがない珍魚が飼われていた。この珍魚の維持には相当の経費と専門知識が要るように思われるが,この少ない入場者でどうして元が取れるかと聞いてみると,国立だからとの返事であった。蒋介石の遺功であろうか。敵から身を守るために海底の岩に酷似させて微動だにしない魚類,枯れ枝としか見えない珊瑚,ただ目立つために極彩色の帯を纏う魚類,珍奇としか言いようのない長い脚を持つ甲殻類などなど。中国名を控えて帰国後,図鑑で調べたが,どれも見付けることができなかった。
珍奇な生物を観ていて,ダーウィンの進化論の根幹をなす「生き残る種は最も強い種ではなく,最も適応する種である」は間違いだと思った。この驚くべき多様性が過酷な環境の変化に対して生き残るために適応した結果だとはとても思えない。実は,ダーウィンの進化論は生物が環境に適応するのではなく,環境がそれに適する種を選ぶと言っているのである。さまざまに変幻する環境に選ばれるために種は多様性を獲得したのか,CreatorはただCreativeであっただけなのか知る由もない。
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