巻頭言
心臓病診療とNarrative-based Medicine
磯部 光章
1,2
1東京医科歯科大学大学院循環制御内科学
2東京医科歯科大学医学部循環器内科
pp.195
発行日 2015年3月15日
Published Date 2015/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404205650
- 有料閲覧
- 文献概要
心臓病治療の進歩は目覚ましい.致死的疾患を克服し,症状やリスクを軽減し,患者の社会生活を豊かにしてきた.一方心臓病の診療は終末期診療でもある.キュアを目指して来たこれまでの心臓病の医療では解決しえない問題が明らかになりつつある.薬物治療やデバイス治療はますます進歩するであろうが,高齢の患者への適応には必ず限界があろう.さらに治療の選択肢が増えてきたことも現代医療の特質である.人間は死すべき存在である.かつては長寿を求めることが人間の願いであったが,高齢化に伴い,日本人の死生観も変わってきている.健康は望むべきものであっても,長寿とは相容れないこともあることを多くの人が認識している.そのなかで,患者と医師は個々の人間の治療法を選択しなければならない.
社会のなかに置かれた個人にとって健康に起因する問題の発生は,単に身体の問題ではなく,人生そのものと複雑に絡み合い,一体として人間を苦しめる.不整脈にせよ,虚血にせよ,単に電気生理学的な治療,冠動脈の治療では患者の問題は解決しない.統計学的に有効な治療が個々の患者の満足や幸福な人生の実現に寄与しうるか否かは別の問題である.極端に言えば,医学的に最善と考えて行われる治療は,単に医師が満足している医療にすぎないということもあり得る.
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.