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EBM(evidence-based medicine)なしには夜も明けぬといった感のある昨今の医療界であるが,読者諸氏はNBM(narrative based medicine)という言葉をご存知だろうか.最近,医療のあり方や医師と患者の関係などが論じられる際に,しばしばEBMと対比されもるのとして登場するNBMであるが,これは決して新しい概念ではない.1980年代の半ばに医療における“物語”(narrative)の重要性が注目され,それ以降,医師だけでなく看護師,社会科学者,哲学者などを巻き込み,医療を実践していくうえでの1つの方法論として成熟してきたものがNBMである.このNBMを理解するために,最近「ナラテイブ・ベイスト・メデイスン 臨床における物語りと対話」(編集:トリシャ・グリーンハル,ブライアン・ハーウイッツ,監訳:斉藤清二,山本和利,岸本寛史.金剛出版,2001)を読んだ.NBMの導入書ともいえるこの著書の内容は多岐にわたり,一言で要約するのは困難であるが,個々の患者にはそれぞれの“物語り”(narrative)があり,医師はこれを尊重し患者に接する必要があるというのがその基本的な主張である.
現代の“科学として医学”を患者のために用いようとするならば,われわれ医師は患者の“物語り”を抽出して「病歴」という医学化された物語に変換しなければならない.そして,その「病歴」に基づき必要な検査を選択し,これを行い,得られたデータを根拠にEBMの手法にのっとり診断と治療を行っていくのである.しかし,このような手法によってもたらされる弊害として,以前より指摘されていることではあるが,患者不在・データ重視の医療がはびこるという問題がある.データ重視の医療がいき過ぎると,患者は人間として扱われず,個人としても尊重されることはなくなり,場合によっては患者の苦しみが増すことさえある.NBMでは,医師は時間をかけて患者の語る“物語り”を傾聴しなければならない.そして,医師と患者との間に良好な関係が築かれたところで,個々の患者の心と身体両方に目を向けた“patient-centered”な医療が実践されるべきなのである.患者の語る“物語り”は,患者がどのように,どんな理由で,どんなふうに病んでいるかを示すのであって,それは患者のすべての病歴が収められた電子記録カードとは比べものにならないほど多くの情報をわれわれに提供するということを医師は知る必要がある.
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