人間形成の原理と方法
第1部 人間形成の基礎理解(3)
安彦 忠彦
1
1愛知教育大学
pp.220-227
発行日 1974年3月25日
Published Date 1974/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906763
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第3章 人間形成と人格形成
先に人間とその形成に関して種々の研究分野からの理解とその特徴を明らかにし,特にその際整理の視点として‘能動性一受動性’の軸を立てて考えてみた.そして人間が非常に受動的な存在であるとする理論から始めて,より能動的な側面を重視する理論へと検討を進めてきた.これまでみた諸理論から考えると,人間の受動的側面は,動物的自然に属するもので,人間形成の上では非中枢的な低次の部分的妥当性しかもたない性格のものであるのに対して,能動的側画は,より多く人間的自然に属するもので,人間形成上も人間に独自の,より中枢的な部分にかかわり得る重要な役割を果たすものであることが知られる.
後者についてここであらためて整理してみると,‘能動性’については2つの主要な性格が含まれているように思われる.先述したように,教育が‘自然的学習’を‘自覚的学習’へ高める否定的媒介活動である,という定式とかみ合わせて考えると,‘能動性’は自然的学習活動の奥にある‘自発性’と,自覚的学習活動の奥にある‘自律性’との2つを含む概念として把握できる.これらをひとつの言葉で表現するのは,便宜上の理由のほかに,自発性が自律性の成立によって消滅してしまわないものであり,かえって後者によって健全で有効な働きをすることができるようになるという両者が不可分の関係をもち続けるためである.
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