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はじめに
学生の実習指導にあたって,「学生の行動が理解できない」「学生が何を考えているのかわからない」と試行錯誤する場面がある。教員である私は,看護学生にとって臨地実習が,その時その場の状況をとらえ対象を理解しながら学ぶ大事な場だと認識している。教員は,実習ごとに定められた到達度に達しているかを評価するため,学生が実習目標に到達し看護ができる体験となるように指導してきたが,その指導は今から振り返ると,看護が「できたかできないか」という結果を重要視していたように思う。学生のレディネス(準備性)はとらえていても,まさに実習中に学生が何を思い,何を考えていたのか,という視点が薄かった。実習中に気になることがあっても,その場面と評価しようとしている到達度との関連が整理できず,私のなかの「気になる場面」で終わってしまっていた。
教員が学生とでどのようにかかわるかで学生にとっての学びも変わるという意味は,頭で理解できても,具体的に学生の行動の意味を理解する術がなかった。
私は,2013(平成25)年度慈恵会教務主任養成講習会において,現象学と出会った。現象学とは,ひとびとが物事にさまざまな「意味」を帯びつつ,経験されることを「現象」ととらえたうえで,そうした現象がいかにして生じるのか,その経過・成り立ちを,そうした意味現象のいわば手前で働いている教員・学生それぞれの物事のとらえ方(「志向性」)や関心の向けている事柄(「気づかい」)から明らかにする哲学だと教えられた。
そこで,日頃の実習指導場面において,教員が学生の言動で引っかかる場面を取り出し,学生が経験していることを結果から見るのではなく,経過のなかから理解していきたいと教務主任養成講習会のメンバー7人で,アドバイザーとして,榊原哲也先生を迎え,研究会を立ち上げた。そこで,それぞれがもち寄った事例を現象学的にとらえ,経験のなかに埋もれている「志向性」に視線を向け,とりわけ教員の側の「志向性」を明らかにし自覚化することで,学生とのかかわり方も変わるのではないかと考えた。
以下,研究会で討論した事例の一つである。この教員は筆者である。
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