特集 看護倫理を教育のベースラインに
学生とともに学ぶ「看護倫理」
川上 由香
1
1神戸市看護大学基盤看護学領域
pp.286-291
発行日 2010年4月25日
Published Date 2010/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101438
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はじめに―看護学生が倫理を思うとき
「このままでは患者さんがあまりに気の毒だ」「私にできることは何だろうか……」と看護師が考えるとき,患者だけでなく看護師もまた悩み,憤り,やりきれなさを感じている。このような感情は,ただ患者が苦しむ姿を見たから生じるわけではない。患者が置かれている状況を変えられないことや,患者が楽になるようなケアを提供できないこと,すなわち看護師として責務を果たせていないと感じたからこそ生じるのである。これは,実習中一人の患者だけを受け持ち,その患者の意見はもとより,表情の変化まで見逃さないような立場にある学生ならなおさらであろう。
学生の場合,「患者さんが気の毒だ」と感じていても,何が問題なのかに確信が持てず,どうすることもできないことが多い。確信が持てない理由として,知識や経験が未熟であるため状況判断が難しいということがあろう。いや,それよりも未熟であるがゆえに周囲の者に力を借りなければならず,その相手に向かって「これはおかしいのではないか」とは言い難いことのほうが多いかもしれない。学生は「おかしい」と感じていても,郷に入っては郷に従えで病棟のやり方をまるごと受け入れ,結局疑問は口にされないままである。
したがって倫理的問題を解決するためには,まずは学生が感じた疑問を声に出せること,そのとき事実だけではなく学生の気持ちまでしっかりと聴いてもらえることが重要である。他方,人の意見を聴くという行為は知識を増やすだけではなく,いろんな考えや価値観があり,どの考えも尊重されてよいのだということや,たとえ考えが違っていたとしても合意に達することができるのだということを学ぶ機会となる。
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