連載 ケーススタディ—アルコール依存症への理解と援助・4
結核とアルコール依存症—ラベリングから底つきへ
徳永 雅子
1
1東京都世田谷区玉川保健所
pp.65-71
発行日 1992年1月10日
Published Date 1992/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900415
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はじめに
保健所にはビジブル・カードという結核登録管理票があり,発生届が出された結核患者の全ては医療状況,家族の健康状態などが管理されるようになっている。これは保健婦と管理医である医師がその経過を追っていき,必要な事項は記録に残している。このビジブル・カードを読むと,ときに保健婦が訪問したとき酒を飲んでいたとか,肝機能障害を指摘されているとかの記録を見出すことがある。このようなケースは治療を中断したり,治療放置している「焦げ付きケース」と言われている中に多い。今では結核の登録患者数も減少している傾向にあるが,結核とアルコール依存症を合併しているケースは結核も治り難く,アルコール問題への介入も困難である。
長い間このようなケースに対して,保健婦は何をどう働きかければよいのか分からず,管理的思考にとらわれた結核指導だけに終わっていたという歴史がある。昭和50(1975)年代は,まだ地域でアルコール依存症という病気は十分理解されなくて,アルコール問題に介入していくことなど援助スタッフには考えも付かないことだった。不幸なアル中たちは,結核病院と精神病院に入退院を繰り返しており,家族は次第に崩壊し孤独になっていった。彼等の多くは自立した生計を立てることはできず,酒と病気,そして生活保護に依存しながら人生を送っていたのである。
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