Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ニーチェの『ツァラトゥストラ』・2—二種類の天才論
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.1234
発行日 2018年12月10日
Published Date 2018/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201512
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1883年の夏,39歳のニーチェがわずか2週間で書き上げたという『ツァラトゥストラ』(手塚富雄訳,中央公論社)第二部の『救済』という章には,ツァラトゥストラが「不具の乞食の群れ」に取り囲まれる場面がある.この時,せむしの男から,皆の障害を改善するよう求められたツァラトゥストラは,「この種の人間を見るということは,わたしの経験するごく些細なことにすぎない」といいながら,「わたしはもっと悪いもの,そしてさまざまの嫌悪すべきものを,今までも見てきたし,いまも見ている」と応じる.そして,「そのうちの二,三のものは,それについて沈黙していることさえできないほどに厭わしい」といいながら,世間で天才と持て囃されている人物について,次のように語るのである.「ある種の人間は,一つだけを過度に多量にもっているが,そのほかの一切を欠いている,—かれらは一つの大きい目,一つの大きい口,一つの大きい腹等々,それら以外のなにものでもない」.
こうした過度に専門分化した人間を「さかしまの不具者」と呼ぶツァラトゥストラは,かつて人間大の耳を見た時,その巨大な耳の下で動いていた人間は,「小さく,見すぼらしく,やせていた」という.巨大な耳を乗せている細い柄は,「小さい,嫉妬ぶかそうな顔」をした,「はれぼったい小さい魂」の人間だったのである.
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